日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 「心臓」特別号「弁膜症 大動脈弁狭窄と逆流」 > 大動脈弁逆流の原因とその病態
芦原 京美(東京女子医科大学 循環器内科)
Kyomi Ashihara [Department of Cardiology, Tokyo Women's Medical University]
大動脈弁逆流(Aortic valve regurgitation;AR)は大動脈弁の拡張期閉鎖が不十分となり大動脈弁逆流を生じる病態である。その原因として大動脈弁尖そのものの異常によって生じる逆流と大動脈基部拡大によって大動脈弁の接合不良が生じる逆流とに大きく分けることができる。しかし弁尖の異常による慢性の大動脈弁逆流により大動脈基部~上行大動脈の二次的な拡大をきたす場合や、基部拡大による大動脈逆流によって二次的な弁尖の変化をきたすこともある。ARの病態の把握と治療選択には大動脈弁のみでなく大動脈複合体を考えることが重要である。大動脈複合体とは大動脈弁尖、弁輪、Valsalva洞、sinotublar junction(STJ)、上行大動脈から構成される。大動脈複合体の一部、または複数の異常によって大動脈弁逆流が生じる。ARの原因としては以前はリウマチ性がその大半を占めていたが、2001年のヨーロッパの数値では変性が50.3%で一番多く、次いでリウマチ性(15.2%)、先天性(15.2%)、感染性心内膜炎(7.5%)、炎症性疾患(4.1%)、その他7.7%と報告されている。
ARは経過から急性と慢性にわけられるが、無症状の期間が長い慢性ARではその手術適応の決定に苦慮することが多い。急性大動脈弁閉鎖不全症では緊急手術を含めた迅速な判断が必要とされる。慢性ARでは無症状で経過する期間が長く心機能の低下とともにその予後が悪化することから正確な診断と予後を踏まえた治療方針決定が重要な疾患である。
上段:経食道心エコー図長軸像。大動脈弁逆流を認める。
下段:経食道心エコー図短軸像。
大動脈弁逆流の起点は大動脈弁中央でなくAで左房側、Bでは右室側に寄っており、逆流が偏位しているのがわかる。これが二尖弁による大動脈弁逆流の特徴の一つである。弁葉数がはっきりしない場合、この偏位した逆流によって二尖弁を疑う根拠となる。
短軸像Aでは二尖弁でも縫合線(raphe)がないが、Bではraphe(矢頭)を認める。
LA:左房、LV:左室、Ao:大動脈
A:経胸壁心エコー図、B:経食道心エコー図
A上段:経胸壁心エコー図長軸像で拡大したvalsalvaが洋ナシのような形態をしている。
A下段:経胸壁心エコー図心尖部3腔像。大動脈逆流を認める。
B上段:経食道心エコー図長軸像で拡大したvalsalvaを認める。大動脈弁逆流は中央から認められ、弁接合の中心の接合が不良である。
B下段:経食道心エコー短軸像。弁は三尖だがバランスが不良で中央に小さな隙間があるのがわかる。ここから大動脈弁逆流ジェットが認められる。
LA:左房、LV:左室、Ao:大動脈、NCC;大動脈弁無冠尖、LCC;大動脈弁無冠尖、RCC;大動脈右冠尖
LA:左房、LV:左室、Ao:大動脈
上段:経食道心エコー図長軸像、下段:経食道心エコー図短軸像。
大動脈弁位工弁置換術が行われている。大動脈弁周囲左房側に無エコー域(矢頭)を認める。仮性瘤を形成していると考えられる。この部分には収縮期に血流信号が認められる。下段の短軸像では無エコー域は弁輪2/3周におよんでおり、時計でいうと8時~2時方向に広範囲に認められる。この症例はベーチェット病による大動脈弁閉鎖不全に対し弁周囲補強おおよびステロイド内服を併用して弁置換を行ったが、術後約1年で高度房室ブロックが出現した。刺激伝道系が弁周囲仮性瘤によって障害されたためにブロックが生じたと考えられる。
LA:左房、LV:左室、Ao:大動脈、RA;右房