日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 「心臓」特別号「僧帽弁狭窄と逆流」 > 心エコーによる僧帽弁狭窄の重症度評価と問題点
飯野 貴子(秋田大学大学院医学系研究科 循環器内科学・呼吸器内科学)
Takako Iino [Department of Cardiovascular and Respiratory Medicine, Akita University Graduate School of Medicine]
僧帽弁狭窄症(mitral stenosis;MS)は、幼少期に罹患したリウマチ熱に起因するリウマチ性弁膜症の一つである。主な原因であるリウマチ熱の減少により、MSの患者数は激減すると考えられてきた。しかし、高齢者や透析患者において、僧帽弁輪石灰化の進展による僧帽弁口の狭小化が原因のdegenerative MSが増加し、近年、改めて注目されている。その診断、重症度評価のみならず、経皮的僧帽弁交連切開術(percutaneous transluminal mitral commissurotomy;PTMC)、僧帽弁置換術など侵襲的治療の適応を考えるうえで、心エコー図検査は中心的役割を果たす。
本稿では、心エコー図検査によるMSの重症度評価について概説するとともに、それぞれの評価法の問題点についても言及する。さらに、PTMCの適応を考えるうえでの心エコー図診断のポイントについて述べる。
断層法で、僧帽弁尖の肥厚・石灰化、前尖のdoming、弁下組織(腱索、乳頭筋)の肥厚・短縮、弁輪部の石灰化、交連部の癒合などについて観察する。
3D経食道心エコー(MPR法)により、MVA評価に適切な断面を描出することが可能となる。上段の直行する2断面により、弁尖先端にそれぞれラインをひく。それにより描出された短軸断面(下段左図)を拡大し、僧帽弁が最大に開口するタイミングでトレースする。
60歳代男性、30年以上の血液維持透析歴がある症例の僧帽弁レベル短軸像(左)、心尖部アプローチ長軸像(右)である。前尖の石灰化は目立たないが、後方の弁輪部が広範囲に石灰化している。
本症例は、プラニメトリ法でMVA1.13cm2と算出された有症候性MSである。前交連の石灰化、癒合がみられるが、後交連の癒合はみられない。Wilkinsスコア11点であることからも、PTMCは不適と判断した。