日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 日本心臓財団刊行物 > 月刊心臓 > 編集後記
どんな心臓外科医と一緒に仕事ができるかは、循環器内科医の診療活動内容に大きく影響する。個人的な経験を紹介すると、鈴木章夫先生が順天堂においでの頃は、私はまだ学生だったが、ICUで大勢の医局員に囲まれながら回診されていた姿を覚えている。直接一緒に仕事をしたことはないが、術後の造影で10年以上経っている静脈グラフトがきれいに流れているのを見てさすがと思った。細田泰之先生が、Kalamazooから虎の門病院に帰ってこられた時は、伏在静脈を採取する前立ちをしたあと、第2助手を務めるのが循環器内科医の仕事だった。静脈グラフトのintermittent sutureの糸の幾何学的模様の美しさに感動したが、それが長期の開存性につながる事を長期予後調査で知ることになった。天野篤先生との出会いはsequentialにつないだ彼の動脈グラフトの術後造影の見事さに感心した時から始まる。順天堂にこられてから、その技術の背景にはとてつもない経験と工夫と、そして徹底的な追求心がある事を教えられた。
心臓51巻1号では低侵襲の心臓外科手術が特集されているが、この領域が急速に変化していることを実感させる術式が紹介されている。Structural Heart Diseaseのカテーテル治療が大きく進歩する中で、心臓外科も外科医の努力によって着実に進化していることは患者さんにとって大きな福音である。一緒に働いている循環器内科医もまた幸運だと思う。
(代田浩之)
今年は、雑誌「心臓」にとって記念すべき第50巻であった。1969年に創刊された和文誌「心臓」の50年の歴史が、わが国における循環器診療の50年の歴史と深く重なることは言を俟たない。編集委員の想いも込めて、HEART's Selectionの1号~7号では「循環器疾患診療50年を振り返って」と題して、虚血性心疾患、不整脈、心不全、弁膜症、高血圧、心筋疾患、先天性心疾患の歴史を取り上げ、略年表もまとめた。8号~11号では50年の歴史を踏まえて将来の方向性を示す「循環器疾患診療のFuture Topics」を血管疾患、心臓血管外科、循環器救急、循環器疾患イメージングについて取り上げた。これが循環器診療の新たな旅立ちの一里塚となることを期待したい。
循環器診療の50年を振り返ると、有名人のエピソードを契機に循環器診療が注目を浴びた話が多々思い浮かぶ。1980年、時の大平正芳総理大臣(70歳)が虎の門病院へ急性心筋梗塞で入院し、亡くなったのもその代表例である。総選挙の公示当日、第一声を挙げた後に気分不良となり緊急入院。一旦は落ち着いたが、13日目の未明急変して死亡。山口洋先生が1973年に虎の門病院に赴任され冠動脈造影法は広く行われ始めていたが、急性心筋梗塞に対する積極的治療は未だであった。Rentropのストレプトキナーゼによる冠動脈内血栓溶解療法の報告が1979年であり、わが国でウロキナーゼ冠動脈内注入法が行われ始めたのはこの大平事件の後であり、HartzlerがPTCAの再灌流療法としての有効性を報告したのは1983年である。その後のわが国の急性心筋梗塞に対するPrimary PCIの普及ぶりは目を見張るものがあるが、1980年には為す術がなかったのだ。
心房細動による心原性脳塞栓症のエピソードには事欠かない。1985年の田中角栄元首相(66歳)に始まり、2000年の小渕恵三首相(62歳)、2004年の長島茂雄巨人軍名誉監督(68歳)などなど。この方々がワルファリンを服用していたという話は勿論ないし、ワルファリンによる抗凝固療法の抗血小板薬に対する優位性が確立して、心房細動による心原性脳梗塞の予防に関する啓発活動が高まったのもこれらのエピソードの後である。
新しい診療法の普及が、医学的な活動だけではなく、社会での出来事にも大きく影響されることは明らかであり、また積極的に社会へ働きかける必要性も認識しなければならない。循環器診療の将来像として挙げられているAIの活用、iPS細胞による再生医療、ロボット手術、Precision Medicine、アンチエイジング治療なども、どんなエピソードを契機に一気に広がるのであろうか、目が離せない。
(山口 徹)
「心臓」創刊50周年記念のHEART's Selection特集も終わりに近づいた。今回は画像診断をテーマとした。循環器イメージングのFuture Topicsとして、5名の新進気鋭の先生方にご寄稿をお願いした。循環器診療における画像診断の重要性は高く、我々は多くのモダリティを日常診療に利用している。近年の画像診断の進歩は著しく、より高解像度で鮮明に、より非侵襲的に、そしてstructural heart diseaseをはじめとする新しい治療法に必須のものとなっている。
FFRガイドPCIの有効性が大規模臨床試験で示され、虚血を機能的に証明することの重要性が再認識された。FFRの測定は冠動脈内にガイドワイヤーを挿入する侵襲的なものであるが、現在ではCTで近似する値を求めることができる。冠動脈プラークの性状は冠動脈内にIVUSを挿入して評価するが、MRIで非侵襲的に判定できるようになった。心筋性状は生検標本に替わり、まだ克服すべき課題はあるものの、MRIでファブリー病、アミロイドなど評価可能である。TAVIの実施施設は増加し、急速に普及しているが、術前CTは必須の検査となっている。また、MRに対するカテーテル治療が開始されたが、術中のTEEでのモニタは欠かせない。
一方で、我が国の人口あたりのCT、MRI装置の台数は世界一である。医療費、被ばく、被験者の身体的・精神的な負担を考慮し、最適な治療を行うために、最適なイメージングの選択が、我々に求められていることを改めて認識したい。
(竹石恭知)