日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 日本心臓財団刊行物 > 月刊心臓 > 編集後記 > 2015年

月刊心臓

編集後記 (2015年)

2015年12月号

 2014年度の日本心臓財団佐藤賞は東京大学の赤澤 宏先生が心血管系におけるストレス応答と疾患形成の分子機序というテーマで受賞された。本号では赤澤先生が心筋にとっての様々なストレスに対する心筋の適応と破綻のメカニズム、さらにその細胞増殖や再生能について特集を組まれている。
 ところで、佐藤賞は日本心臓財団が故佐藤喜一郎初代会長の追悼記念のために、日本循環器学会の協力を得て,1975年に設けたものである。「日本心臓財団」は1970年設立され、初代会長に佐藤喜一郎氏、副会長に美甘義夫先生が就任して経済界と医学界が協力してこの財団を支えることが約束され、その体制は現在も続いている。佐藤喜一郎氏は三井銀行から帝国銀行頭取に就任し、戦後三井銀行に戻り社長、会長、相談役を歴任し、三井グループの総裁として活躍、戦後の財閥解体などの事業にも主導的役割を果たした人である。海外の赴任生活が長く、欧米と同じようにわが国においても脳卒中、心臓血管病を制圧するための民間団体を設立することに理解があったのではないかと思われる。医療の領域でどのような考えがあったかは明らかでないが、経済の専門家としての発言で、医学に関連するものとしては、"普通の人が健康を害するのは、多くの場合長い間の小さな不養生の積み重ねから来るので、怪我などとは違う。病気になったからといって、一気に治そうとすることは虫がよすぎる話で、やはり同じくらいの期間をかけて根治さすのが自然の摂理のように思う。2、3年の積み重なった経済のひずむでも、一気に吹き飛ばそうとするのも無理を生じやすいであろうと思われる。"というのが残されている。
 最近の日本の経済状況を見たら、なんと言うのだろうか。
                             (代田浩之)

2015年11月号

 今月のHEART's Selectionのテーマは高齢者である。我が国の高齢化率も26%を越え、80歳以上も1000万人を越えた。高齢者へ提供される医療に関わる課題は沢山取り上げられているが、同じ高齢者問題でも、医療を提供する医師の高齢化が取り上げられることは極めて少ない。
 医師不足のせいで、医師の世界は何歳になっても引く手数多で、その気があれば何歳までも医療提供者として働くことが出来ると言われている。しかし、その高齢医師の医師としての能力が評価されるという話は聞かない。引き合いに出されるのは、車の運転免許である。交通事故を起こした認知症をもつ高齢者の運転免許取消しがマスコミを賑わしている。70歳以上の運転免許証の更新に際しては、高齢者講習で実車運転があり、いわゆるペーパードライバーは免許を返上するしかない。更に、75歳以上では予備検査で認知症のチェックが行われるのだ。医師といえども認知症と無縁とはゆかない筈だ。  
 医師免許の更新制も医療事故と絡んで時々話題になる。アメリカでは、医師免許を与えている州が2,3年毎の免許更新を義務づけているし、ヨーロッパでは最新の医学や技術を学ぶ生涯教育が義務づけられている。何の強制力もない、日本医師会の生涯教育とは全く異なるものだ。全ての医師の免許を更新制度でチェックする必要があるとは思わないが、高齢者については、医師としての実務能力を何らかの形でチェックする事も必要ではなかろうか。高齢医師による医療事故が医療不信問題を再燃させかねないことを懸念している。
 一方、これからの高齢化社会では、年齢に関わりなく働き続けることができるための環境整備も課題の一つとされている。新専門医制度では、専門医の更新には診療実績、最新医学の研修実績を証明するものを提出することが義務づけられている。医師の高齢化とその専門能力の確認についても、正面から問題を取り上げるべき時期にきているのではなかろうか。
                              (山口 徹)

2015年10月号

 心電図は最も広く臨床応用されている検査法の一つで、最近のほとんどの心電計では、記録終了とともに、内蔵された解析プログラムによる自動解析結果および自動診断所見が即時に表示される。大変便利な機能で、臨床現場において各科の医師がさまざまな医療行為を行うに際して、この自動診断所見を診療の一助としている可能性がある。心電図を専門としない医師も広く利用することから、読み落とし(偽陰性)が少なくなるように解析プログラムが組まれているが、本来はより高い解析精度と適切で正確な診断が求められるべきである。しかし、実際には多くの未解決あるいは改善の必要な問題点が存在するまま、根本的な検討はこれまでなされてこなかった。
 このような現状のもと、心電図自動診断に関する現時点での様々な問題点を把握・整理し、それぞれの改善策を幅広く討議することが喫緊の課題であるとの認識が高まっていた。そこで、心電図自動診断の精確性と信頼性ならびにそれに基づく臨床的有用性をさらに高めることを目的に、有志の集まり「心電図自動診断を考える会」が最近発足し、具体的な活動が開始された。
 発足時のメンバーとして、これまで心電図自動診断の開発・普及に直接かかわってきた医師・研究者に加え、心電図自動診断を用いる機会の多い健診業務等にかかわる医師・関係者、心電計メーカーにおける自動診断プログラムの開発者・技術者などが幅広く参加している。この会において、それぞれの立場からの問題点・疑問点を持ち寄り、有意義で建設的な意見の集約が図られる予定である。また、抽出された問題点・疑問点に関する改善・解消策や、より高い有用性の獲得に資する具体策が見出された事項については、随時関連学会での発表や学術論文を通して広く社会に公表し、心電図自動診断の実効性のある利用価値の向上を図ることを目指している。
 心電図検査の臨床現場での有用性をさらに高めるための新たな取り組みに、各方面からの期待が集まっている。 
                                  (加藤貴雄)

2015年9月号

 今月の特集Heart's Selectionは、最近の傾向である成人先天性心疾患(Adult CHD)診療の増加に時宜を得た内容です。
 昭和40年代後半から50年代前半のCHDへの外科手術の黎明期とは異なり、最近の小児期CHD外科手術のRiskは2-3%で、多くのCHD小児が成人期へtransitionできる。しかし一般に、物心ついたころから思春期まで慣れ親しんだ子供が、高校や大学を機にすぐに成人循環器外来に紹介されるのには戸惑いがあるらしい。必ずしも移行すべきとは言えない部分もあろう。生直後から苦楽を味わい喜怒哀楽を共有してきた親と小児科医の二人三脚の思い出も多々ある。
 20種類近くもある多彩なCHDで、"複雑型で 疾患同士がバランス"を保って循環が維持されている事もある。個々の病態に加え術後慢性期の合併症の種類も特異的だ。成人循環器の病態も勉強している小児循環器医か、先天性心疾患の特異さを逆に面白く感じる循環器内科医が、共同で症例の診療にあたるのが一番良いのではないか。一診療科ではベストの医療を提供できない事も多い。患者の歴史もひも解かなくてはいけない。
 循環器内科の先生に解り易いACHDの分類がないこともとっつきにくい理由の一つだ。多いのは術後の問題点;難渋する不整脈管理、術後狭窄、心筋機能不全、弁逆流増悪、SBEである。チアノーゼ性CHDに合併するCKD、多血症、長期低酸素による心筋変性も懸念される。まずは、Fontan術後、大血管転位術後、Fallot四徴術後の、主な3疾患の術後合併症の理解が重要だ。未手術の場合は、多くは手術適応外、早期発見されなかった重症PH(Eisenmenger症候群)や修正大血管転位、そして最近治療Optionが増えた大動脈二尖弁などの先天性弁膜疾患であろう。その他、社会的問題として就労条件、心理的側面、婚姻・挙児・妊娠・分娩そして育児の問題、HBV,HCV肝炎、精神心理疾患の発症(高次機能低下、学習障害、双極障害、統合失調症)、医療費助成適応など、言ってみれば"CHD症候群"の多彩な側面を理解して総合診療的に対処する時代が到来した感がある。
                                  (佐地 勉)

2015年8月号

 2015年6月に小児用補助人工心臓Berlin Heart Excorが製造販売承認を受けた。医師主導治験として、国内の小児心臓移植施設3施設で治験が行われた。筆者はこの治験の総合調整医師として関わってきた経緯があり、感慨一入である。心臓移植が必要となる重症の心不全の小児(最小体重3.9kg)に装着され、治験終了時に全例が生存しているという極めて良好な成績であった。長期の補助も可能で、最長約2年の補助を継続することもできた。わが国は2010年7月に臓器移植法が改正されて、それまで不可能であった小児の心臓移植を国内で実施することが可能となった。また、2010年10月からは、18歳未満で心臓移植登録された患者へ18歳未満の小児ドナーから優先的に心臓が提供される小児優先システムが施行されてきた。法律改正後これまでに8例の小児への心臓移植が国内で実施されてきた。しかし、成人同様にあるいは成人以上に、小児においてはドナーが極端に少ないために待機期間が長期化している。小児用補助人工心臓(VAD)が認可されることによって、重い心臓病の子供たちは強心薬を投与されながら床上安静を強いられて移植を待つのではなく、入院を継続しなければならないものの、食事を普通に食べ、家族と団欒し、楽しく院内学級で学習しながら移植を待つことが可能となった。成人においては植込み型VADが普及し、全国の40施設でこれまでに約400人の重症心不全患者がその恩恵を受けてきた。つまり、人工心臓を装着して退院することが可能となり、多くの移植待機患者が復職し、あるいは復学することが実現してきた。最近では成人用の植込み型VADは小型化が進み、体表面積が1.2m2あれば小児であっても植込み型VADの装着が可能となった。しかし、さらに体格の小さな小児に対しては、NIHから資金提供された米国の小児用補助人工心臓開発プログラムであるPumpKIN (Pumps for Kids and Neonates) Programで唯一選定された小児用Jarvikが開発の最終段階に入っている。明年までには欧州で植込みの治験が開始される見込みであるという。わが国でも早期に小児用Jarvikの治験が開始されることが期待される。
                                   (小野 稔)

2015年7月号

 今回のテーマとは関連しないが、最近SERVE-HFという臨床試験結果の緊急報告が行われた。SERVE-HFは中枢性睡眠時無呼吸を合併する左室駆出率の低下した心不全患者(HFrEF)を対象としてASV(adaptive servo-ventilation)の長期予後に対する効果を検証するための臨床試験であった。睡眠時無呼吸の重症度であるAHIが15以上あって、そのうち中枢性無呼吸が優位のHFrEFに対しPSG(ポリソムノグラフィー)を行ったうえで睡眠時無呼吸をきちんと治療したところ、一次エンドポイントである死亡または心不全による入院は減少せず、心血管死亡はむしろ有意に増加してしまったのであった。大方の予想と逆の結果になってしまったわけで、臨床現場に大きな混乱を招いている。というのも我が国の循環器の臨床現場では、ASVは睡眠時無呼吸の重症度と関係なく、重症心不全患者のうっ血を改善し症状を改善する治療機器として使われてきた経緯があるからである。重症心不全患者のなかには入院中にASVによって何とか症状がコントロールされ退院でき退院後もASVを継続している症例も多い。ただしASVは"心不全"に対する保険適応は現時点で認められておらず、重症心不全患者については心不全に伴う呼吸不全を治療するための人工呼吸器として拡大解釈することで運用されてきた。今回のSERVE-HFの結果が拡大解釈されてこのような症例にもASVが使用できなくなることが最も懸念される。
 今回のSERVE-HFは随分前に行われたCAST試験を思い出させる。CASTでは多くの予想を裏切って心筋梗塞後患者のPVCを抗不整脈薬で治療するとむしろ予後が悪化した。抗不整脈薬の催不整脈作用が裏目に出たわけであるが、SERVE-HFについては現時点でASVによって心血管死亡が増えた原因については明らかなっておらずCASTと同一視することは勿論できない。ただし、少なくとも当面、中枢性睡眠時無呼吸の治療を目的としたHFrEF患者へのASVの新規導入は制限されるべきであろう。今後データ解析が進み予後悪化の原因が究明されることを期待したい。
                                (百村伸一)

2015年6月号

 循環器救急疾患は急性期治療の成否により予後が大きく左右される代表的な疾患群である。しかし治療結果が十分に満足できない場合においても救急医療という免罪符で通り過ぎていることはないだろうか。理想的には救急医療こそより洗練された医療が要求されると考える。救急医療の現場では患者背景などがわからないことや、十分なスタッフがいない状況で治療せざるを得ないことも多い。このような状況下で我々はどのようなスタンスで臨むべきであろうか? より高いレベルの救急医療を実践するには常日頃から質の高い医療を実践することが必要である。すなわち1例1例の診療行為とその結果についてフィードバックすること、出来る限り詳細な観察をするとともにデータを記録しまとめること、文献からの知識を参考に病態を解明することなどが重要である。もちろん、新薬や新しいデバイスが臨床現場に導入されれば一定の効果は期待される。しかし、その効果は適応に忠実でよりきめ細やかな医療が実践されるもとで発揮されるものであり、新たに開発されたというキャッチフレーズのもとに盲目的な適用は避けることが望ましいと考える。筆者の勤務する施設は3次救急設備を有し24時間体制で診療が行われている。しかし高度な治療・手技を行ったこととその結果は必ずしも一致しないことを少なからず経験する。循環器救急に携わる医師においてはより洗練された救急医療を行うことに心がけ、その診療結果に対しては常にフィードバックすることで次回からの診療に活かされることが望まれる。
                                   (木村一雄)

2015年5月号

 基幹病院はもちろんのこと、かつてナンバー内科を標榜していた多くの大学医学部および医学部附属病院も、臓器別診療体制へと移行することが時代に即した対応であると考えている。大学医学部の内科や外科の大講座は複数の診療科に分かれ、それぞれの診療科長のもとで診療と教育が行われている。大講座制のメリットを知っている世代は次第に少なくなり、もはや大講座制は医学部にとって歴史上の遺産になりつつある。特に循環器内科は専門性が高く、高度な技術をもつ医師を育成する必要から、内科の中でも特に細分化が進んでいる診療科である。私は昭和56年に東京大学を卒業し第三内科に入局した。矢崎義雄先生や永井良三先生はじめ多くの素晴らしい先生方から薫陶とご指導を頂いたが、同時に、第三内科には血液内科、糖尿病・内分泌内科、肝臓・消化器内科、呼吸器内科に偉大な先生が大勢おられ、本当に貴重な時間を過ごさせていただいた。その時に得た経験を糧として現在、教授職を行っていると言っても過言ではない。
 内科専門医制度は、サブスペシャリストとなる前に標準的な診療能力を有するジェネラリスト(総合内科医)を養成する制度である。この制度は2015年以降に大学を卒業する医師を対象に実施されるが、現在の臓器別診療科体制と両立させるためには、個々の診療科を一体化する仕組みを作らなければならない。定期的なJ-MECCの実践、関連病院での地域医療の実践、研修プログラムの包括管理などはその仕組みの構築に必要であろう。内科系診療で内科全領域に広い知識と視野をもち、臓器横断的に診断、治療を行える診療能力を有する内科医の育成は、「大講座制」の精神に通じるところがあると感じるのは時代錯誤であろうか。このジェネラリスト養成のための教育、診療制度は、医学研究が遺伝子や分子まで掘り下げる分子生物学研究から生体での臓器連関あるいはシステムとしての生命現象の研究にシフトしているのと類似している。研究マインドをもった臨床医育成の視点もジェネラリスト育成の上で必要であると考えている。
                                   (倉林正彦)

2015年4月号

 本号のHEART'S Selectionは高血圧の新ガイドラインがテーマである。高血圧の罹患患者は4000万人に達すると言われ、様々な血管合併症をきたす国民病と言ってよい。学会で作成した高血圧治療ガイドラインは、最新のエビデンスに支えられた標準的な治療を普及する上できわめて重要である。診療ガイドラインは本来、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文書で、患者と医療者を支援する目的で作成され、臨床現場における意思決定の際に、判断材料の一つとして利用されるものである。従来はその道の権威者とされる医師を中心に教科書のような形で編まれるのが普通であったが、最近その編纂の手法が大きく変わってきていることは意外と知られていない。単にエビデンスをレベル付けするのでなく、エビデンスの質、ばらつき、害やコストについても勘案することが求められるようになった。コンセンサス形成も経験の多い大家の意見に引きずられないように質問票に郵送で回答し、さらに議論を重ねるなどしてより客観的に行われる。さらにパブリックコメントや患者団体の意見を入れ、透明性を担保している。記述の方法としてはクリニカルクェスチョンに対する回答の形式を取り入れるなど、利便性にも配慮が図られるようになった。最近は診療ガイドラインそのものの評価をするシステムも確立している。作成する側にとっては多大な労力が求められるようになった。高血圧治療ガイドライン2014もこのような過程を踏まえて作成されたものである。関係者のご尽力に敬意を表したい。ただ、ガイドラインの普及に伴って、医療者の経験を軽視する議論や個別の患者の事情を勘案せずに機械的に推奨される診療法を応用しようとする傾向が見られることがある。臨床現場での判断はガイドラインを参照しつつ、主治医と患者が協同して行うべきものである。また社会の側も医療紛争にあたって、医師の判断ミスの根拠とするなど誤った利用をする向きもある。ガイドラインの正しい利用によって診療の質が高まり、より満足のいく医療が提供されることを願うばかりである。
                               (磯部光章)

2015年3月号

 2015年2月9日から11日までの3日間、東京お台場で第42回日本集中治療医学会学術集会を開催させていただいた。寒波が入り気温は低かったものの、春浅い紺碧の空のもと、実に会期中7000名を超える過去最多の参加者と共に"高めよう集中治療の力、広めよう集中治療の輪"をメインテーマとした学術集会を開催することができた。発案当時、スポーツイベントを思わせるテーマで口にするのに恥じらいを感じたが、学術集会を終えた今、多職種で輪になって高みを求めるさきがけとなることができたことを確信し、喜んでいる。会長講演の中では私が学んできた40年近い集中治療と多職種協調について話をした。集中治療領域は裾野が広く、普段自分たちが学ぶ機会の少ない領域のコンテンツも多くあり、チームワークを高める一方で、個々の患者のためにMultidisciplinary(集学的)な医療を行うことの重要性を再認識した。関係各位の努力のかいがあり、学会参加者数はすべての職種で増えている。とくに看護師、ME、PT(リハ)部門は加速度的で、この部門では会場から溢れた参加者の背中からも活気を感じた。われわれ医師は老いも若きも負けぬように頑張らなくてはならない。
 残念ながら循環器系の学会で集中治療をディスカッションする機会は少なく、循環器集中治療に盛り上がりがない。現在の循環器病学会専門医研修カリキュラムには、集中治療関係の手技・治療法はC(見学する)、D(知っている)の項目が多く、呼吸管理、血液浄化、心拍再開後の神経集中治療、PAD(疼痛・不穏・せん妄)対策、終末期医療に至ってはリストにさえ収載されていない。今回の学術集会を循環器科医として開催し、改めて循環器集中治療の充実と、Cardiac Intensivist育成の必要性を感じた。そのためには、循環器集中治療の研修プログラムの作成、カリキュラムの見直しが急務である。かつて先達たちが苦労をしながらInterventionistやElectrophysiologistを育ててきたように。始めるに遅すぎることはない。
                                (山科 章)

2015年2月号

 もう30年以上前のことになるが、細田泰之先生が米国から虎の門病院に帰ってこられたときに、冠動脈バイパス術後の出血の仕方が米国人と日本人で明らかに違う、日本人は出血し易いと言われていた。本号のHeart's Selectionでは新規抗凝固薬の使い方が取り上げられ、日本人の特性について最近の国際共同介入試験の結果から堀正二先生が詳しく報告されている。抗凝固薬の効果や出血性合併症の頻度など、日本人特有の反応があることが、国際共同試験によって明らかにされつつある。
 多くの循環器疾患はその頻度や病型が欧米と日本とでは異なることが知られているが、冠動脈疾患もその代表的な疾病の一つである。堀先生も触れられているが,1956年に木村登先生は米国の疫学者Ancel Keysらとの共同研究で、病理解剖の検体から米国人と日本人の冠動脈硬化の程度が全く違うことを観察し、その後食生活と冠動脈疾患の関連を検討するためにSeven Countries Studyを企画されたことは良く知られている。結果として飽和脂肪酸やコレステロールと冠動脈疾患の死亡率の相関が明らかになった。日本に住む日本人とホノルル、サンフランシスコに移住した日本人とを比較した"Ni-Hon-San"研究はいわゆる移民研究の代表的なものだが、遺伝因子と環境因子の影響を明らかにするユニークな疫学研究である。米国の環境因子と冠動脈疾患の発症との関連を確認した。最近では冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患及びアテローム血栓性疾患のリスクを3つ以上持つ45歳以上の対象者を44カ国から登録したREACH Registryが動脈硬化性疾患の国際比較をして、日本人やアジア人のアテローム血栓症に関する多くの知見を発表している。介入試験にせよ、登録研究にせよ国際共同研究を行うことによって初めて明らかとなる事実がある。遺伝疫学的な手法も活発に行われるようになった現在、日本人の凝固線溶系機能がどのような背景から欧米人と違うのか解明される日も遠くない。
                              (代田浩之)

2015年1月号

 昨今、医学研究の倫理観が問われている。一連の不祥事の影響で、一流の研究成果に対してすら研究結果や企業との関連に対する疑惑を持たれることがある。研究の客観性と中立性を保つことはもちろんのこと、研究成果の発表に際しては透明性の高い利益相反の公表が求められる。
厚生労働省は2014年4月に「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」を立ち上げ、その結果を同年11月に報告書として纏めた。厚生労働省は2008年に「臨床研究に関する倫理指針」を告示しているが、法律に基づく規制ではなく、違反に際しての罰則もなかった。今回の検討ではヒアリングに基づいた我が国の臨床研究の現状に加えて欧米の臨床研究に対する法規制の状況を検討した結果、一定の範囲の臨床研究について法規制が必要との結論に至った。
一方、本年10月には日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)から「日本医学会医学雑誌編集ガイドライン(案)」が示された。これは医学雑誌編集者の自由と責務の明記に加え、医学雑誌の質の向上、著者と雑誌編集者の倫理規定の策定、海外編集者会議との連携を目的としたものである。編集者は科学における自己修正機能を促進し、科学調査方法を改善する取り組みに参加する責務を負い、雑誌の内容に関して誠実性と公正性を保証し、バイアスを最小にする責務も負う。その他、利益相反、ミスコンダクト(科学における不正行為)、懸念表明、撤回などに関しても明記されている。
不正研究や論文には著者や企業の利益を意図したものや利益相反に問題があるものだけでなく、著者が不正を全く意図していないものもある。その原因として、研究の科学性に問題がある場合が多いが、普遍的な真実を見極めようという真摯な姿勢に欠けているのではないかと思えるものもある。また、不正論文ではないが、我が国の論文にはいまだに国内外の論文の焼き直しが多いのも残念ながら事実である。欧米にはオリジナリティを尊重する精神があり、科学的に検証された論文は、仮にネガティブデータであっても、データだけでなくその研究者も高く評価する文化が根付いている。その意味で、日本にはまだ科学の文化が定着していないのかも知れない。
                                  (新田 隆)

編集後記バックナンバー

教室(医局)・病院(医院)賛助会員 ご加入のお願い

ご寄付のお願い