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月刊心臓

編集後記 (2014年)

2014年12月号

「心臓」掲載論文に循環器専門医の3単位が与えられたことは喜ばしいが、変貌しつつある専門医制度の現況が気になっている。
 今年5月に「日本専門医機構」が発足し、学会が認定する専門医ではなく、中立的な第三者機関が認定する新専門医制度が立ち上がろうとしている。新制度では、各専門医研修施設が養成プログラムを公表し、専攻医を目指す若手医師はそれに応募し、採用されて専門研修を始める。医師臨床研修制度と同じイメージである。
 新制度では、19の基本領域専門医とそのsubspecialty領域専門医の二段階制とすることが決まっており、「日本専門医機構」は、専門医養成の研修プログラム・施設の評価・認定と専門医の認定・更新を行い、関連学会はその各専門領域委員会へ参加することになる。新しい専門研修は平成29年度に開始され、平成32年度に新専門医の誕生が想定されている。
 基本領域の専門研修は3年が基本で、新内科専門医は初期研修を含めて5年間研修し、内科generalistとしての基本的診療能力の獲得を目指す。従って、循環器専門医となるのは、心臓血管外科専門医などと同じく、早くても卒後8年目となる。内科系専門医は大きく変わり、現在の認定内科医、循環器専門医の資格がどうなるか、これからの決定が注目される。
 一方で、氾濫している学会専門医が新制度下で整理されることを期待したい。広告できる専門医資格は現在55を数え、国民の受診判断に混乱を生じている。名前を出して恐縮だが、一般病院連携精神医学専門医を理解できる国民がいるであろうか。いずれ専門医資格と標榜科を一致させることが想定されており、新制度は国民が理解し易いことが必要であろう。
 その意味で、三階部分に相当する「心血管インターベンション専門医」「不整脈専門医」等、特殊な技能やより専門分化した領域の専門医の扱いも問題となろう。米国では、内科系subspecialty専門医として、「循環器」と「不整脈」「心不全」「インターベンション」の専門医が並列に置かれているが、これでは国民の受診判断を混乱させないか。この際思い切って、このような特殊能力のエキスパート医師群を、例えば「修練医」「熟練医」とでも呼んで、診療領域を表す「専門医」と区別してはどうであろうか。
(山口 徹)

2014年11月号

 先ごろ日本人間ドック学会から、健康診断における基本検査の基準値に関する大規模データの解析結果が発表されたが、これが各方面に大きな波紋と議論を巻き起こしたことは記憶に新しい。発表直後に一部のマスコミによって、検査データの正常範囲が広がって、検査結果を異常と判断すべき基準が緩和されたかのごとき報道がなされ、現場の混乱に拍車をかけた。この中には、血圧、脂質代謝、糖代謝など循環器領域に関連する検査項目も多く含まれており、事実高血圧症や脂質異常症で通院加療中の患者が自己判断で降圧薬や高脂血症薬の服薬を中断する例が少なからず見られた。その結果は推して知るべしである。このような齟齬が起きた原因は、日本人間ドック学会の解析結果発表時の説明不足もあろうが、「基準範囲」と「正常範囲」の意味や違いを正確に理解しないまま安易にかつ大々的に報道した側に大きな責任があると思う。なお日本人間ドック学会からは、最近これに関連して追加説明の文書が公表されている。
 ここで問題になった「基準範囲」とは、健常人におけるある一定条件下の検査で得られた測定値の分布から平均値と95%信頼区間を用いて算出した一種の物差しで、決して「正常範囲」ではない。すなわち病気の診断やリスク評価ないし治療目標設定を目的として作成されたものではなく、ここから外れたらすべて異常あるいは病的と考えたり、この範囲に入っているからすべて正常と考えたりするものでないことは明白である。
 一方、それぞれの検査項目ごとに「正常値」や「正常範囲」とされるものを誰もが納得できる客観的根拠をもって決定するのも、なかなか難しいことである。むしろ、それぞれの疾患に関連する学会などが互いに協力し、疾患の特徴、病態、検査データ、年齢、性別、合併症などを幅広く考慮した「診断・治療ガイドライン」を個々に策定し、これを日常診療ないし健康診断の場で用いることが論理的かつ実際的であると思う。
(加藤貴雄)

2014年10月号

 今月の特集は「内皮機能評価を診療に生かす(診断、病態、など)」である。我々は、胎児期に神経堤細胞から出来た1本の原始血管のおかげで、心臓を始めとするさまざまな臓器が発生・分化・成長してきた。その血管の最内側のECは機能的に高度に分化・増殖するが、人工内皮細胞はまだ完成していない。内皮は傷害Denudationと受傷後の再生Regenerationを繰り返して、血管を保護しているが、疾患の一部では過剰な内膜肥厚になる。また血管の老化は結局のところ、ECの再生が"若い頃程上手く行われなくなったため"ということである。したがって、普段からECを保護する生活習慣を心掛けることが極めて重要である。
 若い頃、冠動脈ECの樹立株を胎児などでも試みたがうまくいかなかった。結局、当時品川にあった屠殺場で安く買ってきた仔牛の心臓の冠動脈からECを培養した。冠動脈を縦に開き、内皮側を削るとぬるぬるとした内皮細胞の塊がとれる。それをpetri dishで培養すると、3-4日あたりから内皮細胞が接着し始め、10-14日には敷石状のECがConfluentになって来る。それを継代しては、内皮細胞障害の実験に用いていた。
 2013年9月号のNEJM誌に、Global Healthと題して、ヒトの寿命に関わる重要なLife style の"悪い方"からのRankingが出されていた。
 それには、1)高血圧、2)喫煙・受動喫煙、3)少ない果実摂取、4)BMI高値、5)血糖高値、6)身体活動低下、7)高食塩食、8)アルコール摂取過多、9)少ない豆類、タネ類の摂取、10)高コレステロール、11)野菜不足、12)少ない魚、海産物・穀物の摂取等であるが、これに加え十分な睡眠時間も重要である。Coffee、Wine, Fish Oilの摂取、特別な日常薬には言及していなかった。よくよく考えれば、これらのほとんどは"内皮細胞障害物質"である。
 先日、飛行機で隣の席に乗り合わせたWASPらしき一見50歳代の外国人が、8時間何も食べず、水以外何ものまず、音楽を聴きながら瞑想していた。すると心配してCAが聞きに来た。彼はそれに応えて「Simple life、No thanks」と言っていた。洒落た返事かと思っていたが、実はこれがECへのストレスを少しでも減らそうと努力する行動のひとつだったんだと後で感じた次第である。
(佐地 勉)

2014年9月号

 2010年7月に改正臓器移植法が施行されて4年が経過した。この4年間で195例の脳死臓器提供があり、そのうち139例で心臓移植が実施された。心臓移植数が年間35例程度に増加し、法律改正前の5倍となった。しかし、米国の年間心臓移植数2200例から比べると依然としてはなはだ少ないとしか言えない。2011年4月から植込み型補助人工心臓が保険償還されることによって心臓移植の待機も劇的に変化した。人工心臓を装着した患者さんが、公共交通機関で通勤・通学しながら移植を待機することが一般的になってきた。親戚に会うために飛行機に乗って遠隔地に行った患者もいる。それまでは体外設置型補助人工心臓を装着して、合併症の恐怖にさらされながら2~3年に及ぶ待機期間を入院しながら待機していたのとは天地雲泥のQOLの向上がもたらされた。
 植込み型補助人工心臓の登場はさまざまなドラマを生んできた。これは18歳で植込み型補助人工心臓を装着した男子大学生の話である。彼は高校3年生になるころから体調の不良を感じ始め、大学受験・卒業前は「俺もしかしたら死ぬのかな」と思うほど辛い状態であった。「親には心配をかけたくないから」という思いから両親には何も話さずにいた。それでも卒業式までは何とかたどり着いたが、直後に心不全急性増悪のために入院となった。すでに腹部臓器不全が進行し、強心薬治療の効果もなかった。筆者のもとへ転院後、間をおかず大動脈内バルンポンプが必要となった。クラッシュ直前のギリギリの状態で移植適応判定が得られ、5月に滑り込みで植込み型補助人工心臓を装着することができた。術後経過は良く、翌月に退院となった。入院中はもちろんだが、退院後も熱心にリハビリに打ち込んだ。これは、合格したもののまだ1度も通ったことのない大学へ早く通学したいとの強い一念からであった。9月には通学を開始したが、この陰には母親の献身的なサポートがあった。母親は、介護者として通学時にいつも彼の数メートール後に付き添っていることを、「自称、息子の追っかけ」と表現して笑い飛ばしていた。彼は自作の曲を趣味のギターを奏でながらコンサートで歌ってくれた。生きていることへの感謝と今の自分の人生を謳歌していることを。
(小野 稔)

2014年8月号

 最近、わが国の心不全治療において陽圧呼吸特にASV(Adaptive servo-ventilation)が広く使われるようになってきた。ASVは本来中枢性睡眠時無呼吸治療のために開発された機器だが、わが国では睡眠時無呼吸の重症度とは別に重症心不全治療機器として広く用いられるようになってきたという経緯がある。ASVは中枢性睡眠時無呼吸を合併する心不全患者にも有効であるから、今回平成26年度の診療報酬改定当初、ASVを睡眠時無呼吸治療に用いた場合、人工呼吸としての算定を行わないというもので混乱を招いた。勿論、根底には高価なASVの使用をできるだけ制限しようという厚労省の意図がある。しかしこの改定に対する反発が強かったこともあり、その後ASVは在宅酸素の保険適応を満たす場合については在宅酸素の指導管理料を算定できるという疑義解釈が出された。ただしそれ以外の睡眠時無呼吸治療を目的に用いた場合にはCPAPの算定のみ可能であるということになった。ただし、この疑義解釈では睡眠呼吸障害の重症度と関係なくASVが手放せない重症心不全に対する使用については言及されていない。その結果、都道府県によっては睡眠時無呼吸の評価が行われていない患者に対するASVの使用を査定するという動きが出てさらに混乱を招いた。その後、介護保険でのASVの心不全に対する使用についても疑義解釈が出された。ここではASVはいくつかの病態に該当する場合は人工呼吸として算定するという内容となっているが心不全に対する使用の可否については明言を避けている。ただし少なくとも心不全に対して使用した場合に算定しないとも明記されておらず、しいて言えば"その他人工呼吸器を必要とする"場合に相当する。今回ASVの保険適応についてこのような混乱を招いた原因の1つは、われわれ循環器の医師側がASVがどのような患者に必要かについての明らかな医学的基準を示さないまま使い続けてきたということがある。現在日本には在宅ASVの恩恵に浴している多くの重症心不全患者がおり、ASVが使用できなくなるということは死活問題となる。患者の利益を守るために今後、日本循環器学会や日本心不全学会などが中心となってASVの適応基準について明確なメッセージを発信してゆくことが急務であると考えられる。
(百村伸一)

2014年7月号

 生活習慣病という概念が定着して久しい。私の診療における専門分野である虚血性心疾患、特に急性心筋梗塞症はこの疾病群の中での代表的な疾患であり、生活様式がこの疾病の発症の多寡に大きく関わる。2010年にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたアメリカ北カリフォルニア地方での心筋梗塞の発症は最近の数年間にわたり減少傾向にあり、特にST上昇型心筋梗塞症では半減していると報告されている。この主な理由としては、食生活の改善や運動習慣の推奨があげられ、またエビデンスに基づいた一次予防、二次予防の薬剤の服用も寄与していると考察されている。
 一方、わが国における最近のデータは宮城県、熊本県から発表されているが、年齢等を調整したうえで、発症率は一定しているかわずかに減少しているのみであり、アメリカのデータとは大きく異なるものである。わが国でも禁煙や薬物療法は進んだが従来の健康的な日本食から欧米化した食生活への変遷がこれに関与している可能性が考えられる。
 治療の面では再灌流療法の導入により院内死亡率は30%から5%前後まで低下した。Primary stentingが一般的となり、迅速な再灌流の指標である来院から初回バルーン拡張まで90分以内が多数の施設・症例で達成されるようになった。このような状況においてはさらなる死亡率の低下は多くは期待できず、予防医療の充実と発症時には患者さんに今まで以上に早く病院に来院することを啓発することがいまだ十分に実行されていない残された次の課題であると考える。もちろん、心筋保護を目指した薬物やデバイスの開発、再生医療の導入も重要であるが、これらが臨床応用されるには少なからず時間と経費を要する。
 私は再灌流療法を多数例に実践し非再灌流療法例と比べたその著明な効果を実体験してきたが、少し救急の臨床現場から離れた立場から思うことは、若き第一線の医師には "原点に帰る"医療も再考していただきたいということである。
(木村一雄)

2014年6月号

 米国の作家Ralph Waldo Emersonの言葉に「People only see what they are prepared to see」があります。その人の感性、能力、生まれ育った環境や文化などによって、ものの見方や捉え方が大きく左右されるという、心理的な現象を表現していると理解しています。一歩、踏み込んで、漫然と見ていたのでは物事はわからない、理解しようとしなければ理解できない、とも解釈できると思います。
 医学研究に限らず、研究では独創性が求められます。研究の結果からの新しいコンセプトの創出があれば、科学的な価値は一層高まります。新しい仮説を立ててそれを証明する過程が研究です。この新しい仮説をどのように立てるかが研究の出発点であり、研究の質を決める最も重要なステップです。先人がいまだ明らかにしていない疾患のメカニズム、診断法や治療法の糸口は、日常診療の中にあると考えています。
 山中伸弥教授のiPS細胞の業績は、ワトソンとクリックが1953年に発表したDNA二重らせん構造に匹敵するほどのインパクトを医学に与えることは確実ですが、それと同時に、柔軟な発想と不断の努力が如何に偉大な成果を生み出すことができるかに感銘を受けました。若い人には、是非、本質を探る思考力、新たなコンセプトを創る力、そしてたゆまない努力を続けられる気力と体力を、培ってほしいと思います。
(倉林正彦)

2014年5月号

 わが国の心臓移植について少し触れたい。以前は移植の脳死ドナーが発生すると全国紙にベタ記事で紹介されたものである。最近は記事にならなくなった。珍しさが失せてニュースバリューがなくなったためであろう。それ自体は大きな進歩である。
 実際2013年中にわが国で行われた心臓移植は37件で過去最多であるし、累計で200例を越えている。文書による本人の意思の確認ができなくても家族の同意で提供が可能となり、またドナーカードも次第に普及してきた。免許証や保険証の裏面に臓器提供の同意や拒否を表明できるようになったことは大きな変化である。
 一方心臓移植を求める心不全患者が急増している。患者数の増加というより、これまであきらめていた移植が手の届くところに来たという期待感から申請患者が増えているのが実態であろう。
 重症心不全の治療では、2年前に植込型補助人工心臓が保険償還可能となった。器材代だけでも1800万円を超す高額のデバイスであるが、治療成績は目覚ましい。移植待機患者の3分の2は補助人工心臓を装着している。実はこの進歩が移植までの待機期間をこれまでの2年半から5年、あるいは7年まで伸ばそうとしているのが現実である。もはや待機期間とは言い難い年数であろう。移植を前提としない人工心臓の植込を目指すべきであるとの議論もあるが、医療経済や社会的の合意を踏まえた議論が必要であり、何よりこの段階では育ちつつある臓器ドネーションの機運を一気に冷やしてしまいかねないという懸念がある。
 心臓移植と人工心臓は車の両輪であり、やはり今大切なのは脳死移植ドナーの増加である。人口当たりのドナーの数は欧州諸国の20分の1、台湾の10分の1に過ぎない。日本循環器学会では移植の適応審査をするだけでなく、ドナー数の増加を図る運動を推進することで末期心不全患者の診療内容の向上を図っている。あまり知られていないが、わが国における心臓移植後の長期的生存率は欧米の成績に比べて際立って良好である。恐らく術前術後の患者管理に優れ、また厳格な適応審査が行われていることの効果であろう。世界に発信すべきわが国の医療の成果である。 
(磯部光章)

2014年4月号

 卒業式のシーズンである。卒業式に関係した読者の皆さんも多かったのではないかと推察している。筆者は大学付属の看護専門学校の校長を兼務しており、その卒業式・謝恩会が先日あった。謝恩会は楽しくて良いが、式辞を話さなければならない卒業式は苦手である。卒業式が終わるとすぐに入学式がある。その意味で、この時期は苦痛である。何を話そうかと悩んでいたら、親しくしている患者さんに変わったタイトルの本をいただいた。ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子先生の書かれた「面倒だから、しよう」という本である。その本の帯には、「小さなことこそ、心をこめて、ていねいに。幸せは、いつもあなたの心が決める」とある。式辞のネタになることが書いてないかなと思い、ざ~と目を通そうとしたが、読み始めるとやめられず、多くの感銘を受けながら、最後まで読んだ。果たして、その本から一節を引用して卒業生へのはなむけの言葉とした。その一節を紹介しよう。
 この世に"雑用"という名の用はない。用を雑にした時に生まれる。「つまらない」と思いながら生きる時間は、つまらない人生になってゆく。ハっと思った。こんな会話、「忙しいですか。」「はい、雑用が多くて。」をよくしてきた。この本を読んでから、二度と自分がしている仕事を雑用と呼ばないことに決めた。卒業生にもこのメッセージを伝えた。そして、この編集後記も大切に書かせていただいた。
(山科 章)

2014年3月号

 2013年の暮れ,私たちの施設へ肺血栓塞栓症の患者が搬送されてきた.北欧から旅行中の女性で,息子夫婦に会うための来日だったが,来日直後に発症し他院から転送され,抗凝固療法を開始した.若干の肺高血圧を合併していたものの,幸い骨盤内や下肢静脈には大きな血栓は残っておらず,血行動態も落ち着いていて,2~3週間程度の入院で退院できると考えていた.ところが患者は日本語はもちろん英語も話せず,家族が付いていてもすぐにパニックになってしまい,早期の帰国を強く希望された.家族も同意して1月2日に保険会社に連絡すると,翌日の夕方には,救急対応のベッドサイド検査システムや薬剤をフル装備した金髪の若手医師が病棟に現れた.保険会社に連絡して24時間で到着,翌々日には直行便で母国に帰国された.迅速かつ効率的な患者搬送で感心させられた.
 私たちの施設でも海外出張中のビジネスマンが急病で搬送されるケースを年数例経験する.わが国の外務省の統計によると海外で疾病のために邦人援護が必要であった件数は,2012年約800件,疾病による死亡が300人と報告され,海外との患者搬送は日本人の海外活動の増加とともに漸増しているようだ.海外からの患者移送システムは過去20年で随分発達し,わが国にもNPOを含めいくつかの団体が運営しているようだが,今回のように一般の生命保険会社が効率的に患者の国際搬送までを引き受けることは少ない.EUなどおそらく事例が多いと思われ,それぞれの地域での事情もあるのだろうが,欧米の海外患者支援システムは参考にする価値があるように感じた.
(代田浩之)

2014年2月号

 2020年夏期オリンピック・パラリンピック開催都市が東京に決定した.多種多様な職種から成る日本の招致委員会のスピーチがオリンピック委員の心を動かし,勝ち取った結果であった.深夜の決定にもかかわらず,多くの日本人が招致委員のスピーチに感動し,結果を喜んだ.まさに"チームジャパン"で勝ち取ったチームワークの結晶であった.うれしいニュースである.
 心臓治療で2002年にフランスで始まったTAVI(頸動脈的大動脈弁置換術)が保険承認を獲得し,2013年10月より本邦において使用開始となった.従来の外科的手術では侵襲性が高く,高齢者や重篤な合併症のある重度大動脈弁狭窄症患者は,人工心肺下・開心手術の適応外とされてきた.このような患者にとって,人工心肺・心臓停止を用いずに治療を行うことができる,この話題のTAVIが開始されたことは朗報である.PARTNER trialでは,外科的手術と遜色ない結果が報告された.しかし一方,従来の外科的大動脈弁置換術との治療方法の選択や医療経済的な観点,また施設基準や認定医師の資格などさまざまな問題が生じ,今後解決していかなければならない課題は多くある.経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会が設立され,実施施設基準やハイブリッド手術室に関するガイドラインが細かく規定されたことは評価に値する.手術に関していえば,元来,心臓血管外科医のみで行っていた人工弁置換術とは異なり,外科医および循環器内科医が同時に参加する必要があり,心臓血管外科医,循環器内科医,麻酔科医,放射線科医,および他のコメディカルも含めた,まさに"ハートチーム"で手術を行うことが必要となっている."ハートチーム"による患者評価,治療法の決定,周術期管理,フォローアップなど,外科医や内科医という従来の枠組みにとらえられず"ハートチーム"という新たなチームの構築と,それを成熟させより有意義に機能させていくことが極めて重要になってくる.そして,このような"ハートチーム"の構築は,今後の循環器領域の他の治療においても新しいチームのあり方として最も重要であり,またそのことが今後循環器領域における1つのキーワードになるといっても過言ではないと思う.まさに本当のボーダーレスを感じさせる.(四津良平)

2014年1月号

 新しい専門医制度が立ち上がろうとしている.各学会が運用する従来の専門医制度では,各専門医制度間の認定基準の統一性,専門医の質の担保などの点で問題が指摘されていた.厚労省「専門医の在り方に関する検討会」の報告書に基づき,学会が認定する専門医ではなく,中立的な第三者機関が専門医を認定する制度を作ろうとしている.新制度では,「基本領域専門医」と「サブスペシャルティ専門医」の二段階制となる.該当する各学会の専門医委員会などの機能を第三者機関へ移し,研修および認定システム,更新基準などを統一することになる.専門医は診療領域を基準に考えられており,将来の標榜科との関連を考えると,その診療領域は国民にわかりやすく,かつ患者の受診行動での選択に役立つものでなければならない.
 話題になっている,いわゆる三階に相当する特殊な技能,診療領域などのより専門分化した領域については,今後の検討課題となっている.循環器専門医は内科,外科,小児科を基本領域とするサブスペシャルティ領域として設定されているが,その関連領域であるインターベンション,不整脈,高血圧などにもすでに専門医制度があり,三階部分の在り方には関心が高いところである.米国の専門医制度では,内科のsubspecialtyは19領域あり,循環器病以外に心不全と心臓移植,不整脈,インターベンションの専門医も循環器病と同列のsubspecialtyとして認められている.しかし,患者が受診専門科を選ぶという視点でみると,これらを同列に扱うことには無理があろう.特殊な技能,診療領域に修練を積んだ医師群は,専門医とは別のタイトル例えば「修練医」「熟練医」など,わかりやすくするのがよいと思う.
 医師の地域偏在,診療科偏在など,わが国の医療が抱える専門医制度もかかわる諸問題をいつまでも放置はできない.「専門医」が,専門研修を終了し十分な知識,経験をもつ者を証明するだけのタイトルではなく,その専門領域の診療に責任をもつ者のタイトルであって欲しいと思う.
(山口 徹)

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