自動体外式除細動器(AED)の航空機内への設置は、現在では一般的になり、その貢献度も高くなってきている。大越氏は、早くからこの必要性を痛感し、日本の航空機へのAED搭載を強く働きかけてきた。日本の航空会社では、いまだAEDを使った救命例はないが、大越氏の所属する日本航空では日々、客室乗務員へのAEDの教育を行っているという。大越氏は、その教育内容などの紹介を交え、航空機内での救命方法などを概説した。
講演者の発言内容は、本ワークショップ開催当時(2004年6月23日)のまま記載しております。このため、記事では、AEDは基本的に医療従事者のみ使用可能であることを前提としておりますが、その後、7月1日に厚生労働省から通達が出され、医療従事者以外の一般市民にも使用が認められています。
航空機内へのAED搭載のはじまり
自動体外式除細動器(AED)が航空機に搭載されたのは、今から14年前、イギリスのヴァージンアトランテック航空が最初である。その後、アメリカのほとんどの航空会社がAEDを搭載することになるが、こうした動きに拍車をかけたのは、シカゴの新聞社が、アメリカの航空機の医療搭載品の不十分さを指摘した特集記事を組んだことと、宇宙航空学会でカンタス航空がAED搭載による救命の実績を発表したことである。そして、この宇宙航空学会に参加していた大越氏らは、航空機へのAED搭載の重要性を痛感し、帰国後ただちに、運輸省航空局が財団法人航空医学研究センター内に設置した「航空機に搭載する救急用医薬品に関する委員会」で国内最初の航空機へのAED搭載を検討した。
航空機内での客室乗務員のAED使用は、医療従事者以外の医療行為を禁止している医師法17条に抵触するか否かという問題がありはしたが、さまざまな議論の末、「ドクターコールを行ってもなお医師の援助が受けられない場合は、医師法に抵触しない」という見解が厚生労働省から出され、日本で初めて一般市民による除細動が許可された(写真)。こうして始まった一般市民による除細動であるが、これには2001年にアメリカで、客室乗務員の搭乗する航空機にAED搭載が義務づけられたことも、少なからず影響を与えている。また、大越氏らが、過去に機内で起きた心停止例を調べた結果、ほとんどの患者が2分以内に客室乗務員によって心肺蘇生(CPR)を施されているか、4分以内に医師の援助が得られていた(図1)。この事実が、機内でも5分以内の除細動が可能であることを立証し、航空機内へのAED搭載の必要性を決定付けた。
客室乗務員の歴史は急病人を助ける看護師から始まった
AEDが航空機に搭載され、客室乗務員のAED使用が許可された当初、日本には、どのようにAEDを使用すればよいかを教育する機関はまだなかった。日本航空では十数名のスタッフがアメリカでアメリカ心臓協会(AHA)のBLS(Basic Life Support:一次救命処置)インストラクターコースを受講した。そして、これは後に日本の教育プログラム(表)の作成にたいへん役立てられた。また、客室乗務員とはもともと機内で発生する急病人を助けるために雇用された歴史があり、現在でもその精神は受け継がれているという。現在では、各航空会社でも客室乗務員に対し医学的教育を実施しており、航空機内での急病人発生に対する準備は万全である。
実施項目 |
(1)導入 |
(2)AEDについて:VTR1「AED〜INTRODUCTION」視聴 VTR2「AED使用時の注意REVIEW」視聴 |
(3)理解度チェック |
(4)CPR新基準の説明 |
(5)CPR+AED:VTR3「CPR+AED」視聴 |
(6)実習 |
(7)質疑応答 |
スムーズな除細動を行うための手順づくり
航空機内へのAED搭載は許可されたものの、当初はどこでどう使うかという課題が残った。機内全体は広いため、AEDなどの機器を持ち運びするには時間を要する。また、AEDを使用したり心肺蘇生を行うために十分なスペースを確保することも難しい。大越氏はそういった課題の解決策として、機内アナウンスを使用し、乗務員や乗客を含めた機内の全員に心臓発作が起きたことを知らせる手法をスタッフとともに発案した。そして、これによってドクターコールやAEDの準備、患者の移動を同時進行させることが可能になり、時間的セーブにつながった。
もともとAHAが推奨しているAED使用の手順では、気道の確保、呼吸の確認、脈拍の確認、除細動の順で心肺蘇生の優先順位が定義されているが、大越氏らは、とにかく5分以内に除細動を行えば心肺蘇生は関係ないということから、何よりも先に、除細動の早急な実施をするよう「Dファースト」という手順を考案した(図2)。
今後、日本でもAEDが普及するにつれ、その設置場所も多様になる。航空機のほか、新幹線や船など公共の乗り物への搭載も進むことだろう。大越氏は、自身がこれまでに培った経験や日々の訓練で得た知識をもとに、こうしたAEDの普及に貢献したいと語った。