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 心室細動などの不整脈は、放置しておけば死にいたる。しかし三田村氏は、心臓突然死を救うには「いち早く電気ショックを与えることで、止まった脈を一発で元に戻すことができる」として、除細動の有効性を説明した。また、除細動を行うための機器である、自動体外式除細動器(AED:写真)を普及させ、一般市民による除細動を推奨することが救命率の向上につながることを訴えた。

医療従事者以外のAED使用について
講演者の発言内容は、本ワークショップ開催当時(2004年6月23日)のまま記載しております。このため、記事では、AEDは基本的に医療従事者のみ使用可能であることを前提としておりますが、その後、7月1日に厚生労働省から通達が出され、医療従事者以外の一般市民にも使用が認められています。

心停止を救うには最初の5分が肝心

 日本では、心肺停止患者の搬送例が年間およそ8万件ある。そして、そのうちの44%程度が心臓が原因の突然死といわれていて、計算すると1日にしておよそ100人が心臓突然死で亡くなっていることになる。心臓突然死は、隠れていた心臓の病気が突然発症し、そのまま亡くなってしまうケースと、心臓に病気がなくても、胸の上からの急な衝撃で不整脈を起こし心停止になってしまうケースがある。後者は心臓震盪(しんとう)といい、少年野球に多くみられ、意外なところでは幼児虐待でもあり得ると言われている。


写真:自動体外式除細動器(AED)
 こうした心臓突然死の7割から8割は、心室細動とよばれる不整脈が原因といわれている。心臓は、心室細動が始まってからおよそ数秒で心停止状態に陥る。では、止まってしまった脈を元に戻すにはどうしたら良いか。一般的には心臓マッサージや人工呼吸が知られているが、それだけでは戻らない。実際には、電気ショックを一瞬加えること(除細動)によって脈を元に戻すことができる。そして、この除細動は早さが肝心である。発作がおきてから除細動が有効な時間は最初の5分間だけであり、除細動をかけるまでの時間が1分遅れる毎に脈が元に戻る可能性が10%ずつ減る。つまり除細動を早期に開始すればするほど、救命できる可能性が高くなる。

誰にでも操作できるAEDの簡便さが早期の除細動を可能にする

 現在、日本の法律上で除細動が許可されているのは、医師のほかは救急救命士だけである。しかし、救急救命士が配備されている救急隊は、全体の6割程度にしか過ぎず、残念ながら著しい救命率の向上にはつながっていない。しかも通常では、患者を見つけた人が通報をして、救急救命士が現場に向かうという流れになるが、これでは実際に除細動を開始するまでの時間は10分を超えてしまう。救急隊の到着を待っていては、心臓突然死を救える確率の高い最初の5分に間に合わない。そこで必要になるのが、一般の人でも使える自動体外式除細動器(AED)である。AEDは小型、軽量で簡単な機器である。その場所にAEDがあれば、最初に見つけた人が、倒れている人の胸に電極を張ってボタンを押すだけであり、わずか2〜3分で除細動を開始することができ、大幅な救命率の向上が期待できる(図1)

いつでも、どこでもAEDが使用できる環境作りを

 諸外国では、一般市民によるAEDの使用が著しい救命率の向上を実現している。たとえばアメリカでは、パトカーや航空機にAEDが搭載されている。また、オヘア空港では歩いて1分程度の間隔でAEDが設置されており、これまでにも実際に通行人が心臓突然死を救命した例が数件報告されている。意外なところでは、カジノでも一般市民(警備員)による除細動が行われており、高い救命率を誇っている(図2)。ヨーロッパも同様で、ミュンヘンの地下鉄の駅やベルリンのデパートの中などの人がたくさん集まる場所に置かれている。日本ではこれからAEDが設置されていくことになるが、設置場所には医療施設以外にも救急車や消防車、パトカー、航空機、船などの乗り物への搭載が考えられる。あるいは、空港、駅、学校など沢山の人が集合する場所にもAEDの設置はあり得るだろう。さらに心停止は外出先だけでなく家の中でもかなりの確率で起こるため、家庭用AEDも必要になってくる。
 AEDは消火器と同じで、一生に一度使うかどうかのものである。しかし、配備しているのといないのとでは救命できる確率は大きく違ってくる。倒れた人を見つけたときに、いち早くその場に居合わせた人がAEDを使えば、心臓突然死を助けられる可能性が高くなることは明白である。三田村氏は最後に、「AEDを普及させれば、3分以内の救命活動が可能になり、4人の内3人が救える」とし、AEDの普及と一般市民が積極的にAEDを使用できる社会づくりの必要性を訴えた。


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