メディアワークショップ

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第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―

心房細動を発見するためには日常の検脈や健康診断が重要だが、近年はテクノロジーの発達とデジタルデバイスの普及により、これまで見つかりにくかった無症候性や発作性タイプの心房細動の早期発見が可能になりつつある。静岡市清水区において心房細動の早期発見に関する取り組みとして行われている、AIによる診断やリモートテクノロジーを用いたプロジェクトなどについて、笹野哲郎氏にご講演いただいた。

静岡市清水区で行っている心房細動早期発見のための取り組みについて

東京科学大学(旧称・東京医科歯科大学)と静岡市は、現在地域医療のプロジェクトとして「隠れ心房細動」を早期発見するための取り組みを実施している。「なぜ静岡市なのか?」というと、静岡市は様々な新製品などのモニタリングが多く行われる「日本の標準的な人口構成に近い地域」であり、「高齢化率が32%」と、日本全国平均の少し先を進んでいる点、さらにはこの取り組みを始めた当時はカテーテルアブレーションを実施している施設がなく、心房細動無治療の患者の潜在数が多いと考えられたこと、また特に清水区の医師会ではIT環境が充実しており、AIやリモートテクノロジーを用いた取り組みとの親和性やサーバーとの連携もと容易であろうと考えられた点などが挙げられる(図1)。

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図1. 静岡市清水区について

静岡市清水区における「隠れ心房細動」の推定患者数

心房細動の診断は心電図を計測することによって行われるが、問題は「心房細動は、発作が起きているときにタイミングよく心電図を計測しなければ、確定診断ができない」点にある。心房細動は、その発症初期には発作性のため、検脈時や検査時に発作が生じていなければ、既に心房細動を発症していても見逃される。それが「隠れ心房細動」である。
静岡市清水区における心房細動の患者数は、従来報告されている有病率と年代別の心房細動有病率から計算すると、約2,000人と考えられる。「隠れ心房細動」も少なくとも同数程度いると考えられており、そこから脳卒中・脳梗塞の発症割合をみると、既診断の場合は治療も受けているため約1%、「隠れ心房細動」の場合は年間で約5%と考えられる。あわせると約120人になるが、実際に清水区の救急医療のデータをみると「心臓を原因とする脳梗塞は約130人」と想定されているため、概ね符合する(図2)。

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図2. 静岡市清水区の隠れ心房細動患者数推定

心房細動早期発見のための取り組み

さて、静岡市清水区で実際に行っている心房細動早期発見の試みは、「心電図のAIによる診断」と、小型の心電計や脈波センサーなどのデバイスを用いた「リモートモニタリング」という二段階で行っている。清水区には医師会による健診センターがあり、そこで通常の12誘導心電図測定が行われる。その際に発作が起きていれば「心房細動」と診断されるが、心房細動と診断されない場合でもAIによる解析で「発症予測」を行い、その後1週間の心電図・脈波のモニタリングで心房細動発作の「自動検出」を行う。循環器、特に不整脈の領域でのAIの使い方は大きく二つあるが、一つは「自動検出」で、膨大な心電図データを目視する際の見間違いなどをAIで補うというものである。これは従来の心電図自動診断でも行っており、医師や技師の労力を軽減できるというメリットがある。もう一つの「発症予測」は「非発作時の心電図」から、目視では判断できない心房細動をAIで判定、発症を予測するという、挑戦的な試みである(図3)。 。

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図3. Stroke Prevention by early detection of AF in Shimizu (SPAFS)

心房細動発症の機序と進展

心房細動が生じる背景には、「心房リモデリング」という心房筋の特性・構造の変化や、「心房細動基質」の増加が関与している。心房細動基質は加齢に伴い増加するため、年齢に伴い心房細動の発症率も増えるわけだが、それにプラスして高血圧や糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満といった背景疾患が加わると、より進展する(図4)。
そして心房リモデリングの評価は、心房細動発作時でなくても可能と考えられる。数多くの12誘導心電図のデータを集めてDeep Learning(深層学習)させることで、AIによって発作性心房細動の推定を行うというもので、実際にその解析機能を有した心電計を清水医師会健診センターに配置し、心房細動リスクの評価を行っている。その結果、2022年1月から2023年7月までに検診を受けた362名のうち、11名(3.04%)で、心電図測定時には心房細動が認められなかったにも関わらず、その後の1週間のモニタリングで心房細動発作を発見することができた。

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図4. 心房細動の進展と心房リモデリング

ウェアラブル機器によるモニタリング、循環器デジタルトランスフォーメーション(DX)の展望

この試みは「検診でのデータ取得」に基づくものだが、よく言われるのが「(年に1回の)検診ではなく、スマートウォッチなどのウェアラブル機器によって計測すればよいのではないか?」ということである。それは間違いではないのだが、隠れ心房細動が多い高齢者においては、「新しい機器でチェックする」というモチベーションが低いという問題がある。また逆に、スマートウォッチなどを積極的に利用する層は、健康への意識も高く、一般的には心房細動のリスクは低い。
これらの問題を解決するためには、モニタリングの重要性を知ってもらうためのデジタルリテラシー教育の推進があり、さらには「意識せずに生体情報のモニタリングを行う」などの取り組みの実施も考えられる。我々は実際に、東京都のカプセルホテルとの共同研究で、宿泊者同意のうえでベッドに敷いてある「心弾動図センサー」から心拍を検出し、特に意識させることなく心房細動の発作を推定するといった取り組みも行っている。
「隠れ心房細動」を逃さずに検出するためには、「モニタリング機器への親和性が高い層」、「心房細動リスクが高い層」、「そもそも検診を受けに来ない人たち」、様々な集団に対するアプローチが必要(図5)と考え、研究を続けている。

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図5. 隠れ心房細動を逃がさず検出

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