第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―
心房細動とは、心臓内の心房が異常な動きをし、心臓本来の動きができなくなる不整脈の一種で、気づかずに長期間放置すると、脳卒中や心不全などを発症する恐れもある重要な疾患である。心房細動の病態やリスク因子などに関する概要と、関連ガイドラインの改訂などをふまえた心房細動管理の最新トレンドについてについて、清水渉氏にご講演いただいた。
心房細動とは?
心臓は、左右の心房、左右の心室という4つの部屋で構成されている。右心房にある洞房結節から電気信号による刺激が出て心房が興奮し、心房と心室の間にある房室結節を通って心室に伝達されて収縮する。心房と心室は少しタイミングがずれて収縮するが、それを体表面から記録するのが心電図である。通常は心房の興奮を示す「P波」と、心室の興奮を示す「QRS波」、心室の興奮が醒める「T波」が規則正しく記録されるが、不整脈の一つである心房細動では、心房が1分間に約500回と細かく震え、その痙攣のためにP波が消失し、QRSの間隔もバラバラな波形が示されるなど、カオスのような状態になる(図1)。そのために脈が乱れて動悸などが生じる。
図1. 心房細動の状態
図2. 心房細動罹患者と有病率の予測
心房細動は加齢ともに増加する最も頻度が高い不整脈
わが国では2018年に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立したが、この法は健康寿命の延伸を図る、すなわち「要支援や要介護状態にならずに生活できる年齢を延ばす」ことを目的としている。心房細動に対する対策がなぜ重要かというと、心房細動があると脳梗塞や心不全の頻度が約5倍になり、認知症も約2倍になるなど、要支援・要介護を招くこれら3つの疾患のリスクが高まるためである(図3)。心房細動の予防と罹患に対する適切な治療は、健康寿命延伸の大きな鍵となる。
図3. 心房細動の弊害
最新の不整脈関連ガイドラインにおける心房細動治療
不整脈の治療に関しては、日本循環器学会と日本不整脈心電学会が合同で作成しているガイドラインがあり、大きく薬物治療に関するものと、非薬物治療に関するものに分けられる。
心房細動に関しては、2024年の3月に出された不整脈治療のフォーカスアップデート版で、生活習慣管理・包括管理の重要性が強調されている。心房細動の患者に対しては、まず第1段階で、急性期に薬物による治療などで心拍数、血行動態を安定させる。第2段階では、併存疾患(高血圧症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など)の治療や食生活(肥満、喫煙、アルコール多飲)の改善などでリスクを減少させる。続く第3段階では、脳梗塞のリスクがある患者に対して適切な抗凝固薬の投与でそれを予防し、最後の第4段階では、不整脈自体に対するリズムコントロール(洞調律維持)、レートコントロール(適切な心拍数調節)のために、薬物治療あるいは非薬物治療を行い、症状の改善を図るという流れになっている。
欧州の心臓病学会でも2024年の8月に新しい心房細動の管理に関するガイドラインが発表されたが、日本と同様、まず併存疾患の治療と肥満や飲酒といったリスク管理を行うことが謳われ、その上で抗凝固療法、薬物・非薬物治療行うという順番で、心房細動に対する治療は、世界的にも同様の流れであるといえよう。
無症候性が多く見つかりにくい心房細動
さて、心房細動は脳卒中の要因であると先述したが、あるレジストリ研究では、虚血性脳卒中を発症した日本人心房細動患者において、脳卒中発症前に心房細動と診断されなかった例が45.9%、さらに心房細動と診断されたにも関わらず、抗凝固療法が行われなかった例がそのうち4割強もあったことが明らかにされている。ここからは、脳卒中発症前に心房細動を検出することと、心房細動が認められたら抗凝固療法を行い脳梗塞を予防することというメッセージを読み取ることができる。ただし、心房細動が「見つけられない」理由の一つには、心房細動の患者の37.7%が無症候性、すなわち自覚症状が乏しい点も挙げられる(図4)。
図4. 日本人心房細動患者における「無症候性」の割合
したがって、心房細動を発見するためには、検脈などによって自身でチェックすることも重要となる。また、心房細動検出ための「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」の改訂版が2022年に出され、様々なデバイスによるスクリーニングと治療に関する特徴がまとめられているが、携帯型の心電計などで頻回かつ長期間モニターすることでも、心房細動を発見する機会は増えると考えられている。
心房細動のカテーテルアブレーション
さて、心房細動の非薬物治療では、カテーテルアブレーションという心臓の内側から疾患の原因となる部分を焼き切る治療が行われる。わが国においてカテーテルアブレーションは年間で約10万件行われているが(図5)、心房細動に対しては年間で7~8万人に対して施行されている。
図5. カテーテルアブレーション施行率の変遷
現在では心房細動カテーテルアブレーションの対象となる適応も拡大するとともに、新しい治療法としてパルスフィールドアブレーションという短時間の強力な電気パルスを利用した手法も本邦でも開始されている。
薬物治療に関しては、直接経口抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulant: DOACという血をサラサラにする経口抗凝固薬を、リスクの高い高齢者すなわち腎機能障害や低体重、フレイル、認知症などを有していても適応があれば積極的に使用するということが最新のガイドラインで謳われている。
心房細動は、病態生理をふまえて併存疾患・生活習慣を管理するとともに、脳梗塞の発症を防ぐためには症状がない段階で早期発見すること、そしてカテーテルアブレーションや抗凝固療法を適切に行うことが重要である。
INDEX
- 第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」