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心筋炎・心筋症 Question 3

早期再分極か心膜炎かのST上昇はどうやって見分けるのですか

早期再分極とは若年男性に多い無症候性のST上昇です。従来は健常人の5?10%にみられる良性所見とされていましたが、近年ではその一部で心室細動による突然死との関連性を指摘されています。心室細動の既往のある患者の31%に早期再分極を認め、さらに早期再分極を有する場合には心室細動の再発率も高かったとの報告もあります(Haissaguerre M et al., N Engl J Med, 2008)。どのような症例で心室細動発症リスクが高いのか解明すべく、様々な検討が進められています。

心電図で早期再分極と鑑別を要するST上昇をきたす疾患として、心膜炎があります。心膜炎には感染、薬剤、膠原病、心臓手術、心筋梗塞、悪性腫瘍、腎不全等のさまざまな原因があり、呼吸や体位で変動する胸痛や心膜摩擦音の聴取、心膜液貯留などいくつかの特徴的な症状、所見がみられます。実際の診療現場では胸痛症状や炎症所見の有無などが両疾患の鑑別に重要です。ただ、中にはこれらだけでは診断が困難な症例も存在します。

したがって、心電図もその鑑別に重要な役割を果たします(Wang K et.al., N Engl J Med, 2003)。早期再分極と心膜炎いずれの場合も上へ向かって凹型(鞍状)のST上昇がみられますが、これを認める誘導が異なります。早期再分極ではV3?V6誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導の場合もあります)でST上昇が多くみられます。一方、心膜炎ではST上昇の範囲が広く、炎症のある心外膜の領域に対応するすべての誘導(aVRとV1以外)に生じることが一般的です。


A 心膜液貯留を伴う急性心膜炎の38歳女性。広範な誘導でST上昇および四肢誘導の低電位を認める。
B 早期再分極がみられた43歳男性。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でST上昇を認める。
加藤図.jpg

 

急性心筋梗塞もST上昇の重要な鑑別疾患ですが、特定の冠動脈灌流域に限定した誘導でのST上昇と、その鏡面像がみられるのが特徴です。すなわち、ST上昇のみられる部位の対側となる誘導で、STが低下します。例えば右冠動脈の閉塞によってⅡ、Ⅲ、aVF誘導でSTが上昇した場合には、Ⅲ誘導の対側であるaVL誘導でST低下がみられます。一方、早期再分極および心膜炎ではⅡ、Ⅲ、aVF誘導でST上昇があっても、aVL誘導ではなくaVR誘導でST低下を認めるという点が、大きく異なります。

また、心膜炎では時間経過でST-T部分が変化します。発症後数日でST部分は基線に戻ってその後にT波が陰性化し、さらに数週?数ヶ月後にはこの変化も正常化します。一方で、早期再分極ではST上昇の程度に日内変動があることや、頻脈や過換気により軽減もしくは消失することが知られています。

心膜炎では心房筋の障害によるPR部分の低下が有名ですが、実は早期再分極でも観察される場合があります。出現頻度は少ないですが、心房組織での早期再分極を反映したものと考えられています。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

心電図でST上昇を見たときは、胸部症状の有無とSTが上昇している誘導を確認しましょう。

回答:加藤 武史

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