日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 動脈疾患・脂質異常に関するQ >大動脈解離はどういう人に生じやすいですか

循環器最新情報 日本心臓財団は医療に携わる皆様に実地診療に役立つ循環器最新情報を配信しています。是非お役立てください。

診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

動脈疾患・脂質異常 Question 5

大動脈解離はどういう人に生じやすいですか

大動脈解離とは大動脈の中膜に生じた亀裂から血流が偽腔内に流入し剥離する大動脈疾患の一つです。大動脈の脆弱性は中膜の嚢状中膜壊死が重要ですが、中膜の変性がなぜ起こるかはまだ解明されていません。

性別でみると女性に比べ男性で約2~3倍多くみられます。一部は先天性大動脈2尖弁やMarfan症候群、Ehlers‐Danlos症候群などの遺伝性疾患ですが、60歳以上で高率に起こり、高血圧と密接に関連しています。大動脈解離の発症ピークは70~80歳代の男性に多くみられます。

病理組織学的には高度の粥状動脈硬化はまれで、軽度から中等度の動脈硬化と関連があります。また近年本格的な高齢化社会となりその発症頻度は増加の一途を辿っています。

大動脈解離の疫学は診断が容易でない症例も多く、本邦の疫学統計は限られていることより未だ不明な点が多く残っています。監察医務院での剖検例や臨床例の検討から、季節性があり冬季に多く発症し、年齢が上昇するにつれて女性の比率が増加することがわかっています。

また、短時間で死亡するcaseほど高齢者、女性に多い傾向がみられます。竹内らの報告(Takeuchi T, et al : J Clin Epidemiol 57 : 386-391, 2004)では、約70%以上で高血圧を有し、さらにStanford A型はB型と比べ低タンパク、低コレステロール血症の頻度が多く、喫煙歴、アルコール飲酒歴の比率が少なかったことより、内膜裂口の部位とは無関係に上行大動脈の解離の有無による大動脈解離のタイプ間で発症の機序が異なる可能性を示唆しています。

大動脈疾患の中には大動脈解離以外に大動脈瘤があります。同じく高血圧・動脈硬化を基にした疾患ですが疾患概念・病態は異なっています。腹部大動脈瘤は粥状動脈硬化を基礎病変として存在することが多く、病理組織学的には著明な粥腫が中膜内もしくは中膜を越えて存在し、中膜弾性線維の破壊と平滑筋細胞の萎縮を伴います。男性が女性より4~5倍多く、60歳を超えてから発症頻度が増加します。また喫煙は大動脈瘤の発症と破裂リスクの危険因子であることが知られています。

一方、胸部大動脈瘤は上行大動脈における嚢状中膜壊死による瘤形成が最も多く、中膜壊死や弾性線維の断裂や減少、中膜内の酸性ムコ多糖類の沈着が認められます。男性が女性より2~3倍多く、60~70歳台で発症します。60%の症例で高血圧が認められ、20~25%に腹部大動脈瘤が合併しているといわれています。両者とも破裂は致死的な合併症であり大動脈瘤の早期診断や破裂の予知が重要です。

Only One Message

大動脈解離は日常臨床で接する可能性が高く、まれな疾患ではありません。予後不良な急性疾患であり、迅速な診断と臨床対応が求められます。高血圧があり胸背部痛を有する場合、常に大動脈解離を念頭に診察を心がける必要があります。確定診断は造影CTです。

回答:呉本 健一

キーワード検索

検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。

ご寄付のお願い