日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 虚血性心疾患に関するQ >安定している虚血性心疾患の患者さんの治療に欠かせない薬物治療を教えてください
虚血性心疾患 Question 2
□安定した虚血性心疾患の薬物治療の目的は、①心筋虚血による症状のコントロール、②急性心筋梗塞や死亡といった重大な心血管イベントの予防の二つの点です。薬物治療には、心筋虚血の症状を抑えるためのβ遮断薬・Ca拮抗薬・硝酸薬・ニコランジル、心血管イベント予防のためのアスピリンなどの抗血小板剤、スタチン、レニン-アンギオテンシン系抑制薬などが含まれます(表)。
表 安定している虚血性心疾患患者に対する治療薬の目的
□β遮断薬は、心拍数や心筋収縮を抑制することにより心筋酸素消費量を減少させて抗狭心症作用を発揮する薬剤で、労作性狭心症の第一選択薬です。心筋梗塞後の慢性期では、梗塞部位の菲薄化・伸展から非梗塞部位を含めた左室全体の拡張が進行して慢性心不全に至る左室リモデリングの抑制(CAPRICORN Echo Substudy. Circulation 2004; 109: 201-206)や心室性不整脈の抑制をして予後を改善する効果があります。しかし、日本人に多い冠れん縮を悪化させる可能性があり、夜間・早朝の安静時胸痛の有無などの確認が必要です。
□Ca拮抗薬は、冠血管拡張作用と強い降圧効果による後負荷軽減などの作用により狭心症発作を予防します。冠れん縮性狭心症には第一選択薬となります。β遮断薬やACE阻害薬と比べると心血管イベントに関するエビデンスは十分ではありませんが、日本人の心筋梗塞後の患者において、長時間作用型Ca拮抗薬は、β遮断薬とほぼ同等の心血管イベントの予防効果が示されています(JBCMI. Am J Cardiol 2004; 93: 969-973)。冠れん縮の関与がある症例、血圧のコントロールが不十分な症例などが良い適応となります。
□硝酸薬は、動脈拡張による後負荷軽減、静脈拡張による前負荷軽減、冠血流増加作用などにより抗狭心症作用を発揮します。狭心症発作時の寛解目的に短時間作用型硝酸剤(ニトロペンなど)が用いられます。長時間作用型硝酸薬は狭心症発作の予防には効果がありますが、予後改善のエビデンスは不十分で、狭心症発作の無い陳旧性心筋梗塞の患者への漫然とした投与は勧められません。
□ニコランジルは、K+チャネル開口作用と硝酸薬の作用を併せ持っていて、硝酸薬と比べて選択的に冠動脈を拡張するため、血圧低下の副作用が少ない薬剤です。IONA trial (Lancet 2002; 359: 1269-1275)では安定した狭心症患者の予後を改善することが示されております。血圧低下の心配が少なく、予後改善効果が示されており、冠れん縮・器質的狭窄病変のいずれの狭心症にも効果がある使いやすい薬剤なので、狭心症の治療で、とりあえずニコランジルが処方されることは多いと思います。
□アスピリンは、抗血小板作用を有し、安定狭心症患者において、心筋梗塞、死亡などの心血管イベントを減少させます(SAPAT trial. Lancet 1992;340:1421-1425)。副作用として、消化性潰瘍や上部消化管出血がありますが、その予防にはプロトンポンプ阻害薬などの併用が有用です。アスピリンは、禁忌が無い限り投与すべき薬剤です。
□ACE阻害薬は、心筋梗塞後の左室リモデリングの抑制や再梗塞の減少などの効果があり、心血管イベントを減少させます(SAVE trial. N Engl J Med 1992; 327: 669-677)。さらに、HOPE study (N Engl J Med 2000; 342: 145-153)では、心機能が保たれた虚血性心疾患患者においても同様の効果が認められております。心筋梗塞の既往のある患者には投与すべき薬剤であり、心機能が保たれた虚血性心疾患患者にも効果が期待できます。アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、ACE阻害薬とほぼ同様の効果があり、最近では、ACE阻害薬の代わりに投与されることも多い薬剤です。
□スタチンは、多くの虚血性心疾患患者の二次予防のエビデンスがあり、ほぼ必須の薬剤です。冠動脈プラークの安定化、進展抑制・退縮効果が期待できます。虚血性心疾患患者では、少なくともLDL-コレステロール 100mg/dL未満を目標に脂質管理をするべきです。
□心筋虚血の症状をコントロールする薬剤は、症状の起こり方、血圧などに応じて調整する必要があります。予後改善目的の薬剤は、「アスピリン+β遮断薬(冠れん縮を除く)+レニン-アンギオテンシン系抑制薬(特に心筋梗塞既往例)+スタチン」が一つのパターンです。
回答:倉林 学
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