拡張型心筋症は、半年毎の心エコー検査で大丈夫か
57歳の父の件でご相談いたします。
会社の検診で心拡大を指摘されており、5年前に循環器専門病院を受診したところ、肝臓の検査結果が1,000以上だったため、家族が呼び出され心拡大よりも肝臓が先決と別の病院に移されました。その時のカルテにはすでに「拡張型心筋症」と書いてありましたが、心臓は特に治療はせず、半年毎に心エコーをしてきました。
一年前に、心エコーの結果が60%なので、投薬治療(アーチスト、レニベース、ウルソ)をすることになり、1ヵ月後の検査で50%になったそうです(心臓の働きは30%)。
更に投薬量を徐々に増やしながら半年間治療してきましたが、先日の心エコーでは良くもなっていないが、悪くもなっていないので、このまま投薬を続け、また半年後に心エコーとのことです。
自覚症状として動悸があったようですが、投薬により軽減されたとのこと。
最近痩せてきた様に思えます。特に日常生活の制限はありませんが、具体的な数値の指示はありませんが、水分、塩分をなるべく控えるとのこと。
他に慢性肝炎があり、肝炎では3度入院しています。
そこで質問なのですが、
1)60%や50%とは何を意味するのでしょうか。また、50%に下がったというのは良いことなのでしょうか。
2)本人は投薬を開始してから疲れやすいと言っておりますが、これは副作用なのでしょうか、症状の悪化によるものなのでしょうかか。放っておいてよい症状なのでしょうか。
3)父のような症状で半年後の心エコーで本当に大丈夫なのでしょうか。
4)投薬治療で現状維持というのは、効果があるのでしょうか。それとも効果はみられないのでしょうか。
5)父のような症状は心臓移植適用になる可能性が高いのでしょうか。また、軽度、中度、重度ではどの段階になるのでしょうか。
6)日常生活での注意点は本当にないのか。
回答
まず、拡張型心筋症とはどんな病気かを説明しましょう。
この病気は原因不明の心拡張を起こしてくる心臓病で、通常の治療法ではなかなか治りにくく、予後が不良で、心拡張が進み、やがては心不全や不整脈が進行して死に至る悪性の心臓病です。
どんな症状があるかというと、最初は息切れ、動悸、呼吸困難、疲労感、胸痛、肺梗塞による胸痛、うっ血肝による肝腫大、腹痛脾、腎などうっ血性腫大、手足のむくみ、などを生じます。またあらゆる種類の不整脈、頻脈、徐脈、ときには突然死の原因や前兆となる悪性の不整脈などがしばしばみられます。本症の余命率は人によって差はありますが、平均して約5?6年といわれております。最近、新しい治療法の進歩によって生存率はやや改善したようにも思われます。
次にご質問の各項についてお答えしましょう。
1)60%、50%というのは胸部X線写真正面像で示されている心胸郭比のことと思います。健常者では50%位ですが60%というと心臓がやや拡大していること、また50%になったというのは治療によって、うっ血がとれ、心臓がやや縮小してきたということだろうと思います。また30%というのは心臓の収縮度を示す指数でそうだとすると、心臓はまだよく収縮しているということだろうと思います。
2)いろいろな可能性が考えられますが、もちろん副作用の可能性も否定できません。数字が小であると収縮が悪いということです。いろいろな原因があります。また、肝障害、栄養障害、食思不振の可能性もあります。また心不全の患者さんで利尿薬の飲み過ぎにより利尿がつき過ぎた場合、あるいは過度の水分摂取の制限によって脱水現象をきたした場合などにみられます。いずれにせよ、原因をよく調べることです。飲水量は800ml位を限度にして、それよりも厳しく制限しないで下さい。また、レニベースやアーチストを服用しておりますが血圧の下げ過ぎにご注意下さい。
各種の不整脈、低カリウム血症、低ナトリウム血症その他が考えられますから、念のために心電図や血液検査をしてみる必要があるかも知れません。医師によくご相談下さい。
3)拡張型心筋症は根治的治療は期待できません。慢性的に推移して、次第に悪化していくのが一般的な経過です。従って、症状の比較的安定している限り、頻回にエコー検査を繰り返してもあまり意味はありません。
4)この病気は極めて慢性に経過して、徐々に徐々に悪化していくものですから、短期間の動きだけをみて、よくなった。あるいは悪くなったと一喜一憂するのではなく、長い目でみて判断をする必要がありましょう。検査成績などを含めて総合的にみていくべきと考えます。
5)現在のところ心臓移植しか長期治療の可能性はありません。しかし、わが国あるいは世界的にもドナー(心臓提供者)不足が問題になっているようになかなか困難です。またその必要があると認められても、全国的な専門医の委員会があって、その決定に従って優先順位が決められることになっております。
6)日常生活の管理・注意点・症状によって決まる。
日常生活で動悸、息切れなどを感じない軽い場合、普通の生活で可。室内歩行や事務的な仕事に留める。
重症になるにつれて、安静、臥床を守らせる。激しい運動、労作を避ける。病状が進み安静時の呼吸困難が生じたら、上半身を少し起こし、呼吸が楽になるような姿勢をとらせる。すなわち、体位を変えさせる。
食塩は8?10g程度にする。
水分摂取はあまり厳しくしない、むくみがひどくても1日800?700ml程度の制限に抑える。
強心薬、利尿薬、ACE阻害薬、ベータ遮断薬の投与はそのまま続ける。ACE阻害薬やベータ遮断薬は最近になって、その効果が認められてきた薬剤で、慢性長期連用によって効果が現われてくるものであります。
その他、慢性肝炎の治療は心筋症の治療に平行して行って下さい。肝炎の専門医によくご相談下さい。