疾患別解説

疾患別の解説と過去の相談事例がご覧いただけます。

機械弁か生体弁か迷っています

59歳 女性
2020年1月18日

重症の大動脈弁狭窄と診断され、突然倒れるリスクがあるので手術適応とのことです。

手術時までに機械弁か生体弁の選択をしなければなりません。医師は、年齢が59歳なので耐久性からは機械弁だが、生体弁も近頃は寿命が長くなっていて、カテーテルを使った再手術の技術が登場しており、日本では標準治療とまではなっていないが、海外ではよく行われているとのことでした。

機械弁を選択してワーファリンを一生飲むというのは、今後高齢になるにつれ薬の自己管理に不安があるし、現在持病は甲状腺低下のみですが、将来がんなどの他の病気にかかり検査や治療をすることもあると思うので、できれば避けたいと思っています。

ご意見をお聞かせください。

回答

重症の大動脈弁狭窄で外科的治療を勧められていて、手術を受ける場合に機械弁か生体弁かで迷われているとのことです。

すでに説明を受けられたように、大動脈弁狭窄で開胸術をする場合、機械弁と生体弁の選択肢があります。カテーテルを使った弁置換術(TAVI)は、高齢やフレイル(虚弱)で開胸術に耐えられない場合に用いられるものなので、今回のご相談者様の場合は適応外になるでしょう。

機械弁は弁の寿命は半永久的ですが、血栓塞栓症を避けるための抗凝固療法としてワーファリン服用が必須です。生体弁では弁の寿命が10年から15年と言われていますがワーファリンは不要です。診療の手引きとして世界の様々な地域で『ガイドライン』が発表されています。日本でも、いくつかの学会が協同して『弁膜症ガイドライン』が提案されています。日本では65歳を超えたら生体弁を勧めることが記載されています。一方米国のガイドラインでは55歳から70歳の間は、どちらでも良いことが記載されています。

59歳ですと、機械弁か生体弁かはとても難しい決定です。どちらにも利点と欠点があるからです。欠点から考えてみましょう。ワーファリン服用を避けるためには生体弁が選ばれます。生体弁が劣化するまでの期間は確かに改善され延長していますが、若くて活動性が高い患者さんほど、弁の寿命が短くなります。また、心房細動などを合併するとワーファリンが必要になります。一方、生体弁の場合には、次回には先ほどご紹介したTAVIの治療が可能です。実際に使えるかどうかは、その時の再評価が必要ですが、機械弁にはこの選択肢がありません。

機械弁の欠点は血栓塞栓症リスク、それを下げるためのワーファリン治療が必要なことです。ワーファリンは効き過ぎれば出血リスクが高くなるため、厳密なコントロールが必要です。また、弁の構造的劣化がなくても、血栓塞栓症や感染で再手術が必要になる可能性があります。最近の論文では、機械弁のメリットは55歳までともいわれています。一方、機械弁のメリットは、弁の寿命が長いことです。機械弁が用いられた多くの若年例では、ワーファリンを服用しながら良好な予後が期待できます。

実際の臨床現場では、年齢だけで弁を決定することは困難で、その他の様々な要因を考慮し、患者さんのご希望を取り入れつつ循環器内科と心臓血管外科がいるハートチームで総合的に診断・決定するプロセスが役立っています。ぜひ、ご担当の先生に、よくお話を聴いておくことをお勧めします。

この回答はお役に立ちましたか?

病気の症状には個人差があります。
あなたの病気のご相談もぜひお聞かせください。

高齢者の心臓病 高齢者の心臓病
CLOSE
ご寄付のお願い