慢性心房細動に対する最近の治療
6年前に人間ドックにて指摘され、内服薬による治療を受けていました。現在、近所のクリニックに通院しています。現在の主治医は、カテーテルアブレーションによる治療には否定的で、投薬治療を継続しています。服薬している薬は、ワソラン、ルプラック、ワーファリンなどです。
私としては、いつ脳梗塞が発症するかと不安であり、当初の発見時に電気ショックによる治療を受けたほうがよかったのではないか、とか、大きな病院でカテーテルアブレーション治療を受けたほうがよいのではないかと考えています。
最近の心房細動に対する治療方針について、教えてください。
回答
従来は、孤立性心房細動(心臓弁膜症や心筋症など重篤な基礎心疾患があり、そのために左心房に負荷がかかって心房細動を起こしている場合を除いたもの)で発作性あるいは持続性心房細動であれば、直流通電あるいは薬物を用いて除細動し、再発を防止するために抗不整脈薬を用いるという治療法(これをリズムコントロール治療といいます)が一般的でした。
このリズムコントロール治療が、除細動しないでジギタリスなどの薬剤を用い、心房細動のまま心拍数のみを正常範囲にコントロールする治療法(これをレートコントロール治療といいます)よりも本当に有用性が高いかどうかを見きわめる必要が生じ、欧米でAFFIRM試験およびRACE試験という大規模試験が行われました。
その結果、両方の治療法に差がない、むしろレートコントロール治療のほうが安全性に優れている可能性があることが示されました。しかし、薬剤の用い方などにわが国と大きな違いがあり、欧米人を対象にして得られたこの成績を日本人の心房細動治療にそのまま応用してよいのか、大問題になりました。
そこで、わが国独自の大規模試験として行われたのがJ-RHYTHM試験です。発作性心房細動ではリズムコントロール治療がやや有用であるが、持続性心房細動ではレートコントロール治療も遜色がないという結果でした。
このような現状を踏まえて、現在、日本循環器学会で「心房細動治療(薬物)ガイドライン2008年版」が策定されました。このガイドラインをもとに、個々の症例に合った治療法を考えていくことが重要になります。
ご質問の方の場合を考えて見ますと、心エコーなどで確認する必要がありますが、心房細動が長期間持続していることから、すでに心房の構造的リモデリング(組織が線維化して拡張した状態)が起こっていると推測され、除細動はかなり困難と考えられます。
また現在広く行われるようになってきたカテーテルアブレーションは肺静脈隔離法と呼ばれる方法で、成功率はきわめて高いのですが、発作性心房細動や持続性心房細動を対象とした治療法であり、何年もつづいている慢性心房細動に対しての有効性は今ひとつというところがあります。
お問い合わせの内容を拝見しますと、ワーファリンによる抗凝固療法が確実に行われており、レートコントロール治療も的確であり、現状では最善の治療が行われていると判断して良いと思います。