内臓脂肪とインスリン抵抗性
会場 内臓脂肪とインスリン抵抗性はどういう関係でしょうか?
曽根氏 蓄積した内臓脂肪から異常分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)がインスリン抵抗性の一因となって、このインスリン抵抗性が、メタボリックシンドロームを構成する個々のリスクを生み出す背景になっているというのが、現在のところのコンセンサスです。肥満もインスリン抵抗性も、歴史上一貫してメタボリックシンドロームという概念の底辺に流れてはいますが、それらだけで単純にすべてが説明できるものでもないと思います。
ウエスト周囲径と糖尿病患者のリスク
座長(山口氏) 日本の糖尿病患者さんで、日本版のメタボリックシンドローム診断基準に合致する人は30%弱程度にすぎないということになりますが、肥満がリスク増大に影響していないわけではないようですね?
曽根氏 日本でも肥満は増えていますが欧米ほどではないので、ウエスト周囲径が何pになると、これだけのリスクが出てくるというところまではわかっていません。しかし、今後肥満が増えれば、糖尿病の患者さんでも、ここからはリスクがあるとはっきり言えるポイントが明らかになってくると思います。将来、肥満が進むという日本の状況を見越して警鐘を鳴らしたという意味では、ウエスト周囲径を必須とした診断基準は社会的意義が高いと思います。
メタボリックシンドロームと各合併症の関係
座長(山口氏) メタボリックシンドロームという概念が、「肥満から何が起こっているのか」という考え方を基本にしているのであれば、「肥満症候群」というように焦点を絞った呼び方にした方がよかったのではないでしょうか。メタボリックシンドロームとしてしまったために、肥満だけでは収まらず、多くのことを含む話になってしまったようですが、いかがでしょうか?
宮崎氏 大切なことは、メタボリックシンドロームは複合型の病態だということだと思います。高血圧や高脂血症、糖尿病は単独でも心血管病の危険因子になる病態です。ただ、糖尿病の中でも内臓脂肪の蓄積がある場合には、高脂血症や高血圧を起こしやすい。これが偶然ではなく、内臓脂肪の機能異常によって起こる病態だとすれば、1つの疾患概念として捉えるべきだと考えています。つまり、メタボリックシンドローム型の糖尿病、あるいはメタボリックシンドローム型の高脂血症、高血圧といえると思います。
BMIとウエスト周囲径:どちらがリスクとして大きいか?
座長(山口氏) メタボリックシンドロームの概念によって、肥満を体重ではなくウエスト周囲径でみるという見方が出たという点で、インパクトが大きかったと思いますが、BMIとウエスト周囲径では、どちらがリスクとして大きいのでしょうか?
曽根氏 糖尿病患者を対象に、BMIとウエスト周囲径のどちらが影響が大きいのかという検討を現在行っています。日本人の糖尿病患者においては、BMIの方が血清脂質や血圧などのコントロール状態と相関性が高いという状況があるので、ウエスト周囲径だけでなく、BMIも併用しつつ日本人のデータを積み重ねていくことが大切だと思います。
会場 どちらも大事だということでしょうか?
曽根氏 そうですね。それからウエスト周囲径ということで言えば、日本のメタボリックシンドローム診断基準のウエスト周囲径は、内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲径ということで決められましたが、その理由はその値になるとリスクファクターの保有数が格段に増えるためです。しかしメタボリックシンドロームを診断することの意義は、心血管疾患ハイリスクグループを見出して早めの介入を行うことですので、本来はリスクファクター数でなく、心血管疾患発症率に基づいて決められるべきなのです。残念ながら現時点では、その発症率との関係を示すデータがないために、やむを得ず上記の基準値が使われているわけで、これによって警鐘を鳴らし、社会的関心を高めていくことはいいことだと思います。しかし将来的には、ウエスト周囲径の基準値も、今後のデータが積み重なっていくことで、変わっていく可能性はあると思います。
肥満と運動療法の効果
会場 糖尿病予備軍や一般の人が、肥満解消のために運動する場合、何か目安はありますか?
曽根氏 糖尿病患者の場合でいうと、これぐらいの運動量でいいというはっきりしたエビデンスは今のところないのが実情です。そこで現在は、学会などが定めたガイドラインに従って、1日に30〜40分ぐらいの有酸素運動、ウォーキング、水泳などを1日おき以上でやっていただくことを勧めています。そうすることで、境界型の人が、本当の糖尿病になっていくリスクも減らすことができます。
座長(山口氏) 内臓脂肪を減らす運動というのはありますか?
宮崎氏 内臓脂肪だけを減らす具体的な運動があるわけではありません。しかし、内臓脂肪の蓄積の原因は、食事も関係しますが、運動量が低下していることが非常に大きいのではないかといわれています。また、運動によって、皮下脂肪よりも内臓脂肪が低下することがわかっています。今後は内臓脂肪を減らすためにはどのような運動をすれば良いか、ということを検討すべきだと考えております。