メディアワークショップ

一般市民の皆さんに対する心臓病を制圧するため情報発信、啓発活動を目的に、
情報発信能力の高い、メディアの方々を対象にしたワークショップを開催しております。

第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~

従来、循環器疾患の発症に関しては、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が大きなリスクとして関与しているといわれてきた。しかしながら近年、それに加え、気温の変化、季節変動も大きなイベント発症のトリガーであり、特に住環境によっても血圧の上昇が認められている。
苅尾七臣氏は、「気温感受性高血圧」といわれる気温の変化が血圧に与える影響を中心とした研究について、その概要と対策を概説した。

心血管イベントのトリガー、「気温感受性高血圧」

 心筋梗塞などの心血管イベントは、急激な気温の変化や喫煙など、様々なリスクが重なった際に、血圧が急上昇し、血管の攣縮によって生じる。こうしたイベントのトリガーになるものは何か? 日本人の心血管イベントによる死亡の季節変動をみると、夏場は少なく、寒い時期におおよそ1.5倍から2倍くらい高くなるのがわかっている。気温の変動は特に血圧の上昇と直結しているため、高血圧がイベントの誘引、重要なトリガーになると考えられる。
苅尾氏らは、10℃の気温変化で血圧が10mmHg以上変動する病態を「気温感受性高血圧」と名づけ、心血管イベント発生の新しい概念として捉えている。

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図1.日本人の心血管イベントによる死亡の季節変動

疫学データをみると、心血管イベントによる死亡は、収縮期血圧においては20mmHg、拡張期血圧は10mmHg上昇すると、それぞれ2倍ずつ増加する。従って、血圧をしっかりコントロールすることが重要であることがわかる。

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図2.心血管死亡は血圧20/10mmHgの上昇で2倍ずつ増大する

早朝時の高血圧、モーニングサージが心血管イベントのリスク

心血管イベントの多くは、早朝に発症する。この重要なリスクと考えられているのは、起床後の血圧の急上昇、モーニングサージである。加齢に伴う血管の弾力性低下などが原因と考えられるが、このモーニングサージも、苅尾氏らによる24時間血圧モニタリングを用いたレジストリ研究によって、冬季に増強されることがわかっている。

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図3. 血圧モーニングサージは冬季に増強

さらに苅尾氏らは、オムロンヘルスケア株式会社、慶應義塾大学理工学部、OMソーラー株式会社との産学共同研究で、「住宅の床近傍室温が冬期の家庭血圧に及ぼす影響」についての調査を実施した。目的は住宅の床近傍室温と家庭血圧の関係の検証で、調査期間は2014年の11月から2015年2月のうち約2週間、首都圏在住の35~74歳の男女を対象に、室内での血圧を測定した。その結果、居宅の断熱性能によって血圧は異なり、断熱性能が低い場合は有意に平均血圧が高いことが明らかになった。

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図4. 寝室の室温と収縮期血圧(起床後)の関係

足元の「ひえ」が血圧の変動をもたらす

同調査からは、断熱性能が低い住宅の居住者において、血圧の変動は足元からの高さによって異なり、高さ1.1mの室温が10℃下がると血圧は5mmHg上昇、高さ0.1mと、より低いところで室温が10℃下がると、血圧は9mmHg上昇した。
このことから、特に足元の「ひえ」が血圧の変動をもたらすことが示唆された。冬期の血圧上昇を抑えるためには、部屋全体よりも足元を冷やさないための工夫が必要と考えられる。

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図5. 居室室温と収縮期血圧(起床後)の関係

血圧サージの共振仮説

血圧は、日内、日間、また季節性など、異なる時相によって変動する。これらが共振することで生み出される大きな変動、ダイナミックサージが、心血管イベント発症のトリガーになると考えられる(血圧サージ共振仮説)。
これを防ぐためには、インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー(ICT)を用いた新規血圧の測定、診療支援システムの開発が、医療費を抑制することにもつながると考えられている。

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図6. 循環器イベント・トリガーの血圧サージ共振仮説

循環器疾患の発症を予防し、「イベント・ゼロ」を目指す

心血管イベントの発症を回避するためには、生活習慣の改善以外に、住環境の改善も重要と考えられる。ICTシステムの活用によって「リアルタイム予見・予防医療」の基盤を作ることは、循環器疾患の「イベント・ゼロ」にもつながる1)
苅尾氏は、循環器疾患の一次予防とともに、心血管イベント発症を防ぐ二次予防の重要性について触れ、講演を結んだ。

1) Kario K. Prog Cardiovasc Dis. 2016 Apr 11. [Epub ahead of print]

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