不整脈(心房細動)って、どんな病気?
不整脈(心房細動)って、どんな病気?
清水 渉(日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 大学院教授)
心房細動とは?
心臓は左右の心房と心室の4つの部屋からなり、全身に血液を送り出すポンプのはたらきをしています(図1)。心臓は右房の上部にある洞結節(どうけっせつ)という、いわゆるペースメーカーから発生する電気刺激により、まず、心房が興奮します。さらに、電気は房室結節(ぼうしつけっせつ)を通って、心室に伝わり、心室が興奮します。これを12誘導心電図という心電図の記録で見ると、このような波形になります(図2)。前の小さな波(P波)が、心房の興奮をあらわす波です。少し遅れて大きな鋭い波(QRS波)が、心室の興奮をあらわす波です。
このように、心房と心室が連動して興奮することで、正常の脈拍がつくり出されています。
心房細動では、心房に正常な興奮が起こらず、1分間に400~600回ほどの興奮が規則性なく起こり、心房が痙攣(けいれん)した状態になります。この興奮が先ほどの経路で心室にそのまま伝わると大変で、心臓がまったく動いていない心室細動と同じ状態となり、すぐ死んでしまいます。そこで、房室結節が電気を通すフィルターの役目をして、心室に伝わる脈拍数を制御しています。
心房細動の心電図は、P波はなく、基線が乱れて揺れたような状態となり、心室の興奮であるQRSの間隔がばらばらになります。多くの場合、心電図では脈が乱れて速くなります(図3)。
心房細動の患者数は年齢とともに増え、70歳以上では男性の3~4%、女性の2%にみられます。2019年現在、わが国の患者数は約100万人といわれていますが、これは健康診断時に見つかった人で、ときどき発作が起こる発作性心房細動の人まで含めれば、百数十万人にのぼると考えられます。
これほど多い病気ですが、心房細動の半数以上には、症状がありません。健康診断を受けて、初めて心房細動を指摘され、医療機関を受診するケースも多くあります。残りの半数には、不整脈自体を反映して起こる症状(動悸、胸部不快感など)や、不整脈によって血の巡りが悪くなることによる症状(疲労、めまい、失神など)が出る場合もあります。動悸は、一言で表現しづらい症状ですが、「何となく脈が乱れる」「ざわざわする」と訴える方もいらっしゃいます。また、年のせいで疲れやすいと思っていたら、実は心房細動だったということもよくあります。
心房細動かどうか診断するには、①既往歴、動悸などの症状の有無、②身体所見、血液検査などの臨床検査所見、③心電図記録(12誘導心電図、ホルター心電図、携帯心電計)、④胸部X線検査、⑤心エコー検査(経食道心エコー検査)などが行われます。確定診断は、不整脈が発現している間に心電図に記録することが重要です。心電図は、どのような記録でも有効です。最近では、心電図記録装置を用いて心拍を頻回かつ長期間モニターできる携帯心電計も市販されており、患者さんが記録した心電図から、心房細動が発見される機会も増えています。
診断のきっかけづくりとしては、2019年3月のアメリカ心臓学会(ACC)で、40万人の市民がApple Watchをつけ、どのくらいの頻度で不整脈が見つかるかを調べた「Apple Heart Study」の結果が発表され、高い検出率が報告されました。ウェアラブル端末の可能性を示唆する研究として注目されています。
心房細動の治療-薬物治療とカテーテルアブレーション-
心房細動の治療の基本は薬物治療です。薬物治療には、抗不整脈薬によって心房の興奮を抑える「洞調律維持療法」と、房室結節のフィルターのはたらきを強化して、心室に伝わる興奮を減らす「心拍数調節療法」があり、不整脈の経過とともに、治療法も異なります(図4)。
また、治療では、カテーテルアブレーションも行われます。アブレーションは「焼灼」のことで、「カテーテルを用いて高周波のエネルギーで不整脈を焼き切る」という意味です。
心房細動の最大の原因は高血圧です。血圧が高いと心臓に負担がかかり、心臓の各部屋の圧力が上がってきます。左室、左房の圧が上がり、最終的にはその上流にある肺静脈の付け根あたりから、心房細動を誘発する電気刺激が出ます。この原因を根絶すれば、不整脈を治せると考えたのが、フランスの医師、ハイサゲル先生です。1998年、ハイサゲル先生が心房細動の引き金の90%は肺静脈付近であることを報告して以来、電極のついたカテーテルを足の付け根などから心臓に入れ、心臓の内側から肺静脈の周辺を焼き切る方法で、心房細動を治療するようになりました。
治療成績も良好で、日本医科大学の場合、アブレーションの成功率は発作性心房細動で約90%、持続性心房細動でも約80%と高い数字になっています。アブレーション治療を受ける人も年々増えており、7~8年前の年間3.5万件から、現在は7万人と普及しつつあります。
心房細動でアブレーションが適応になるのは、第一に薬物治療で効果がない場合や、動悸などの症状がある発作性心房細動などですが、第83回日本循環器学会学術集会で発表された「不整脈非薬物治療ガイドライン」では、心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応がさらに拡大されました。すなわち、症状がある発作性心房細動では、薬物治療をしなくてもクラスIの適応となり、今後はさらに心房細動に対するカテーテルアブレーションは普及してくると思われます。
また、海外のデータですが、カテーテルアブレーションと薬物治療では、死亡や心血管入院(心不全の入院)について、アブレーションのほうが治療成績がよいことが報告されています。
さらに、アブレーション技術も進歩しており、近年では、クライオ(冷凍)、ホット、レーザーといったバルーン(風船)を用いたアブレーションも登場しています。通常の電極カテーテルでは、肺静脈を隔離するのに何回も焼いていたのが、1~2回の通電で隔離でき、症例は限られますが、効果が期待されています。
心原性脳塞栓症を予防するには
心房細動は命にかかわる不整脈ではありませんが、心房細動が原因となって起こる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は命に直結します。心房細動になると、心臓のなかに血の塊(血栓)ができやすくなります。それがはがれ、血流に乗って脳までいき、脳の血管に詰まると、心原性脳塞栓症を発症します。脳の比較的根元の太い血管で詰まると、CT画像では、発症から6時間後に脳の半分が真っ白、つまり脳梗塞となり、翌日にはその部分が溶けてしまいます。こうなったら助かりません。たとえ助かっても、半身麻痺などの重い後遺症に苦しむことになります。
血栓は、左心耳(さしんじ)といわれる左房の先端の部分にできることが多く、こうした血栓の有無を調べるため、経食道心エコー検査を行うこともあります。
図5に示すようなリスクがある人は、脳梗塞を起こしやすいため、とくに注意が必要です。
心房細動治療では、血栓をできにくくする抗血栓療法として、古くからワルファリンが用いられていましたが、7~8年前から4種類の新しい抗凝固薬も登場し、ワルファリンと同等またはそれ以上の効果をあげています。
そこで重要になってくるのが、治療アドヒアランスです。アドヒアランスとは、患者さんが医療者と協力して、積極的かつ自発的に治療に参加することを意味します。新しい抗凝固薬では、服薬率が10%低下すると死亡や脳卒中が10%以上増えるというデータもありますので、処方されたお薬は、きちんと服用していただくことが重要です。
わが国の要介護、要支援者の数は、年々増加しています。もし、70歳で脳脳梗を起こすと、残りの人生は寝たきり、もしくは車椅子生活など要介護の状態になる可能性が高くなります。自宅で生活するなかで生じる基本動作を日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)といいますが、私たちも患者さんも、死ぬ直前まで元気に、ADLを維持したいと考えています。
心房細動は命にかかわる不整脈ではありませんが、これが原因で起こる心原性脳塞栓症は、命だけでなく健康寿命を短くします。心房細動に伴う脳梗塞を予防する、あるいは再発を防ぐことは、健康寿命を延ばし、要介護、要支援者を減らすことにつながると考えています。
*第83回日本循環器学会学術集会市民公開講座(主催:83回日本循環器学会学術集会、日本心臓財団、協賛:第一三共株式会社)より