脳卒中・循環器病対策基本法 - 今、何ができるか
「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)が、平成30年12月14日に公布された。私共循環器疾患に携わる医療者ばかりでなく、患者の皆様とご家族をはじめサポートされてこられた方々の長年にわたる念願が、漸く叶ったところである。
超高齢化を迎えた我が国において、活気ある高齢社会を築くには、健康づくりと疾患の予防による健康寿命の延伸、疾患に罹患しても重症化や再発を防止して、高齢者の自立機能の維持ないし向上を目指して対策を講じることが、社会的にも極めて重要な課題である。
その中でも脳卒中と心臓病を中心とした循環器病は、高齢者の自立機能を損なって介護が必要となる要因の4分の1を占めるとともに、医療費の20%を費やしており、その対策が国として取り組まれることが求められていた。しかし、脳卒中と循環器病に対する国の政策は、平成18年に立法化された「がん対策基本法」に基づくがんへの対策と比較して、大きく遅れているのが現状であった。
この度成立した「脳卒中・循環器病対策基本法」は、このような脳卒中と循環器病に対する国の対策を大いに進展させ、超高齢社会の抱える課題に応えるばかりでなく、現在これらの疾患に罹患している患者や家族の方々、さらには、将来健康的で良質な生活を過ごすことを目指している次世代の国民を支援するうえで大きく貢献するものと期待される。
まず実施が望まれるのは、飛躍的に進歩している循環器疾患の治療法の均てん化である。それには中核となる拠点病院の整備と配置が必要であり、それにより急性期では、血栓溶解療法、特に喫緊の課題である脳血栓への実施、そして亜急性期では、迅速で適切なリハビリテーションの開始が全国的に展開されて、患者の生命予後ばかりでなく、生活の質も大きく改善することが期待される。
さらに、健康寿命の延伸に重要な循環器病の予防、特に未病の段階での一次予防の徹底が重要であることから、基本法による健康診断の実効性の向上を目指した施策の実施を望みたい。また、一度循環器病に罹患した患者が、再発や重症化することを防止する、いわゆる二次予防も高齢者の介護や認知症対策から極めて重要な課題である。
もう一つ重要なのが、行政の支援が必要な疾病登録である。その実施により循環器病の患者数や治療に関するビッグデータを得るとことが可能となり、エビデンスの基づく疾病対策や新しい治療法の開発などが大きく進展するものと予測される。
この度の基本法の成立により、このような脳卒中や循環器病における諸課題への対応が実施されることが望まれている。
日本心臓財団理事長 矢崎義雄