認知症をちゃんと理解していますか?
2017年08月10日 その他
第81回日本循環器学会学術集会 市民公開講座
「笑って健康!頭と心」より
認知症、軽度認知障害とは何か
認知症は「年相応のもの忘れ」とは違い、何らかの原因で脳の神経細胞が破壊され、記憶力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指します。
たとえば、昨日、町で友人と会ったときに、その友人の顔は覚えているのに名前が出てこない、ということがよくあります。これは年相応の物忘れで、日常生活に支障はありません。ところが認知症の場合は、昨日、町で友人と会った出来事自体を忘れて思い出せません。こうなると日常生活に支障を来すことになります。
認知症の前段階として、軽度認知障害があり、ひどい物忘れはあるものの日常生活に支障はない状態をいいます。この段階で早期発見をして原因を診断し治療をすることが、現在の認知症治療の重要なテーマになっています。
さらに研究段階ですが、正常の場合でも将来認知症になる可能性が高い場合を予想して予防する試みも行われています。
認知症の現状と対策
現在のわが国の認知症発症者は462万人、軽度認知障害は400万人で、合わせると65歳以上の4人に一人が認知症とその予備軍です。
私たちは石川県の七尾市中島町で10年以上にわたり認知症に関する疫学研究を行っております。この地域の高齢化率は36~37%で、わが国の20~30年くらい先の人口構成であり、日本の未来を見ていると私たちは考えています。
この地域での65歳以上の高齢者では、認知症13.3%、軽度認知障害15.5%の有病率で、65歳以上の約3割が認知症とその予備軍になっていました。さらに年齢別にみますと、認知症は5歳上がると倍になっていきます。85~90歳の年齢階層では約6割以上、90歳以上では8割以上が認知症かその予備軍になっています(図1)。すなわち、私たちは長生きすれば認知症になる可能性が高いということです。
これはわが国だけでなく現在の先進国共通の問題であり、2013年にはロンドンでG8認知症サミットが開かれています。その1年後の2014年には、G8サミットの後継行事が日本で開かれ、わが国でも認知症対策を国家戦略として強力に推進していくことが宣言されました。
私たちの中島町と同様の研究が、九州の久山町をはじめ全国8地区、1万人規模での大規模認知症コホート研究が今年から始まっています。
また、一方では認知症対策として2015年から認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が厚生労働省で始まっています。その基本骨子は、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で、自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指すというものです。このプランを元に全国各地で認知症対策が進められています。
認知症が疑われたら 原因と治療
認知症というのは症状であり、病気の名前ではありません。認知症を起こす病気はたくさんありますが、もっとも多いのはアルツハイマー病で、認知症の原因の約6割を占めます。
アルツハイマー病の進行は、記憶障害から始まり、日常生活に支障のない軽度認知障害から徐々に記憶障害が強くなり、日付も思い出せなくなり日常生活に支障が出てくる軽度の認知症へ、さらに進むと自分のいる場所もわからなくなってきます。たとえば今、自分が家にいるのにそれがわからず、自分の家を探しに外を徘徊するといったことが起こり、介護が必要になってきます。さらに進行すると家族の顔もわからなくなり、施設への入所、寝たきりへと重症化します。こうした経過を10年以上かけてたどります(図2)。
次に多いのがレビー小体型認知症で、これはかなり特徴的な症状があります。認知機能が低下して来ること以外に、毎日の認知機能の状態が違うような認知機能の変動、何かいないものが見えるといった幻視、パーキンソン病のような運動障害が起こります(図3)。
次に多いのが、脳卒中、脳血管障害が原因で起こる血管性認知症です。これは脳卒中を起こすと認知機能が下がり、また再発すると認知機能が下がるというように、発症のたびに段階状に認知機能が低下していきます(図4)。
このように、認知症を起こす病気はさまざまであり、その原因疾患を診断し、それに合わせた治療を行うことが重要です。
ここではもっとも多いアルツハイマー病の治療についてご紹介します。
アルツハイマー病は脳にアミロイドβ蛋白が沈着し(老人斑)、さらに、リン酸化タウ蛋白が神経細胞の中に凝集・沈着し、神経細胞が障害され認知症の症状が出てきます。症状が出てくる約20年前から、脳の中ではこうした変化が起こっていることがわかっています。
これに対する治療としては現在、一番下流にある、障害された神経細胞を標的とした神経伝達改善薬があります。いわば神経細胞を励ます薬で神経細胞の障害自体を止めることはできないため、一時的に効果があっても、また進行してしまいます。
また、認知症の症状に対する介護、リハビリテーションも重要な対策として行われています。
しかしながら、認知症の進行を止める薬、緩やかにする薬はまだ実用化されていません。もっと上流のアミロイドβ蛋白やリン酸化タウ蛋白の沈着を抑える薬が世界中で盛んに研究開発されていますので、将来に期待したいところです(図5)。
認知症を予防するために
認知症の予防には生活習慣の改善が大切です。脳卒中や脳血管障害が原因で起こる血管性認知症はもちろんのこと、最近ではアルツハイマー病にも生活習慣が関係しているといわれています。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病があれば、きちんと治療に取り組むこと、運動や趣味、社会的な活動を続けること、食事・栄養に気をつけることがあげられます。
食事はカロリーを控えめに、肉より魚を多く、野菜や果物を多く食べましょう。
私たちの中島町での研究では、毎日緑茶を飲む人が、飲まない人と較べて認知機能低下のリスクが3分の1に減少したという結果が出ました。
そこで私たちは、ポリフェノールのひとつであるロスマリン酸に注目して、予防効果を検証する臨床試験を現在行っているところです(ロスマリン酸認知症予防プロジェクト)。
「笑って健康!頭と心」より
認知症をちゃんと理解していますか?
山田正仁(金沢大学神経内科教授)
認知症、軽度認知障害とは何か
認知症は「年相応のもの忘れ」とは違い、何らかの原因で脳の神経細胞が破壊され、記憶力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指します。
たとえば、昨日、町で友人と会ったときに、その友人の顔は覚えているのに名前が出てこない、ということがよくあります。これは年相応の物忘れで、日常生活に支障はありません。ところが認知症の場合は、昨日、町で友人と会った出来事自体を忘れて思い出せません。こうなると日常生活に支障を来すことになります。
認知症の前段階として、軽度認知障害があり、ひどい物忘れはあるものの日常生活に支障はない状態をいいます。この段階で早期発見をして原因を診断し治療をすることが、現在の認知症治療の重要なテーマになっています。
さらに研究段階ですが、正常の場合でも将来認知症になる可能性が高い場合を予想して予防する試みも行われています。
認知症の現状と対策
現在のわが国の認知症発症者は462万人、軽度認知障害は400万人で、合わせると65歳以上の4人に一人が認知症とその予備軍です。
私たちは石川県の七尾市中島町で10年以上にわたり認知症に関する疫学研究を行っております。この地域の高齢化率は36~37%で、わが国の20~30年くらい先の人口構成であり、日本の未来を見ていると私たちは考えています。
この地域での65歳以上の高齢者では、認知症13.3%、軽度認知障害15.5%の有病率で、65歳以上の約3割が認知症とその予備軍になっていました。さらに年齢別にみますと、認知症は5歳上がると倍になっていきます。85~90歳の年齢階層では約6割以上、90歳以上では8割以上が認知症かその予備軍になっています(図1)。すなわち、私たちは長生きすれば認知症になる可能性が高いということです。
これはわが国だけでなく現在の先進国共通の問題であり、2013年にはロンドンでG8認知症サミットが開かれています。その1年後の2014年には、G8サミットの後継行事が日本で開かれ、わが国でも認知症対策を国家戦略として強力に推進していくことが宣言されました。
私たちの中島町と同様の研究が、九州の久山町をはじめ全国8地区、1万人規模での大規模認知症コホート研究が今年から始まっています。
また、一方では認知症対策として2015年から認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が厚生労働省で始まっています。その基本骨子は、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で、自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指すというものです。このプランを元に全国各地で認知症対策が進められています。
認知症が疑われたら 原因と治療
認知症というのは症状であり、病気の名前ではありません。認知症を起こす病気はたくさんありますが、もっとも多いのはアルツハイマー病で、認知症の原因の約6割を占めます。
アルツハイマー病の進行は、記憶障害から始まり、日常生活に支障のない軽度認知障害から徐々に記憶障害が強くなり、日付も思い出せなくなり日常生活に支障が出てくる軽度の認知症へ、さらに進むと自分のいる場所もわからなくなってきます。たとえば今、自分が家にいるのにそれがわからず、自分の家を探しに外を徘徊するといったことが起こり、介護が必要になってきます。さらに進行すると家族の顔もわからなくなり、施設への入所、寝たきりへと重症化します。こうした経過を10年以上かけてたどります(図2)。
次に多いのがレビー小体型認知症で、これはかなり特徴的な症状があります。認知機能が低下して来ること以外に、毎日の認知機能の状態が違うような認知機能の変動、何かいないものが見えるといった幻視、パーキンソン病のような運動障害が起こります(図3)。
次に多いのが、脳卒中、脳血管障害が原因で起こる血管性認知症です。これは脳卒中を起こすと認知機能が下がり、また再発すると認知機能が下がるというように、発症のたびに段階状に認知機能が低下していきます(図4)。
このように、認知症を起こす病気はさまざまであり、その原因疾患を診断し、それに合わせた治療を行うことが重要です。
ここではもっとも多いアルツハイマー病の治療についてご紹介します。
アルツハイマー病は脳にアミロイドβ蛋白が沈着し(老人斑)、さらに、リン酸化タウ蛋白が神経細胞の中に凝集・沈着し、神経細胞が障害され認知症の症状が出てきます。症状が出てくる約20年前から、脳の中ではこうした変化が起こっていることがわかっています。
これに対する治療としては現在、一番下流にある、障害された神経細胞を標的とした神経伝達改善薬があります。いわば神経細胞を励ます薬で神経細胞の障害自体を止めることはできないため、一時的に効果があっても、また進行してしまいます。
また、認知症の症状に対する介護、リハビリテーションも重要な対策として行われています。
しかしながら、認知症の進行を止める薬、緩やかにする薬はまだ実用化されていません。もっと上流のアミロイドβ蛋白やリン酸化タウ蛋白の沈着を抑える薬が世界中で盛んに研究開発されていますので、将来に期待したいところです(図5)。
認知症を予防するために
認知症の予防には生活習慣の改善が大切です。脳卒中や脳血管障害が原因で起こる血管性認知症はもちろんのこと、最近ではアルツハイマー病にも生活習慣が関係しているといわれています。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病があれば、きちんと治療に取り組むこと、運動や趣味、社会的な活動を続けること、食事・栄養に気をつけることがあげられます。
食事はカロリーを控えめに、肉より魚を多く、野菜や果物を多く食べましょう。
私たちの中島町での研究では、毎日緑茶を飲む人が、飲まない人と較べて認知機能低下のリスクが3分の1に減少したという結果が出ました。
そこで私たちは、ポリフェノールのひとつであるロスマリン酸に注目して、予防効果を検証する臨床試験を現在行っているところです(ロスマリン酸認知症予防プロジェクト)。
2017.8.10掲載