不整脈ってなんでなるの?
2017年07月13日 不整脈
第81回日本循環器学会学術集会 市民公開講座
「笑って健康!頭と心」より
心臓の仕組みと働き
心臓は握りこぶしほどの大きさで、胸の中央からやや左側に位置しており、右心房、左心房、右心室、左心室という4つの部屋に分かれています。
全身から老廃物、二酸化炭素を含んだ血液が静脈を通って心臓に戻ってくると、右心房から右心室に入り、肺に送り出されます。肺でガス交換を受け、酸素をたくさん含んだ血液は左心房から左心室に入り、動脈を通って全身に送り出されます。
右心室と左心室は同時に収縮と拡張を繰り返して、それぞれ肺と全身に血液を送り出しています。1分間に心室が動く回数を心拍数と呼び、通常は手首などで計測する脈拍数と同じです。
心臓は1日に約10万回、電気的な刺激によって収縮しています。この電気刺激は右心房の上部にある洞結節から発生し、心房の壁を伝わって心房の筋肉を収縮させます。すると心房から心室に血液が流れ、心電図上では小さな波が記録されます。電気刺激は、心房から中継地点である房室結節に集まり、その後心室に伝わって心室の筋肉を収縮させます。心室から肺及び全身に血液が流れ、心電図上では大きな波が記録されます。通常は健康な成人では心拍数が50~90回/分とされています(図1)。
不整脈とは
不整脈はこの電気刺激の起こり方、伝わり方が病気や加齢、ストレスなどによって乱れた状態です。正常な電気刺激の流れが悪くなってしまったり、あるいは異常な電気刺激が正常な電気刺激の通り道とは異なるところから発生したりします。
不整脈は、脈の乱れ方によって3つに分類されます(図2)。
遅い不整脈を徐脈と呼びます。心臓がゆっくり動いたり、あるいは間隔があいたりして心拍数が50回/分未満になる状態を指します。
また、早い不整脈を頻脈と呼び、通常心拍数が100回/分を超えます。この時、患者さんの多くは動悸症状を自覚します。
最後に単発の不整脈で、期外収縮と呼びます。これは心臓が通常より早いタイミングで動くもので、患者さんは脈が飛ぶ、脈が抜けるといった症状を訴えます。
不整脈の原因
不整脈の原因には、まず遺伝や体質によるものがあります。この場合には、家族で同じような不整脈や心電図がみられます。
また、加齢に伴い、徐脈や心房細動という不整脈が起こりやすくなります。
こうした避けられない原因のほかに、睡眠不足、過度の飲酒、喫煙、カフェインの過剰摂取などの悪い生活習慣が原因になることが知られています。
ストレスと不整脈について検討した海外の研究があります。患者さんに24時間計測できるホルター心電計をつけていただき、不整脈の自覚症状を感じた時、その直前の感情や気持ちを日記に記録していただいた結果をまとめたものです。
その結果、不幸や悲しみ、怒り、ストレス、焦り、心配、不安といったネガティブな感情が不整脈を起こしやすいことがわかりました。逆に、幸福や喜び、笑いといったポジティブな感情は、不整脈を起こしにくいと考えられました。
その他、不整脈は何らかの病気と関係して起こることが知られています。狭心症や心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症、心不全といった心臓の病気や、高血圧、甲状腺異常、肺疾患といった病気が不整脈と関連があるとされています。
また、薬の副作用として不整脈が起こることも知られています。
不整脈の症状
不整脈の代表的な症状は、胸がドキドキする(動悸)、あるいは脈が抜ける、といった症状です。その他、患者さんによっては息切れがする、あるいは体がだるい、疲れやすいといった症状が現れることがあります。
また、めまいや失神、なかには突然死を招く怖い不整脈もあります。その一方で、不整脈があっても症状がほとんどない、無症状の方もたくさんおられます。
不整脈の症状によって、ある程度、病気の危険度を分類することができます(図3)。
危険度が高いものは、めまいや気が遠くなる、失神といった症状です。これらは不整脈が原因で心臓の拍出がないか、もしくは極端に少ないために、脳への血流が低下していることを意味しています。
また、持続する動悸、あるいは労作時の息切れといった症状は、不整脈によって心臓の拍出が不十分な可能性があり、中程度の危険があります。
このように、命に関わる、あるいは日常生活に非常に支障をきたすような症状を認める場合は、治療が必要です。
一方で、脈が飛ぶ、抜ける、あるいは特に安静時などに心臓の拍動を感じるといった症状は、単発の不整脈、期外収縮、あるいは正常なリズムである可能性があり、日常生活に非常に支障をきたすような症状でなければ放置して良い場合が多いものです。
ただし、症状のみでは不整脈の診断および治療方針を決めることはできませんので、不整脈があれば病院で心電図検査を受けることが不可欠となります。
不整脈を見つける方法
自分で不整脈を見つける最も簡単な方法は、自分の脈をチェックすること(検脈)です。親指の付け根にある橈骨動脈に反対側の手の人差し指、中指、薬指3本を当てて脈拍を確認します(図4)。脈が不規則な場合は不整脈の可能性がありますので、病院で心電図検査を受けられることをお勧めします。
また、できれば15秒間、脈を数えて、4倍して1分間の脈拍数を計算します。この時、安静にもかかわらず脈拍数が130回/分を超えている場合、あるいは40回/分を下回っている場合は危険性があり、治療が必要な場合がありますので、すぐに病院で心電図検査を受けることをお勧めします。
そのほか、血圧計や携帯型心電計を利用する方法があります。血圧計では血圧以外に脈拍数が表示されますので、それを参考にして判断します。この時、血圧にも異常がないかどうか注意することが必要です。たとえば上の血圧が80を切っているような場合には、心臓の拍出が低下している場合があり、危険性が大きいと言えます。
携帯型心電計は、携帯することができるため、いつでもどこでも心電図を測ることができます。
心房細動
代表的な不整脈である心房細動は、心房が無秩序かつ高頻度に勝手に興奮してブルブル震えた状態になるため、脈がバラバラになり、脈拍数が400~600回/分と異常に速くなる不整脈です。女性より男性に多く、加齢に伴い増加し、60歳を超えると発症率が急に増加します。また、高血圧や心臓に病気のある人にも起こりやすいとされています。
心房細動には、不整脈が自然停止する発作性、自然停止しない持続性、治療しても元に戻らない永続性の3つがあり、心房の老化とともに進行します。
心房細動の主な症状は動悸で、日常生活に支障を来す場合があります。また、心房細動では心房がブルブル震えた状態になるため、心房に中で血液がよどんで血栓ができやすくなり、それが心臓から血管を通って脳の血管を詰まらせて重症の脳梗塞を起こす原因になります(心原性脳塞栓症)。
弘前脳卒中リハビリテーションセンターのデータでは、心房細動の患者さんが脳梗塞を起こすと、約52%が死亡、寝たきり、要介護となっています(図5)。
また、心臓のポンプ機能が障害されて心不全が誘発されることがあります。さらに、心房細動を持つ高齢者では認知症を発症しやすいことが最近言われています。
心房細動の治療
心房細動の治療は、心房細動の症状を改善することと、心原性脳塞栓症を予防することが目標です。
症状の改善には薬物治療やカテーテル治療が行われ、心原性脳塞栓症の予防には抗凝固療法が行われます。
心房細動の患者さんのうち日常生活に支障のある強い症状や入院が必要な重度の症状を訴える方は全体の4分の1と言われています。一方で、日常生活に支障のない軽い症状、あるいは症状のない方は、それぞれ4割弱と言われています(図6)。
心房細動の症状が強い方に対しては、最近ではカテーテル治療が行われています。発作性心房細動の多くは、肺静脈と呼ばれる場所から起こる不整脈が原因といわれています。そこでカテーテルという細い管を入れて、肺静脈の接合部を電気的に焼灼して、肺静脈からの不整脈が左心房に伝わらないようにする治療方法です。カテーテル治療による1年後の心房細動回避率(心房細動を起こさない確率)は、発作性心房細動で約70%とされています。
心原性脳塞栓症の予防に行われる抗凝固療法は、血液を固まりにくくする薬剤を内服する治療です。従来からワーファリンという薬が使用されています。ワーファリンを服用すると、脳梗塞の発症を60%以上抑えることができます。最近では、ワーファリン以外に新しい薬が使用できるようになっています。これらの新しい薬剤は、ワーファリンと同等以上の予防効果があり、また副作用としての出血も極めて少ないことが知られています。
心房細動以外の不整脈でも、危険度の高い治療の必要な不整脈の多くは、薬、カテーテル、ペースメーカーなどで治療できますので、不整脈の症状がある人、健診等で不整脈と診断された人は病院を受診し、正しい診断と適切な治療を受けましょう。日頃から脈や血圧をチェックしておくことも大切です。
「笑って健康!頭と心」より
不整脈ってなんでなるの?
林 研至(金沢大学循環器病態内科学 助教)
心臓の仕組みと働き
心臓は握りこぶしほどの大きさで、胸の中央からやや左側に位置しており、右心房、左心房、右心室、左心室という4つの部屋に分かれています。
全身から老廃物、二酸化炭素を含んだ血液が静脈を通って心臓に戻ってくると、右心房から右心室に入り、肺に送り出されます。肺でガス交換を受け、酸素をたくさん含んだ血液は左心房から左心室に入り、動脈を通って全身に送り出されます。
右心室と左心室は同時に収縮と拡張を繰り返して、それぞれ肺と全身に血液を送り出しています。1分間に心室が動く回数を心拍数と呼び、通常は手首などで計測する脈拍数と同じです。
心臓は1日に約10万回、電気的な刺激によって収縮しています。この電気刺激は右心房の上部にある洞結節から発生し、心房の壁を伝わって心房の筋肉を収縮させます。すると心房から心室に血液が流れ、心電図上では小さな波が記録されます。電気刺激は、心房から中継地点である房室結節に集まり、その後心室に伝わって心室の筋肉を収縮させます。心室から肺及び全身に血液が流れ、心電図上では大きな波が記録されます。通常は健康な成人では心拍数が50~90回/分とされています(図1)。
不整脈とは
不整脈はこの電気刺激の起こり方、伝わり方が病気や加齢、ストレスなどによって乱れた状態です。正常な電気刺激の流れが悪くなってしまったり、あるいは異常な電気刺激が正常な電気刺激の通り道とは異なるところから発生したりします。
不整脈は、脈の乱れ方によって3つに分類されます(図2)。
遅い不整脈を徐脈と呼びます。心臓がゆっくり動いたり、あるいは間隔があいたりして心拍数が50回/分未満になる状態を指します。
また、早い不整脈を頻脈と呼び、通常心拍数が100回/分を超えます。この時、患者さんの多くは動悸症状を自覚します。
最後に単発の不整脈で、期外収縮と呼びます。これは心臓が通常より早いタイミングで動くもので、患者さんは脈が飛ぶ、脈が抜けるといった症状を訴えます。
不整脈の原因
不整脈の原因には、まず遺伝や体質によるものがあります。この場合には、家族で同じような不整脈や心電図がみられます。
また、加齢に伴い、徐脈や心房細動という不整脈が起こりやすくなります。
こうした避けられない原因のほかに、睡眠不足、過度の飲酒、喫煙、カフェインの過剰摂取などの悪い生活習慣が原因になることが知られています。
ストレスと不整脈について検討した海外の研究があります。患者さんに24時間計測できるホルター心電計をつけていただき、不整脈の自覚症状を感じた時、その直前の感情や気持ちを日記に記録していただいた結果をまとめたものです。
その結果、不幸や悲しみ、怒り、ストレス、焦り、心配、不安といったネガティブな感情が不整脈を起こしやすいことがわかりました。逆に、幸福や喜び、笑いといったポジティブな感情は、不整脈を起こしにくいと考えられました。
その他、不整脈は何らかの病気と関係して起こることが知られています。狭心症や心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症、心不全といった心臓の病気や、高血圧、甲状腺異常、肺疾患といった病気が不整脈と関連があるとされています。
また、薬の副作用として不整脈が起こることも知られています。
不整脈の症状
不整脈の代表的な症状は、胸がドキドキする(動悸)、あるいは脈が抜ける、といった症状です。その他、患者さんによっては息切れがする、あるいは体がだるい、疲れやすいといった症状が現れることがあります。
また、めまいや失神、なかには突然死を招く怖い不整脈もあります。その一方で、不整脈があっても症状がほとんどない、無症状の方もたくさんおられます。
不整脈の症状によって、ある程度、病気の危険度を分類することができます(図3)。
危険度が高いものは、めまいや気が遠くなる、失神といった症状です。これらは不整脈が原因で心臓の拍出がないか、もしくは極端に少ないために、脳への血流が低下していることを意味しています。
また、持続する動悸、あるいは労作時の息切れといった症状は、不整脈によって心臓の拍出が不十分な可能性があり、中程度の危険があります。
このように、命に関わる、あるいは日常生活に非常に支障をきたすような症状を認める場合は、治療が必要です。
一方で、脈が飛ぶ、抜ける、あるいは特に安静時などに心臓の拍動を感じるといった症状は、単発の不整脈、期外収縮、あるいは正常なリズムである可能性があり、日常生活に非常に支障をきたすような症状でなければ放置して良い場合が多いものです。
ただし、症状のみでは不整脈の診断および治療方針を決めることはできませんので、不整脈があれば病院で心電図検査を受けることが不可欠となります。
不整脈を見つける方法
自分で不整脈を見つける最も簡単な方法は、自分の脈をチェックすること(検脈)です。親指の付け根にある橈骨動脈に反対側の手の人差し指、中指、薬指3本を当てて脈拍を確認します(図4)。脈が不規則な場合は不整脈の可能性がありますので、病院で心電図検査を受けられることをお勧めします。
また、できれば15秒間、脈を数えて、4倍して1分間の脈拍数を計算します。この時、安静にもかかわらず脈拍数が130回/分を超えている場合、あるいは40回/分を下回っている場合は危険性があり、治療が必要な場合がありますので、すぐに病院で心電図検査を受けることをお勧めします。
そのほか、血圧計や携帯型心電計を利用する方法があります。血圧計では血圧以外に脈拍数が表示されますので、それを参考にして判断します。この時、血圧にも異常がないかどうか注意することが必要です。たとえば上の血圧が80を切っているような場合には、心臓の拍出が低下している場合があり、危険性が大きいと言えます。
携帯型心電計は、携帯することができるため、いつでもどこでも心電図を測ることができます。
心房細動
代表的な不整脈である心房細動は、心房が無秩序かつ高頻度に勝手に興奮してブルブル震えた状態になるため、脈がバラバラになり、脈拍数が400~600回/分と異常に速くなる不整脈です。女性より男性に多く、加齢に伴い増加し、60歳を超えると発症率が急に増加します。また、高血圧や心臓に病気のある人にも起こりやすいとされています。
心房細動には、不整脈が自然停止する発作性、自然停止しない持続性、治療しても元に戻らない永続性の3つがあり、心房の老化とともに進行します。
心房細動の主な症状は動悸で、日常生活に支障を来す場合があります。また、心房細動では心房がブルブル震えた状態になるため、心房に中で血液がよどんで血栓ができやすくなり、それが心臓から血管を通って脳の血管を詰まらせて重症の脳梗塞を起こす原因になります(心原性脳塞栓症)。
弘前脳卒中リハビリテーションセンターのデータでは、心房細動の患者さんが脳梗塞を起こすと、約52%が死亡、寝たきり、要介護となっています(図5)。
また、心臓のポンプ機能が障害されて心不全が誘発されることがあります。さらに、心房細動を持つ高齢者では認知症を発症しやすいことが最近言われています。
心房細動の治療
心房細動の治療は、心房細動の症状を改善することと、心原性脳塞栓症を予防することが目標です。
症状の改善には薬物治療やカテーテル治療が行われ、心原性脳塞栓症の予防には抗凝固療法が行われます。
心房細動の患者さんのうち日常生活に支障のある強い症状や入院が必要な重度の症状を訴える方は全体の4分の1と言われています。一方で、日常生活に支障のない軽い症状、あるいは症状のない方は、それぞれ4割弱と言われています(図6)。
心房細動の症状が強い方に対しては、最近ではカテーテル治療が行われています。発作性心房細動の多くは、肺静脈と呼ばれる場所から起こる不整脈が原因といわれています。そこでカテーテルという細い管を入れて、肺静脈の接合部を電気的に焼灼して、肺静脈からの不整脈が左心房に伝わらないようにする治療方法です。カテーテル治療による1年後の心房細動回避率(心房細動を起こさない確率)は、発作性心房細動で約70%とされています。
心原性脳塞栓症の予防に行われる抗凝固療法は、血液を固まりにくくする薬剤を内服する治療です。従来からワーファリンという薬が使用されています。ワーファリンを服用すると、脳梗塞の発症を60%以上抑えることができます。最近では、ワーファリン以外に新しい薬が使用できるようになっています。これらの新しい薬剤は、ワーファリンと同等以上の予防効果があり、また副作用としての出血も極めて少ないことが知られています。
心房細動以外の不整脈でも、危険度の高い治療の必要な不整脈の多くは、薬、カテーテル、ペースメーカーなどで治療できますので、不整脈の症状がある人、健診等で不整脈と診断された人は病院を受診し、正しい診断と適切な治療を受けましょう。日頃から脈や血圧をチェックしておくことも大切です。
2017.7.13掲載