脳卒中の基礎知識と予防のコツ
2017年06月15日 脳梗塞・脳出血
第81回日本循環器学会学術集会 市民公開講座
「笑って健康!頭と心」より
脳卒中は寝たきり原因の第1位
脳卒中とは、「卒」=前触れがない、「中」=当たる、つまり、脳が何の前触れもなく突然何かに当たる、という意味です。別名、中風とも言われますが、これは昔、中国では悪い風にあたると病気になると考えられていて、脳が風にあたると脳卒中になるということから来ています。
何の前触れもなく突然起こるのでは、予防できないわけですが、脳卒中を脳血管障害、すなわち脳の血管の病気と言い換えれば、その前段階で予防することが可能です。
脳卒中は日本人の死亡原因の第4位を占め、半身の麻痺や言語障害などの後遺症が残ったり、認知症を併発したりします。また、脳卒中は寝たきり原因の第1位にもなっています。
脳卒中の症状と緊急性(ACT-FAST)
脳卒中にはいろいろな種類がありますが、症状は同じです。片側の手足の力が抜けて動かなくなる、顔が麻痺したり痙攣する、言葉が出なくなる、片側の視野が欠ける、フラフラして歩けなくなる、突然激しい頭痛が起こる、というような症状が、すべて突然起こります。
こうした症状が現れたら、すぐに救急車を呼んで、できるだけ早く病院で適切な処置を受けることが重要です。アメリカの脳卒中協会にACT-FASTという標語があります。Face:顔が歪む、麻痺する、Arm:手の脱力、持っていたものを落とすとか、手が上がらないとか、Speach:言葉が出ない、言葉がもつれる、そういう場合には、Time:急げということで、ACT-FAST、急いで行動しなさいという意味です(図1)。
脳卒中の種類と治療
脳卒中は大きく分けると、血管が詰まるタイプと血管が破れるタイプの二つがあります。前者は脳梗塞と呼ばれ、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症と大きく3つに分かれます。後者は脳出血とくも膜下出血の2つがあります(図2)。
脳出血
脳出血は脳の血管が破れて脳内に出血するものです。脳は硬い頭がい骨の中に入っているため、脳内で出血が起きると正常な脳まで圧迫されてしまいます。それを防ぐために以前は手術治療を行っていましたが、最近はあまり行わなくなり、内科治療が中心です。
くも膜下出血
くも膜下出血は、よく耳にする病名だと思いますが、どのような病気かは知らない人も多いと思います。脳は脳脊髄液の中に浮いているのですが、その脳脊髄液を貯めている膜がくも膜です。そのくも膜と脳の間に出血するのが、くも膜下出血です。動脈の圧は非常に高いので、柔らかい脳はその圧で傷んでしまいます。くも膜下出血を起こすと、約7割の方が亡くなってしまう、恐ろしい病気です。脳の血管の非常に小さい一部分(動脈瘤)が膨らんで、風船が膨らんで破れるように、瘤が破れてくも膜下出血を起こします。
治療は、この動脈瘤にクリップをかけたり、カテーテルという細い管を動脈瘤の中に通してコイルでふさぎ、瘤が破れて出血するのを防ぐ手術が行われます。
この動脈瘤を破裂する前に見つけることが可能なのが、MRI検査による脳ドックです。
アテローム血栓性脳梗塞
脳梗塞の中でもアテローム血栓性脳梗塞は一番わかりやすいもので、動脈硬化が原因となって脳の血管内に黄色いプラークというコレステロールの塊ができて、これが血管を詰まらせてしまう病気です。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞はあまり馴染みのない言葉ですが、ラクナとはラテン語で穴という意味で、小さな空洞が脳のあちこちにできるものです。小さいので気がつかないことが多く、よくメディアでは「隠れ脳梗塞」などと言われており、認知症の原因にもなります。
心原性脳塞栓症
最近話題になっているのが心原性脳塞栓症です。心房細動という不整脈が原因で心臓の中に血の塊ができて、それが脳に飛んでしまうものです。脳の血管は正常でも、心臓の不整脈が原因で血管が詰まってしまう脳梗塞です。しかも非常に重症になりやすく、命にかかわることもしばしばです。
脳梗塞については最近いろいろな治療法が行われていています。
t-PA療法は、血栓を溶かす治療方法です。この治療の問題点は、発症してから4時間半以内に開始しなければならないため、全国の脳梗塞の患者さんの5%くらいにしか行われていません。倒れたら、すぐ救急車を呼ぶのが大原則です。
最近では、詰まった血栓を取ってしまう血栓回収治療が行われるようになりました。一般的には、最初の病院でt-PA療法を行い、それで治療できない場合は救急車で血栓回収が出来る病院に運んで治療します。しかし、石川県では、t-PA点滴中に血管内治療専門医がその病院に行って治療する方法を行っています(図3)。これによって時間が非常に短縮され、救命率の向上が期待できます。
覚えておいていただきたいのは、一過性脳虚血発作です。これは一時的に脳の血の流れが悪くなり、手足の麻痺が起こりますが、しばらくすると麻痺が治ってしまいます。しかし、それで安心すると、脳梗塞を起こしてしまいます。この一過性脳虚血発作は唯一、脳梗塞の前兆となる症状です。
脳卒中の予防は生活習慣の改善と血圧管理
根本的に脳卒中を予防するためには、高血圧、糖尿病、不整脈(心房細動)、高コレステロール血症などの生活習慣病対策が大変重要です。こうした生活習慣病が脳卒中を起こす原因となるからです(図4)。
禁煙、適度な飲酒、適度な運動を心がけ、塩分、脂肪分の摂りすぎに注意します。そして、血圧の管理が重要です。特に脳卒中は早朝高血圧(モーニングサージ)が関連するといわれています(図5)。毎朝、起きてトイレに行った後、朝食前に、落ち着いたところで血圧を測定してください。
また心原性脳塞栓症の原因となる不整脈(心房細動)は、加齢により発症率が増加します。心房細動を発症した場合には、血栓ができるのを防ぐ薬を飲むことが脳卒中の予防となっています。
最後に、日本脳卒中協会の脳卒中予防10ヵ条を紹介します(図6)。生活習慣を改善して脳卒中を予防し、もし脳卒中を疑う症状が出たら、躊躇せず救急車を呼んでください。
「笑って健康!頭と心」より
脳卒中の基礎知識と予防のコツ
山本信孝(金沢脳神経外科病院 副院長)
脳卒中は寝たきり原因の第1位
脳卒中とは、「卒」=前触れがない、「中」=当たる、つまり、脳が何の前触れもなく突然何かに当たる、という意味です。別名、中風とも言われますが、これは昔、中国では悪い風にあたると病気になると考えられていて、脳が風にあたると脳卒中になるということから来ています。
何の前触れもなく突然起こるのでは、予防できないわけですが、脳卒中を脳血管障害、すなわち脳の血管の病気と言い換えれば、その前段階で予防することが可能です。
脳卒中は日本人の死亡原因の第4位を占め、半身の麻痺や言語障害などの後遺症が残ったり、認知症を併発したりします。また、脳卒中は寝たきり原因の第1位にもなっています。
脳卒中の症状と緊急性(ACT-FAST)
脳卒中にはいろいろな種類がありますが、症状は同じです。片側の手足の力が抜けて動かなくなる、顔が麻痺したり痙攣する、言葉が出なくなる、片側の視野が欠ける、フラフラして歩けなくなる、突然激しい頭痛が起こる、というような症状が、すべて突然起こります。
こうした症状が現れたら、すぐに救急車を呼んで、できるだけ早く病院で適切な処置を受けることが重要です。アメリカの脳卒中協会にACT-FASTという標語があります。Face:顔が歪む、麻痺する、Arm:手の脱力、持っていたものを落とすとか、手が上がらないとか、Speach:言葉が出ない、言葉がもつれる、そういう場合には、Time:急げということで、ACT-FAST、急いで行動しなさいという意味です(図1)。
脳卒中の種類と治療
脳卒中は大きく分けると、血管が詰まるタイプと血管が破れるタイプの二つがあります。前者は脳梗塞と呼ばれ、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症と大きく3つに分かれます。後者は脳出血とくも膜下出血の2つがあります(図2)。
脳出血
脳出血は脳の血管が破れて脳内に出血するものです。脳は硬い頭がい骨の中に入っているため、脳内で出血が起きると正常な脳まで圧迫されてしまいます。それを防ぐために以前は手術治療を行っていましたが、最近はあまり行わなくなり、内科治療が中心です。
くも膜下出血
くも膜下出血は、よく耳にする病名だと思いますが、どのような病気かは知らない人も多いと思います。脳は脳脊髄液の中に浮いているのですが、その脳脊髄液を貯めている膜がくも膜です。そのくも膜と脳の間に出血するのが、くも膜下出血です。動脈の圧は非常に高いので、柔らかい脳はその圧で傷んでしまいます。くも膜下出血を起こすと、約7割の方が亡くなってしまう、恐ろしい病気です。脳の血管の非常に小さい一部分(動脈瘤)が膨らんで、風船が膨らんで破れるように、瘤が破れてくも膜下出血を起こします。
治療は、この動脈瘤にクリップをかけたり、カテーテルという細い管を動脈瘤の中に通してコイルでふさぎ、瘤が破れて出血するのを防ぐ手術が行われます。
この動脈瘤を破裂する前に見つけることが可能なのが、MRI検査による脳ドックです。
アテローム血栓性脳梗塞
脳梗塞の中でもアテローム血栓性脳梗塞は一番わかりやすいもので、動脈硬化が原因となって脳の血管内に黄色いプラークというコレステロールの塊ができて、これが血管を詰まらせてしまう病気です。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞はあまり馴染みのない言葉ですが、ラクナとはラテン語で穴という意味で、小さな空洞が脳のあちこちにできるものです。小さいので気がつかないことが多く、よくメディアでは「隠れ脳梗塞」などと言われており、認知症の原因にもなります。
心原性脳塞栓症
最近話題になっているのが心原性脳塞栓症です。心房細動という不整脈が原因で心臓の中に血の塊ができて、それが脳に飛んでしまうものです。脳の血管は正常でも、心臓の不整脈が原因で血管が詰まってしまう脳梗塞です。しかも非常に重症になりやすく、命にかかわることもしばしばです。
脳梗塞については最近いろいろな治療法が行われていています。
t-PA療法は、血栓を溶かす治療方法です。この治療の問題点は、発症してから4時間半以内に開始しなければならないため、全国の脳梗塞の患者さんの5%くらいにしか行われていません。倒れたら、すぐ救急車を呼ぶのが大原則です。
最近では、詰まった血栓を取ってしまう血栓回収治療が行われるようになりました。一般的には、最初の病院でt-PA療法を行い、それで治療できない場合は救急車で血栓回収が出来る病院に運んで治療します。しかし、石川県では、t-PA点滴中に血管内治療専門医がその病院に行って治療する方法を行っています(図3)。これによって時間が非常に短縮され、救命率の向上が期待できます。
覚えておいていただきたいのは、一過性脳虚血発作です。これは一時的に脳の血の流れが悪くなり、手足の麻痺が起こりますが、しばらくすると麻痺が治ってしまいます。しかし、それで安心すると、脳梗塞を起こしてしまいます。この一過性脳虚血発作は唯一、脳梗塞の前兆となる症状です。
脳卒中の予防は生活習慣の改善と血圧管理
根本的に脳卒中を予防するためには、高血圧、糖尿病、不整脈(心房細動)、高コレステロール血症などの生活習慣病対策が大変重要です。こうした生活習慣病が脳卒中を起こす原因となるからです(図4)。
禁煙、適度な飲酒、適度な運動を心がけ、塩分、脂肪分の摂りすぎに注意します。そして、血圧の管理が重要です。特に脳卒中は早朝高血圧(モーニングサージ)が関連するといわれています(図5)。毎朝、起きてトイレに行った後、朝食前に、落ち着いたところで血圧を測定してください。
また心原性脳塞栓症の原因となる不整脈(心房細動)は、加齢により発症率が増加します。心房細動を発症した場合には、血栓ができるのを防ぐ薬を飲むことが脳卒中の予防となっています。
最後に、日本脳卒中協会の脳卒中予防10ヵ条を紹介します(図6)。生活習慣を改善して脳卒中を予防し、もし脳卒中を疑う症状が出たら、躊躇せず救急車を呼んでください。
2017.06.15掲載