循環器病のトピックス

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運動と生活習慣病

2017年03月01日 運動
運動と生活習慣病
長山雅俊(榊原記念病院循環器内科部長)
 
 2016年12月4日に、東京・JPタワーにて日本循環器学会関東甲信越支部主催による第2回心肺蘇生法市民公開講座「生活習慣病から心臓突然死を予防する」が行われました。
 今回は、その講演より、長山雅俊先生(榊原記念病院循環器内科部長)による「運動と生活習慣病」を紹介させていただきます。
  
 長年にわたる悪い生活習慣によって引き起こされる疾患を生活習慣病といいます。遺伝的な要素も関連しますが、それ以上に食事や運動不足、ストレス、喫煙、飲酒といった悪い生活習慣の積み重ねによって起こるということが明らかになっています。
 生活習慣病には、糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、動脈硬化による脳・心血管病(狭心症、心筋梗塞、脳卒中)などがあります。
 最近では、心血管病を発症する危険因子として、メタボリックシンドロームという概念が提唱され、診断基準が設けられています。それは、内臓脂肪が過剰に蓄積すると体内にいろいろな悪影響を与えることから、ウエスト径が男性85センチ以上、女性90センチ以上(内臓脂肪面積が100平方センチメートルに相当)で、それに加え、脂質、血圧、血糖の3項目のうち2項目が少し高い人をメタボリックシンドロームと診断して注意を促しています(図1)。2017.2図1.jpg
 生活習慣を改善すること、とくに運動習慣をつけることで、どれほどの効果があるでしょうか。
 私自身の経験をお話ししますと、2ヵ月前、お腹のCTを計測したところ、皮下脂肪180平方センチメートル、内臓脂肪144.6平方センチメートルの完璧なメタボ体型でした。それから食事に気をつけながら、有酸素運動と筋トレを週2回実施しました。すると、体重は78キロから4キロ減っただけでしたが、内臓脂肪は95平方センチメートルまで減少したのです。運動すれば内臓脂肪の減少に大きな効果があることを実感しました(図2)。2017.2zu2.jpg
 今までの多くの研究結果からも、運動能力があればあるほど長生きをするということがわかっています。たとえ心臓病があっても運動能力が保たれている人は、健康な人で運動能力のない人よりも元気で長生きすることができます。また、運動していない人が運動を始めると、その人の生存曲線を伸ばすことができます。
 少し古い論文ですが、急性心筋梗塞後の患者さんが運動を中心とした包括的な心臓リハビリテーションの管理プログラムを行うと、普通に治療した後、リハビリをしなかった群では早くからたくさんの人が突然死したり、心筋梗塞の再発を起こしているのに対し、リハビリを行った群では非常に予後が良好で、心血管病による死亡率が20~25%減少しました。
 また、48編の研究をまとめて解析した報告では、心筋梗塞の手術後に運動療法に参加すると、総死亡を20%減らし、心疾患による死亡率を26%も減らすことができるという結果が出ています。
 さらに、アメリカのメイヨークリニックからの報告では、心筋梗塞後に心臓リハビリテーションに参加しなかった方々の生命予後が悪いのに比較して、参加した人たちは、通常の人(ミネソタ州の予測生存曲線)とまったく同じ生命予後となり、長生きできるという結果が出ています(図3)。2017.2zu3.jpg
 こうした効果はどうして起こるのでしょうか。ドイツからの報告ですが、たった4週間運動することによって血管の内皮機能が改善し、血管の広がりがとてもよくなることが明らかになりました。
 皆さんも運動を数週間続けていると、顔色がよくなったり身体が温まることを感じると思いますが、それは血管の内皮機能が改善していることを示しています。
 運動は動脈硬化そのものに対しても効果があります。安定狭心症の患者さんで運動と低脂肪食を1年間継続した群では、通常の治療群に比べると3割の人が改善方向に向かっていることが明らかにされた報告があります。また、別の報告では、安定狭心症の患者さんをステント治療群と運動療法群に無作為に分けて1年後の予後を比較した結果、死亡、心筋梗塞発症、狭心症の悪化などを起こす率が、運動療法群で明らかに少ないことがわかりました。ステント治療しながら運動療法より予後が悪かった原因は、ステント治療した以外の場所の血管で動脈硬化が進行してしまったからでした。
 運動を継続することによって、週単位で血管内皮が改善します。月単位で毛細血管の発達(自然のバイパスが育つともいえます)が期待できます。動脈硬化そのものの退縮は年単位で期待できます。
 まだ証明はされていませんが、運動によって心筋細胞が再生されるのではないかと思えるほど元気になる患者さんがいます。今後、こうした効果も証明されるかもしれません。
 
 それでは、どのような運動を継続すればよいのでしょうか。
 運動のリスクの高い高齢者や心臓病の患者さんが安全に有効に運動をするためには、心臓リハビリテーションの知識が有用です。
 心臓リハビリテーションとは、医学的評価(診断、急性期治療の評価、現在の医学的、精神的な問題等の評価)と科学的根拠に基づいた包括的な長期の運動処方(再発予防のための危険因子の是正)です。具体的には、患者さんの情報を整理して、状態を把握し、問題点を追跡して対策を立てていきます。こうしたことを医師や理学療法士、管理栄養士などの専門職がチームとして行っていくのです。
 運動処方は、「運動の遂行による身体への働きかけを期待して、最も望ましい効果を起こすための運動の質と量を決めること」ですが、これは処方する相手によって異なります。高齢者や心臓病の患者さんの場合は、安全、有効に行える運動の強さの範囲が狭いので、運動の強度が一番重要になります。
 本人にわかりやすい自覚的運動強度の目安としては、ややきつい、汗ばむ程度、運動中に会話ができる程度、となります。
 脈拍を測ることも有用です。安静時の脈拍数プラス20~30が目安です。ただし、最近は心臓病や血圧のお薬にβ遮断薬というものがあり、脈拍をゆっくりさせる効果がありますので、脈拍数の目安については、主治医の先生とよく相談してください。
 お薦めの運動は、安全に行われることが第一で、ウォーキングが基本の有酸素運動です。最近は筋力トレーニングも安全に行われるようになりました。私のお薦めは、スクワット、太もも足上げ、かかと上げです。腕立て伏せも、膝をついて腕を広げて行えば楽にできます(図4)。2017.2zu4.jpg
 運動習慣を長く継続するためのアイディアも必要です。たとえばただ歩くだけでなくハイキングを楽しむなど。卓球で軽くラリーをするのもちょうどよい運動量です。
 運動するときには十分ウォーミングアップを行ってください。終わるときのクールダウンも時間をかけてください。1回あたりの運動量は、30分から1時間で、週に3~5日、翌日に疲れを残さない程度にしましょう。最初から無理をせず少しずつ増やしていくことが大切です。
 1日1万歩が理想ですが、無理をせず、少しずつ距離を伸ばしましょう。脱水に注意して、喉が渇く前に水分補給をしましょう。万歩計をつけて記録したり、自分の散歩道を見つけるなど、歩くことに精通しましょう。そして、健康になることを予感させるような颯爽と歩くイメージで実行してください。
 やり過ぎには注意してください。年を取ってからの運動は無理をすると必ず怪我をします。体調が悪い日はお休みをする勇気も必要です。きついと感じる運動は強すぎます。
 ただし、心機能が悪い人は十分な注意が必要で、厳密な運動処方が必要になります。専門の先生に診ていただいてください。
 高齢になっても心臓病になっても、運動で元気になることができます。自分に合った運動を楽しく続けて、健康で長生きをしましょう。 
2017.3.1掲載
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