禁煙と心血管病予防
2017年01月19日 心臓病の予防禁煙
禁煙と心血管病予防
山科 章(東京医科大学循環器内科教授)
2016年12月4日に、東京・JPタワーにて日本循環器学会関東甲信越支部主催による第2回心肺蘇生法市民公開講座「生活習慣病から心臓突然死を予防する」が行われました。
今回は、その講演より、山科章先生(東京医科大学教授)による「禁煙と心血管予防」を紹介させていただきます。
2015年の国勢調査によると、日本の人口は約1億2700万人で、1年間に生まれた人が106万人、亡くなった人が129万人です。ですから現在、人口は少しずつ減っています。
亡くなった人が129万人ということは、24秒おきに一人、亡くなっていることになります。
主な死亡原因をみますと、悪性新生物(がん)が約37万人、心臓病が約20万人、肺炎が12万人、脳卒中が12万人となっています(図1)。がんが一番多いのですが、がんはすべての臓器を合わせた数です。たとえば胃がんは5万人、肺がんは7万人と、単独臓器としては、心臓、肺が死亡の原因として圧倒的に多いのです。
こうした病気には、その原因となる危険因子があります。そのもっとも大きな危険因子が喫煙です。
2007年のデータですが、日本で1年間にタバコが原因と思われる病気で亡くなった人は12万9千人です(図2)。4分に一人、タバコが原因で亡くなっている計算になります。
ちなみに、次に多い危険因子が高血圧で10万人です。その次が運動不足で、5万人います。
高血圧が原因で亡くなる人はほとんどが循環器疾患ですが、タバコの場合は、肺の病気、心血管病、がんと多岐にわたります。肺のがん以外の病気では慢性閉塞性肺疾患(COPD)が圧倒的に多いといわれています。また、タバコが原因のがんは、咽頭喉頭がん、肺がん、食道がん、などが主なものです。
タバコには4000種類以上の化学物質が含まれていて、そのうち200種類以上は有害物質です。発がん物質も多く含まれています。
日本人は、食品に発がん物質が1つあると大騒ぎしますが、たくさんの発がん物質が含まれているタバコに関しては、不思議なことにメディアは何も言いません。
喫煙により血管に悪影響を及ぼす物質もたくさん含まれています。代表的なのが、ニコチン、一酸化炭素、活性酸素です。ニコチンは血管を収縮させます。一酸化炭素は酸素の250倍も血色素(ヘモグロビン)と結びつく力があるため、ヘモグロビンが酸素と結合できずに、酸素を運べなくなってしまいます。活性酸素は血管を拡げる一酸化窒素(NO)の働きを阻害し、血管の内膜を傷つけて動脈硬化のきっかけとなり、傷ついた内膜から悪玉コレステロールが血管の中に入り込むようになります。
こうした有害物質は、主流煙(タバコを吸っている人が体内に吸い込む煙)より、副流煙(タバコの先から出る煙で、周りの人が吸ってしまう煙)のほうに多く含まれていることにも問題があります。副流煙による有害物質は、吸った人が吐き出した煙や、洋服、絨毯にくっついたものにも含まれています。タバコを吸うことは、自分にとって有害なだけでなく、周りの人にとっても有害なのです。
タバコを吸う人は、吸わない人に比べ、心筋梗塞になる確率が、男性だと3.6倍、女性だと1.4倍になります。突然死は、男性は10.7倍、女性は4.5倍多くなります(図3)。
また、家族やオフィスにタバコを吸う人がいると、周囲の人は心筋梗塞になりやすくなり、一日15本以内で1.16倍、15本以上だと1.44倍になります。
イギリス人の男性医師3万5千人を50年間追跡調査した結果があります。35歳の時100人いたとすると、35年後、70歳でタバコを吸わない人は81人生きていますが、吸っている人は58人しか生きていません。タバコを吸うと圧倒的に寿命が短くなり、その差は10年になります(図4)。10年を分にすると525万6千分です。毎日20本、50年間、タバコを吸うと、生涯で36万5千本吸うことになります。タバコを吸う総本数で寿命の差を割ると、一本すうと14分寿命が縮まる計算になります。一方で、タバコ一箱(20本)460円として365日、50年間吸うと、840万円、高級車が1台買えるほどお金を消費しています。
それでもタバコを吸いますか。
タバコをやめるとどうなるでしょう。35歳の時にタバコをやめれば、生涯、吸わない人とほぼ同じ寿命になります(図5)。つまり寿命が10年伸びます。60歳でやめると、3年延びます。3年は少ないようですが、残りの人生を20年と考えれば、3年は大きいのではないでしょうか。
日本循環器学会を含む27学会が参加している禁煙推進学術ネットワークでは、毎月22日を禁煙の日と定めています。数字の2を白鳥(スワン)に見立て、スワンスワン(吸わん吸わん)という語呂合わせですが、毎月1回禁煙のきっかけになる日があるので、ぜひ禁煙をしてみてください。
「禁煙の日」サイト(http://www.kinennohi.jp/)には、禁煙を支援する情報もたくさんありますので、ぜひご活用ください。
(2016年12月4日 日本循環器学会関東甲信越支部 市民公開講座 講演より)
2017.01.19掲載