動脈硬化と食品中の脂肪の種類
脂肪の種類を見分けるのが肝心!
岡村 智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授)
2016年6月18日に、埼玉県さいたま市で第52回日本循環器病予防学会学術集会市民公開講座「食事で脳卒中・心臓病を撃退!」~ニッポンデータ全国2万人調査で分かった最新情報~が行われました。今回はそこからのレポート第3弾「脂肪の種類を見分けるのが肝心!」を紹介します。
動脈硬化の進展の仕組み
はじめに、脂肪と関係が深い動脈硬化についてお話しします。
動脈硬化とは、動脈(体に酸素や栄養を運ぶ血管)の内側に粥腫(アテローマ)ができて狭くなり、血液の流れが悪くなったり、詰まったりしやすくなった状態です。粥腫(アテローマ)には必ずコレステロールが存在しています。
コレステロールは、体の機能の維持に不可欠ですが、「水と油は混ざらない」といわれることからもわかるように、血液には溶けません。そのためコレステロールは、蛋白質で包まれた「リポ蛋白」という名の、いわば舟のようなものに乗って全身の血液中に運ばれます。
「リポ蛋白」のうちLDL(低比重リポ蛋白)という舟に乗って運ばれるコレステロールが、LDLコレステロールです。LDLコレステロールは動脈硬化と関連が深いため、悪玉コレステロールとも呼ばれています。
動脈硬化の進展には、血管壁に侵入したLDLコレステロールが関与しています。血管壁に侵入したLDLは酸素の働きにより酸化され、酸化LDLに変化します。するとバイ菌などを食べて体を守っているマクロファージ(白血球の一種)が、これを異物として認識して食べてしまいます(貪食)。しかし本来食べるはずのバイ菌ではないので制御がきかず際限なく食べ続けることになり、貪食によって作られた細胞(泡沫細胞)がたくさん蓄積されていきます。
やがてこの泡沫細胞が死滅すると、中身のコレステロールがまき散らされます。まき散らされたコレステロールが血管の内膜に蓄積し、これが動脈硬化に繋がるのです。
わが国の長期追跡調査であるニッポンデータ80(1980年の調査対象者)では、その一環として総コレステロール値と心筋梗塞死亡との関連も調べています。
総コレステロール値160~179mg/dLの群の死亡リスクを1とした時、男性で240mg/dL以上、女性で260mg/dL以上の群で心筋梗塞死亡リスクが4倍近くあり、統計学的に意味があるという差をつけて(* 有意差あり)上昇していました。(
図1)
これは日本人約1万人を約19年間追跡して得られた結果です。総コレステロール値240mg/dL、260mg/dLは、おおまかですが80を引いて各々、LDLコレステロール値160mg/dL、180mg/dLに相当すると考えて良いでしょう。
食品中の脂質の種類
動脈硬化を防ぐためには、動脈硬化の成り立ちからみて、いろいろな方法が考えられます。
「コレステロールの酸化を防ぐ」、「マクロファージの機能を抑える」、「内膜の肥厚を削る」、「血中のコレステロールを減らす」、などです。
しかし、酸素呼吸している以上、酸化を防ぐのは難しい、マクロファージの機能を抑えれば免疫機能が弱くなるなど、研究の試行錯誤を重ねた結果、最も妥当だとして残ったのが、現在広く行われている「血中のコレステロールを減らす」方法だったのです。
食品中の脂質の種類には、コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)があります。
コレステロールはヒトの体(細胞膜など)を作る材料です。一日に食事から摂る量は0.5g(500mg)程度で、これ自体にエネルギーはありません。
エネルギー源となるのが中性脂肪です。エネルギー源としてはまず血糖が使われますが、それで不十分なときには中性脂肪が使われるのです。食品に含まれる脂肪はほとんどが中性脂肪で、1 g=9 kcalとエネルギーが高いのが特徴です(糖質・蛋白質は1 g=4 kcal、アルコールは1 g=7 kcal)。
日本人は、実はイギリス人やアメリカ人と比べて、男女とも食事からのコレステロール摂取量が多いのが特徴です。しかし、だからといって血中コレステロールが高いというわけではありません。
それはなぜかといえば、食事性コレステロールの摂取源として、日本人は多い順に鶏卵、魚介類、肉類です。イギリス人は肉類、鶏卵、牛乳・乳製品、アメリカ人は肉類と鶏卵が同じ程度に多く、次いで牛乳・乳製品です。
つまり、日本人は魚介類からのコレステロールをたくさん食べているのが特徴なのです。
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸のうち魚介類に多く含まれるのが多価不飽和脂肪酸です。
日本人、イギリス人、アメリカ人の飽和脂肪酸摂取量を比べると、日本人では男女ともイギリス人、アメリカ人の半分ほどと少なくなっています。
一方、魚介類由来の多価不飽和脂肪酸摂取量は、男女とも日本人では、イギリス人、アメリカ人を圧倒的に上回っていました。
魚介類由来の多価不飽和脂肪酸とは、よく耳にするエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などです。
食品中の脂肪の見分け方(たくさん含まれているのは飽和脂肪酸?それとも不飽和脂肪酸?)
血中には、肝臓で作られたコレステロールと食事からのコレステロールの両方が存在していますが、大部分は肝臓で作られたものです。食事からのコレステロール摂取量が多くても、血中コレステロールが高いというわけではないのは、こうした理由からです。
とはいっても、血中コレステロールの約5分の1は食事由来なので、コレステロールの摂り過ぎは良くはありません。
しかし、まず肝臓で合成されるコレステロールを下げるような食生活を心がけることが重要です。
肝臓におけるコレステロールの合成には、食事中の脂肪酸の種類が大きな影響を与えています。
さきほどご紹介した脂肪酸のうち、飽和脂肪酸といわれるものはラードや肉の脂身などに含まれており、一般に動物系です。飽和脂肪酸は肝臓でのコレステロールの合成を促進します。
一方、不飽和脂肪酸といわれるものは、紅花油やサラダ油、魚油などに含まれており、一般に植物系、魚油系です。不飽和脂肪酸は肝臓のコレステロールの合成を抑制する働きがあります。(
図2)
では、その食品に多く含まれるのが飽和脂肪酸か、不飽和脂肪酸かを見分けるにはどうしたら良いのでしょうか?
それは、冷蔵庫に入れると、固まる油が飽和脂肪酸(バター、ロースハムなど)、固まらない油が不飽和脂肪酸(ごま油、魚や魚の卵など)です。
不飽和脂肪酸を多く摂ることが望ましいのですが、飽和脂肪酸を多く摂る機会があったなら、次の機会には不飽和脂肪酸を多く摂るといった、バランスの良い食事にする工夫も大事です。
魚介類由来の多価不飽和脂肪酸を摂取する量が多くなるほど、循環器疾患(脳卒中+心筋梗塞)による死亡リスクが最大で20%ほど低下することが、ニッポンデータ80からわかっています(統計学的に有意差あり)。(
図3)
脂肪の種類をしっかり見分けて、血中のコレステロールが上がらないように注意しましょう。
魚をしっかり食べる伝統的な日本食は、塩分の取りすぎにさえ注意すれば、理想的な健康食になるのです。
2016.10.17掲載