あなたの脚(あし)は、血管病? ~敵は糖尿病~
2016年11月16日 その他
あなたの脚(あし)は、血管病? ~敵は糖尿病~
井上芳徳(東京医科歯科大学末梢血管外科科長)
「歩くことが億劫になった」のを、年のせいに思われるかもしれませんが、それは血管病かもしれません。その血管病は動脈硬化(血管が硬くなったり詰まったりする状態)によって起こりますが、その原因となる敵は、肥満、高血圧、高脂血症(脂質異常症)、糖尿病で、「死の四重奏」ともいわれています。なかでも最大の敵は糖尿病です。
糖尿病は、尿に糖が出てくることから名付けられた疾患ですが、血中の血糖値が高い状態を指す病気です。
身体のエネルギー源となるブドウ糖は、血中を通って細胞に取り込まれますが、その細胞に糖が入るためにはインシュリンというホルモンが必要です。いわば血管という道路を通った糖が、細胞という家に入るために、インシュリンというドアの鍵が必要なのに、その鍵の数が少ないために、糖が家には入れず道路に溢れてしまっている状態です(図1)。
このインシュリンというホルモンを出す力が、日本人(アジア系)は欧米人の半分程度といわれており、欧米のような食事や運動不足、肥満があると、欧米人より糖尿病になりやすいのです。
わが国の糖尿病が強く疑われる成人の数は950万人といわれております(2012年国民健康・栄養調査)(図2)。
ここで、糖尿病について、どれだけ皆さんがご存じかどうか、チェックシートで確認してみましょう。
次のチェックシートで正しいと思うものには○、間違っていると思うものには×をつけてみてください。
--糖尿病知識度チェックシート-----------------------------------------------
1)正しい食生活と運動習慣は糖尿病予防の効果がある
2)糖尿病になっても、自覚症状がないことが多い
3)太っていると糖尿病になりやすい
4)糖尿病の人には、血圧の高い人が多い
5)糖尿病の人には、コレステロールが高い人が多い。
6)軽い糖尿病の人でも、脳卒中や心臓病になりやすい
7)糖尿病は、人工透析の原因になる
8)糖尿病は、成人における失明の原因になる
9)糖尿病の人は、傷が治りにくい
10)糖尿病の人は、歯周病になりやすい
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(荒川区ホームページ:チェックしよう あなたの糖尿病知識度より引用)
いかがでしょうか。
まず、糖尿病の中でも日本人に多いのが2型糖尿病で、生活習慣が誘因となります。とくに生活習慣病に注意しなければいけない人は、内臓脂肪型肥満(見た目でいうとリンゴ型)の人です。食べ過ぎや早食いに注意してください。
また、糖尿病の主な症状は、非常に喉が渇く、トイレに行きたくなる、食事をしたばかりなのにお腹が減る、血糖が上がりすぎて身体がだるくなる、などがあります。
しかし、症状はかなり進行してから起こるため、ほとんどの人は無症状で過ごしています。ですから、早期発見のためには、症状が出てからでは遅く、採血検査を定期的に行うことが大切です。
お腹がすいているときの血糖値が、126以上だと糖尿病型です。正常は110以下です。また、ヘモグロビンA1cと空腹時血糖値が高いと糖尿病と診断されます(図3)。
糖尿病になると、高血圧、脂質異常になりやすくなります。また、ばい菌に弱くなり、感染症にかかりやすく傷の治りが遅くなります。
歯周病にもなりやすくなります。歯周病によるポケットは、一つ一つは小さくても全部を合わせると500円玉くらいの傷があるのと同じ大きさになります。この菌が歯磨きの時に血液に入り込んだり、そこまでいかなくてもTNF-αという物質を出してインシュリンの働きを弱めてしまいます。糖尿病予備軍の人は、歯周病にも注意が必要です。
もっと怖いのが、細い血管が障害を受けることです。目の網膜の血管が障害されると目が見えにくくなり、失明することがあります。腎臓の細い血管が障害されると透析を受けることになります。
また、手足の神経が鈍くなります。大きな石が靴の中に入っても気づかないこともあります。こうした傷やひび割れ、水虫などが原因で、ばい菌が入らないよう、フットケアが大切になります。
このように、チェックシート1)から10)まで、すべて○です。
そして、この糖尿病と喫煙は動脈硬化を進行させるので、足にも血管病が起こります。
足の血管病の代表的な症状は、間欠性跛行と呼ばれるもので、じっとしてる分には痛くないのですが、200~300メートル歩くとふくらはぎが痛くなります。そして、2~3分休むとまた歩けるようになります。このような症状があったら、足の血管病を疑いましょう。
糖尿病の早期発見は採血検査ですが、足の血管病は、動脈硬化度検査(ABI)です。ABIは手と足の血圧の差から動脈硬化の進行度をみる検査です。検査値が1より低い人は動脈硬化の可能性があります(図4)。
なお、糖尿病がある人は数値が高めに出ますので、正常値でも要注意が必要です。
歩くとふくらはぎが痛い人、50歳から64歳で糖尿病がある人あるいは喫煙者、65歳以上の人は、年に一度はABIを測りましょう。
(10月16日開催 Take ABI & Echo 2016 市民公開講座より)
2016.11.15掲載