心不全を知ろう
2016年05月18日 心不全
心不全を知ろう
久保田功(山形大学医学部第1内科教授)
心不全とはどんな病気か
心不全とは心臓のポンプ機能の低下によって、身体に様々な症状が現れた状態です。普段は安定していても、過労などにより症状が悪化しやすくなります。
心不全の症状には、心臓から身体に血液を十分に送り出せないことから起こる症状として、坂道や階段での息切れ、日中の尿量の減少、手足が冷たくなる、全身倦怠感があります。
そして、心臓に身体の血液が戻らずに滞ってしまう「うっ血」から起こる症状に、体重の増加、夜間の尿量の増加、食欲不振、むくみ、夜間の呼吸困難や咳があります。
このような症状があれば、心不全かもしれません。
心不全の死亡率はどのくらいか
わが国の疾患別死亡率をみてみますと、毎年約130万人の方が亡くなっていますが、そのうち悪性新生物(がん)で亡くなる方が一番多く、約37万人います。心疾患はそれに次いで約20万人ですが、がんは肺がん、胃がん、乳がんなど、すべての臓器がんを合わせた数字ですから、心臓は単一の臓器では、もっとも死亡率が高いといえます。
その心疾患のうち4割の約7万人が心不全で亡くなります。がんの中で一番死亡数の多い肺がんが約7万人ですから、心不全は肺がんと並んで最も多い死因といえます(厚生労働省 平成22年人口動態統計)。
心不全は高血圧や心筋梗塞、弁膜症など、さまざまな疾患の終末像であり、高齢者に多い病気です。
65歳以上の人口の10%以上が心不全といわれています。わが国は高齢化が進んでいますので、今後、ますます増加する疾患です。これは世界的な傾向でもあります。
心不全の予後は、がんより悪いか
国立がん研究センターなどの研究班が発表したがん患者の10年生存率(全がん協ホームページ)によれば、甲状腺がんや乳がんでは80%を超えますが、膵臓がんは5%を切り、がんの発生部位によって予後に大きな差があることがわかりました。がん全体の10年生存率は約58%でした。
一方、心不全では、一番重篤な患者さん(NYHA分類 Ⅳ度)では、1年で50~60%が亡くなります。軽い患者さん(ⅠからⅡ度)でも、1年で5~10%亡くなります。ですから、重篤な心不全の予後は、がんと同程度、あるいは一般的ながんより予後が悪いといえるでしょう(図1)。
心不全患者さんが気をつけること
慢性心不全の治療では患者さんによる食生活の管理が重要になります。
まず塩分を控えることが重要です。軽症の患者さんで1日食塩7グラム以下(高血圧学会は6グラム以下を提唱しています)、重症の患者さんで3グラム以下を目安に制限します。
カップラーメンには食塩が5~7グラム含まれています。買うときに食塩の含まれる量をよく見て、汁まで飲まないようにしましょう。
次に、水分を取りすぎないことです。むくみ、体重増加が大きい場合には、医師から制限されることがあります。
そして、必ず禁煙、原則として禁酒です。
日常生活では十分な休養と適度な運動を心がけ、精神的・身体的ストレスを生じないように無理のない生活を送ることが大切です。
また、薬は正しく服用しましょう。服薬時間と回数を守り、自己判断で中止や変更をしてはいけません。
心不全は、急性増悪を繰り返して進行します。急性増悪で再入院すると、回復しても心機能はもとのレベルに戻りません。急性増悪による再入院の 原因は、塩分・水分制限の不徹底、治療薬服用の不徹底、過労やストレスといった患者さんの要因が6割を占めています(図2)。
ですから、日常生活の注意をよく守り、毎日、体重や排尿、むくみなどのチェックを心がけ、悪化の兆しがみられたら、かかりつけ医に報告してください。
BNPとは
心不全の状態を示す指標として、BNPという血液検査があります。BNPは心臓から分泌されるホルモンで、心臓の調子が良いと下がり、調子が悪いと上がります。慢性心不全の目安は200pg/ml未満とされています。
外来でのBNP検査で、心不全の増悪を察知し、悪化(入院)を回避しましょう。
(第80回日本循環器学会学術集会市民公開講座より)
2016.5.16掲載