血管の病気を知ろう(2)静脈疾患
2016年02月15日 動脈・静脈疾患(動脈瘤、静脈瘤、動脈解瘤)
血管の病気を知ろう(2)静脈疾患
山王メディカルセンター心臓血管病センター長 重松宏
静脈瘤は二足歩行の宿命?
静脈は心臓に戻っていく血管のため、動脈ほど血圧にさらされません。逆に、足先の血液などは引力に逆らって上に戻っていくため、足の筋肉や静脈内にあって逆流を防ぐ弁が重要な役割を担っています。つまり、二足歩行を始めた人間にとって、足の静脈は非常に負荷がかかるようになったともいえます。
その上、椅子での生活や、飛行機や車による長時間の移動など、足を動かさない現代生活が、さらに静脈疾患を発症しやすくしているといえるでしょう。
動脈疾患のように、命に関わる危険が少ない疾患ですが、病気としては動脈より静脈のほうが多いのです。
下肢静脈瘤
軽症も含めると、女性の20%が静脈瘤を持っています。
下肢静脈瘤は、ふくらはぎのあたりの静脈に血液が溜まって瘤のように、ぼこぼこ膨らんで見える状態です。うっ血の強いところは血液成分がしみ出して茶褐色に変色したり、痒みを伴う場合もあります。
足の静脈には、骨の近くで真ん中を通る太い深部静脈と、皮膚の下を走る表在静脈(大伏在静脈と小伏在静脈)があります(図1)。下肢静脈瘤は、その表在静脈に血液が溜まってしまう疾患です。
静脈瘤の起こる大きな原因の一つに、妊娠・出産があります。妊娠・出産でお腹が大きくなり、静脈圧が上がって大伏在静脈から深部静脈に入るところの静脈弁が壊れてしまい、血液が逆流して足先の枝の静脈に血液が溜まってしまうのです。また、妊娠時には胎児に栄養を与えるため、血管を拡げるようなホルモンが出ますが、それによって静脈も拡がり、弁が閉じなくなってしまうことも起こります。
下肢静脈瘤は女性に多いのが特徴で、立ち仕事や加齢も原因となります。
症状は足のむくみやだるさ、重く感じることです。また足がつったり、痒みがある場合もあります。さらに、足の血管が浮き出て見えるため、美容上の問題もあります。
治療は、弾性ストッキング着用によるうっ血防止と、最近は表在静脈の血管内をレーザーで焼いて閉じることにより血液の逆流を防ぐレーザー治療(血管内焼灼術)が行われています。
そのほかに、静脈瘤のある血管内に薬剤を注入して固めてしまう硬化療法や、ワイヤーを用いて抜去するストリッピング手術などがあります。
いずれも日帰りで行われている治療です。
弾性ストッキングは足の方から心臓の方に向かって圧勾配が付けてあり、血液が戻りやすい環境を作っている医療用ストッキングです。適切な治療を行うことで効果がありますので、弾性ストッキングコンダクターの指導の下で着用するのがよいでしょう。
深部静脈血栓症
冒頭に記したように、二足歩行を行う人間にとって、引力に逆らって血液を足先から心臓まで戻すために、静脈内の弁とともに重要な役割を果たすのが、歩行などの足の運動による筋肉の力です。ですから、長時間、足を動かさないでいると血液の流れが悪くなり、血栓ができやすくなります。
血液にはもともと流れないと固まりやすくなる性質があり、それは傷口を固めるためには有効なのですが、血管内で起こると血流を障害することになり、さらにその血栓が血管内を移動して細い血管を詰まらせると、その先への血流が途絶えてしまいます。とくに移動した血栓が肺動脈を詰まらせると肺血栓塞栓症となり、命に関わる場合もあります。
数年前、エコノミークラス症候群と呼ばれ、長時間の飛行機移動が肺塞栓症の原因として話題になったり、また東日本大震災の後、狭い避難所での生活による静脈のうっ血を防ぐ注意喚起が学会から発信されたりしたように、長時間、手足を動かさないことが、血栓を作る原因となります。
また、現代は椅子での生活や、車での移動が多くなり、足の筋肉を動かす機会が減っていることも、この疾患を増加させる原因になっています。
さらに、立ち仕事で足の静脈に負荷がかかっている人にも多くみられます。
そのほか、怪我や手術、出産など出血を伴うことがあると、血液が固まりやすくなります。
症状は、足のむくみ、重く感じたりだるく感じたりすることです。掻痒感が伴うこともあります。
診断は超音波検査が行われます。血栓があるかどうか確かめる血液検査としてD-ダイマーという検査もあります。
治療は、血栓が増えることを防ぎ、肺塞栓症を起こすことを防ぐために、抗凝固療法を行います。使用される薬剤は、ワルファリンで、最近はNOACと呼ばれる新しい抗凝固薬の一部も使用できるようになりました。
また、予防には弾性ストッキングが効果的です。立ち仕事の多い人や、飛行機による移動の時など、弾性ストッキングを履くことで、うっ血を取り、血栓ができないようにします。さらに血流がよくなるので、足の疲れも少なくなります。
昔の旅人が足に脚絆を巻いたり、兵隊がゲートルを巻いたりしたのも、当時の生活の知恵かもしれません。
今回は、静脈疾患を中心に解説しましたが、足のむくむ原因として、リンパ浮腫という疾患もあります。
人間の身体には血管の他、リンパ管と呼ばれるリンパ液が通る管が張り巡らされており、感染防御や組織浸透圧を保つ役割を担っています。
癌の治療でリンパ節郭清手術を行ったり、放射線治療などでリンパ液が流れなくなると、むくんだり、歩けなくなったり、皮膚が硬くなる象皮症を起こしたりします。
この場合の治療にも弾性ストッキングは有効です。ただし、前述したように、適切な使用が大切ですので、日本静脈学会の認定する弾性ストッキングコンダクターの指導の下で着用されるのがよいでしょう。
参考:「血管の病気といわれたら」(著:重松 宏、保健同人社)
2016.2.15掲載