加齢と心臓病
熊本加齢医学研究所所長 泰江弘文
「ひとは動脈とともに年をとる」と言われていますが、加齢とともに動脈硬化が進行し心臓病の原因になります。
心臓病の中でも突然出現して死に至る可能性が高いのが、虚血性心疾患と呼ばれる、狭心症や心筋梗塞などです。これらは心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化やれん縮(痙攣による収縮)によって突然狭窄または閉塞することで起こります。
加齢は心筋梗塞の最大の危険因子ですが、65歳以下の成人でも高血圧があると6倍、糖尿病があると5倍、喫煙で3倍、起こりやすくなります(図1)。
こうした危険因子を抑制するために効果的なのが、適度な運動です。適度な運動は、あらゆる血管機能を高め、加齢関疾患を抑制し、健康寿命を延長させます。
加齢は心臓病だけでなく、癌や糖尿病、神経変性疾患などさまざまな病気を引き起こす(図2)ため、高齢者の心臓病はこれらの合併症により病態もさまざまになります。
たとえば狭心症に特有の胸部圧迫感を訴えなかったり、自覚症状がなかったりします。さらに、多くの薬を服用していることから、その副作用により病態が複雑になります。また高齢者の心不全は拡張能が阻害されることが多く、有効な治療法が確立していません。
こうした加齢と加齢による関連疾患に関する研究も分子レベルで進んでおり、mTORというタンパク複合体が加齢関連疾患の発症に関与していることがわかってきました。(図3)。食物摂取により成長因子が刺激され、mTORが活性化し、タンパク合成を促進し細胞肥大・増殖します。この経路の働きが過度になると、酸化ストレスの蓄積や慢性炎症などにつながり、これらは加齢によりさらに促進されて加齢関連疾患(癌、心血管病、糖尿病、神経変性疾患、骨粗鬆症など)を発症させます。
このmTORの活性を抑制するのが、適正な食事(バランスの取れたカロリー制限や食塩制限)と適度な運動(身体活動)です。
驚くべきことに、このことに関して300年前の江戸時代に貝原益軒がすでに養生訓で述べております。
「身体は少しづつ労働すべし。久しく安座すべからず。」
「珍味の食に対するとも、八九分にてやむべし。十分に飽き満るは後の禍あり。」
栄養のバランスの取れたカロリー制限と身体活動(適度な運動)が、健康寿命の延長につながります。
(2015年4月26日 第79回日本循環器学会学術集会市民公開講座「知って得する心臓病の知識」より)
2015.06.15掲載