循環器疾患を予防して健康寿命を延ばそう!
~平均寿命と健康寿命のお話~
東京医科大学循環器内科教授 山科 章
医学の発達によって、脳卒中や心筋梗塞の患者さんの多くが救われるようになりました。しかし、それはいわば死に直面した崖っぷちの患者さんをすくい上げたに過ぎません。もっと手前、すなわち予防こそが重要です。
日本国民の平均血圧をたった1mmHg下げるだけで3.2%、日本全体で毎年約4500人の脳卒中による死亡が減少し、約1万人の発症を防ぐことができるといわれています。
そして、ただ長生きするのではなく、健康に長生きすることこそ、最も重要です。ここで、日本人の平均寿命と健康寿命を比較してみましょう。
日本人の平均寿命は、男性79.55歳、女性86.30歳、健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳です(2010年)。その差は男性9.13年、女性12.68年で徐々に広がる傾向にあります。
この平均寿命と健康寿命は、どのように計算されているか、知っていますか。
平均寿命はある年の年齢別死亡率をもとに計算されます。10万人が誕生したとして0歳、1歳、2歳と年齢別死亡率から生存数を計算し、生存数曲線を描き、そこから寿命の平均値を計算しています。
一方、健康寿命は、健康の定義を「日常生活に制限のない人」「自分が健康であると自覚している人」「日常生活動作が自立している人」として、国民生活基礎調査によるアンケートをもとに算定されています。
健康寿命を長く延ばし、多くの国民が健康的な生活をできるだけ長く送るためには、今までのような「発症してからの治療、発見して治す医療」から「疾病発症を予測し、予防する医療」へとシフトしていく必要があります。
健康寿命を阻害する要介護の原因の約30%は心血管病です。心血管病の予防はまず第一に動脈硬化の危険因子を減らすことです。予防できる危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、肥満であり、生活習慣の改善では禁煙は当然として、とくに運動、栄養(食事内容)、睡眠が大切です。運動は心血管病の予防だけでなく寝たきりの原因にもなる骨折の予防にもなります。また24時間活動する現代社会においては、健全な睡眠をとることも大変重要です。
生活習慣の改善により心血管病の発症を予防し、健康寿命を延ばしましょう。防火に勝る消火はありません。
2015.4.15掲載