心臓病に対する治療や手術の費用について
榊原記念病院監理部 佐藤 譲
公的医療保険制度
1961年の国民健康保険法の改正により、国民皆保険体制が確立され、国民全員が公的医療保険制度に加入し、誰でも公平・平等に安い医療費で高度な医療を受けられることが保障されております。
公的医療保険制度としては、サラリーマンが加入する被用者保険「職域保険」と、自営業者・サラリーマンOBなどが加入する国民健康保険「地域保険」、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度の3種類に大別されます。
参照:厚生労働省 「我が国の医療保険について」
その1:高額療養費制度
心臓病に対する治療や手術費用は、費用総額が高額になるものが多く(
病名別医療費表.xlsx「症例参考:
公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属榊原
記念病院」
)、なかには入院時の費用総額が1,000万円を超えることもあります。しかし、医療機関で医療保険の保険証を提示すると、全額自己負担ではなく窓口(患者本人の窓口負担は1割~3割)での負担が少なくて済むのは、加入されている医療保険制度の種類に応じて保険料を支払っているため、公的医療保険より医療機関に医療費(患者本人の窓口負担以外)を支払っているからです。
さらに、公的医療保険における制度の一つである高額療養費制度では、医療機関や薬局の窓口で支払った額が
暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度であり、年齢や所得等の条件に応じて軽減できます。
参照:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
その2:身体障害者制度
都道府県知事もしくは指定都市市長または中核市長が交付する身体障害者制度もあります。この制度は「身体障害者福祉法」(「障害者自立支援法」と相まって、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障害者を援助し、必要に応じて保護し、身体障害者の福祉の増進を図ることが目的)に基づいたもので、一定の障害(視覚障害、音声機能など、肢体不自由、心臓・腎臓又は呼吸器の機能の障害等)がある
18歳以上の方に対して、各種の福祉等のサービスを受けられる制度です。
参照:厚生労働省「障害者手帳」
心臓病においては、心臓ペースメーカー、心臓ステント、心機能障害、心臓バイパス手術等を受けた患者さんが対象となります。
障害等級や地域より異なりますが、下記のようなサービスが受けられます。
①補装具等の交付・修理(車椅子、義肢、装具その他)
②JR鉄道や私鉄の運賃割引
③公営交通機関(バス・地下鉄等)の運賃割引
④民営バスの運賃割引
⑤タクシ-料金助成(自治体が割引券を支給)
⑥タクシ-会社の運賃割引
⑦航空会社の国内線運賃割引
⑧高速道路及び有料道路の通行料割引
⑨公共施設(美術館、博物館、動物園等)の入場料割引
⑩住宅改造費の補助
⑪自動車改造費補助
その3:育成医療
育成医療は、市町村が実施主体となった
18歳未満の児童を対象とする自立支援医療制度です。身体に障害のある児童またはそのまま放置すると将来障害を残すと認められる疾患がある児童が、その障害を除去・軽減する効果が期待できる手術等の治療を行なう場合に対し、保険診療の自己負担額が公費によって助成する制度ですが、 世帯の所得額に応じて一部自己負担金が生じることがあります。助成が認められれば、助成期間は、原則 3か月以内。治療等の内容によって最長1年まで認められる場合もあります。
この制度の対象となる治療に、先天性心疾患に対する弁口や心室心房中隔に対する手術、後天性心疾患に対する ペースメーカー埋込み手術が含まれています。
参照:厚生労働省「自立支援医療(育成医療)の概要」
その4:子ども医療費助成制度
都道府県および市町村が実施主体で、子どもの保健対策を充実し、子育て世帯の経済的負担を軽減するため、子どもが病気や怪我などにより受診した場合の医療費を助成する制度です。助成内容である窓口における自己負担金、所得制限の有無などは実施主体である市町村によって異なっておりますが、
年齢の対象は0歳から15歳に達した最初の3月31日までが基本となっております。
なお、東京都では、0歳から6歳に達する日以後の最初の3月31日までの乳幼児(義務教育就学前までの乳幼児)を療育している方には乳幼児医療費助成制度(マル乳)、義務教育就学期にある児童(6歳に達する日の翌日以後の最初の4月1日から15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者)を養育している方には義務教育就学児医療費の助成(マル子)と2つ分けています。
参照:東京都「医療費助成」
その5:小児慢性特定疾患制度
都道府県もしくは指定都市及び中核市が実施主体で、子どもの慢性疾患に対し、児童の健全育成を目的として、疾患の治療方法の確立と普及、患者家庭の医療費の負担軽減につながるよう、医療費の自己負担分を補助する制度です。助成対象は、
18歳未満(引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満)の児童。
この対象疾患のなかに、ファロー四徴症、単心室等が含まれ、入院費用や外来通院費用に対し、所得に応じた上限金額を限度とする患者一部負担額を医療機関の窓口に支払うことになります。
参照:厚生労働省:「小児慢性特定疾患治療研究事業の概要」
負担の軽減策
保険料や税金を活用されている公的制度での
費用の負担軽減だけではなく、先天性心疾患、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、心不全、不整脈、心筋症、大動脈疾患、弁膜症、高血圧症などの患者さんを対象に様々な治療が行われていますが、患者さんの
身体への負担軽減も試みられております。
治療の対象となる患者さんは、新生児から高齢者までの幅広い年齢層にわたります。食事療法、生活習慣の改善、薬物治療がまず原則ですが、治療抵抗性の場合は様々な追加治療が必要となります。従来は手術治療が主でしたが、カテーテルを用いた治療もかなりの部分で可能となりました。
例えば、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患に対してはステント植え込み術などが行われ、不整脈に対してもカテーテル心筋焼灼術やペースメーカー治療などが行われます。心臓弁膜症に対しては、大動脈弁・僧帽弁形成術や弁置換術など外科的治療が行われますが、一部の患者さんではカテーテル治療も可能です。また、虚血性心疾患・心筋症などで心不全や不整脈を合併する場合、内科医と外科医等のチーム医療のもと、治療が選択されます。そして、従来の心臓手術では、胸部を大きく切開し、人工心肺装置による体外循環を用いるのが標準的でしたが、この侵襲の度合いをできるだけ低くする治療方法が普及してきました。小切開心臓手術では「小さな創」、大動脈ステントグラフト治療では「開胸や開腹を要さない人工血管手術」、経カテーテル大動脈弁置換および心房中隔欠損に対しては「内科医と外科医が協力したカテーテル対応」、経皮的中隔心筋焼灼術では「カテーテルを使用して純エタノールにより閉塞責任中隔心筋を焼灼壊死させる治療法」などが開発されております。
したがいまして、
患者さんの費用負担の軽減策や、患者さんへの身体への負担軽減が進むなか、安心して治療を受けられることができます。
2015.1.19掲載