心臓病の内科治療
2015年08月17日 不整脈脳梗塞・脳出血
心臓病の内科治療
熊本大学循環器内科学准教授 掃本 誠治
心臓は働き者の臓器で、1分間に60~70回の拍動があり、1日に10万回もの拍動をして全身に血液を送り出しています。1回に拍出する血液の量はおよそ60~70ccです。
この心臓の疾患には、心臓の筋肉(心筋)、脈(拍動)、血管、弁(バルブ)によるものがあります。
こうした病気を治療する目的、目標は、苦しいとか痛いという発作を鎮め、生命予後を改善して長生きできるようにすることです。
内科的治療には、まず一般療法として、過度の労作、精神的興奮、寒冷、過食を避けるということがあります。また、危険因子である高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、肥満などの生活習慣病の改善やコントロールを行います。
内服薬には、血圧、脈を抑え、血管を拡げ、血液をサラサラにするものがあります。
近年は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対し、胸を開く手術のような身体に負担の大きい治療ではなく、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)治療と呼ばれていますが、カテーテルという細い管を血管内に通して治療する方法が多く行われるようになりました。これは、足の付け根や肘の動脈からカテーテルを入れて、冠動脈内の狭くなった部分で風船を膨らませて血管を拡げ、そこにステントという金網を拡げて留置する治療です(図1)。最近は、血管が再び狭くなることを抑えるために、薬を塗ったステント(薬剤溶出性ステント;DES)使うことが多くなっています。
また、不整脈にもカテーテルを使って不整脈を起こす部位を焼くカテーテルアブレーションや、弁の治療にも大動脈弁をカテーテルで留置するTAVIという治療が行われています。ヨーロッパでは難治性高血圧に対するカテーテル治療として腎デナベーションも行われています。
一方で、急性心筋梗塞は突然発症するために、予知することができません。ですから、予防が大変重要です。たとえステントを入れても、また違う場所が突然詰まってしまうこともあるのです。
江戸時代、貝原益軒は「養生訓」で、毎日少しずつ運動をすれば血行がよくなり病気にかかりにくくなると書いています。彼は江戸時代に84歳まで長生きしました。
また、平安時代に丹波康頼が書いた日本最古の医学書「医心方」にも、流れる水は腐らないとして、身体を動かすことが健康の第1歩と言っています(図2)。
冠動脈が狭くないのに、胸が痛くなる、冠攣縮狭心症という疾患があります。これは、血管が朝方などに一過性に縮んだり痙攣を起こすもので、通常の冠動脈造影ではわかりません。アセチルコリンという薬を負荷すると血管が縮むので、それで診断します。日本人や東洋人に多い疾患で、たとえステントを入れて血管を拡げても他の箇所が一過性に縮んだりします。
さらに、冠動脈は狭くない、痙攣も起きていないのに、胸の圧迫感や心電図異常がある患者さんがいます。これは、筋肉の中の小さな細い血管に異常があることがあり、微小血管狭心症と呼ばれています。こうした見えないところまで考える治療が大切です。
最後に、心房細動という不整脈で心臓の中に血栓ができて、それが脳の血管まで流れていって、脳梗塞を起こすという場合があります(図3)。長嶋監督やオシム監督が起こした病気です。ですから、心房細動のある患者さんは、血液をサラサラにする薬で脳梗塞を予防します。
(2015年4月26日 第79回日本循環器学会学術集会市民公開講座「知って得する心臓病の知識」より)
2015.8.17掲載