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だから怖い! 歯と心臓の意外な関係
東京医科歯科大学大学院循環制御内科 主任教授 磯部 光章
今から15年ほど前に「Floss or Die(デンタルフロスか死か)という言葉がアメリカでセンセーションを巻き起こしました。口腔清掃が不十分だと心筋梗塞などの致死的な疾患にかかりやすいということを端的に表した、有名なキャッチコピーです。
近年、世界各国の研究によって、歯周病がいくつかの病気に密接に関係していることが明らかになっています。
私たちもこの10年間、歯周病と循環器疾患との関連を解明すべく、循環器内科と歯周病科が共同で基礎研究・臨床研究を続けてまいりました。その結果、歯周病が単に口の中だけの病気ではなく、心臓病や血管病、あるいは糖尿病など全身に影響を与えていることがわかってきました。
まだ直接の関係を証明できた段階ではなく、関連する証拠がたくさん見つかってきたという段階ですが、歯と心臓の関連性は予防にとって大変重要ですので、これまで明らかになったことをわかり易く説明します。
動脈硬化が原因となる虚血性心疾患があります。生活習慣病の一つであり、狭心症や心筋梗塞はこれに分類されます。
今までいわれている危険(リスク)因子は図1のとおりになります。加齢・家族歴(家族が比較的若い時に心筋梗塞を起こしている)はどうしようもないことです。
肥満は体質もありますが、それでも生活習慣に気をつけて、コントロールすることができます。
その他、高血圧・高脂血症・喫煙・糖尿病(1型を除く)は生活習慣に気をつけることで、自分である程度コントロールすることができます。
生活に注意して、変えられるものを変えていきましょう。
さて、この動脈硬化に対するリスク因子の中で、最近
歯周病菌が心血管病と大きく関連している
とこの10年から15年の間にたくさんの疫学的研究よって明らかになってきました。
実際に動脈硬化を起こした血管の中のプラーク(動脈硬化の病巣)を調べてみると歯周病の細菌がいます。
血管外科で動脈瘤の手術をした時にサンプルを取ってその瘤を調べてみると歯周病菌が入っている。実際に東京医科歯科大学でも証明しています。
アメリカの権威のある雑誌で報告されたデータから、
“60歳未満で歯周病による骨の吸収、(破骨細胞といいますが、)骨が溶ける、が重症な人は、そうでない人と比べて2.48倍、心血管死(アメリカ流でいう心筋梗塞)が発症しやすい。”
と報告されています。
なぜ歯周病と心血管は関係するのか?
歯周病菌という細菌の中で、P. gingivalis (ジンジバリス菌)は、歯周病の原因菌として非常に有名な細菌であり、歯周病原性細菌と呼ばれています。
このP. gingivalis (ジンジバリス菌)は血管壁の細胞に付着し、さらに侵入する能力が高い。そういう毒素をもっている。そのため、歯周病が原因となって菌血症を起こし、血管の中に菌が入り込む頻度が高い。ない人と比べて頻度が高い。
※菌血症(きんけつしょう)とは、細菌が血液中に侵入しただけの状態を指す。健常な人では病気にならない。血液中に 侵入した細菌が増殖した場合は敗血症 と呼ぶ
歯周組織の炎症が、全身的に炎症関連物質を増加させるという説
・歯周病菌は、全身に悪さをする慢性的な炎症です。
・歯周病がある人は、健康な人も、また、すでに動脈硬化になってしまった人も、血管の状態を悪化
させ、様々な病気になりやすいことが証明されています。
・これまで、言われてきた、生活習慣に気をつけることを続けた上で、毎日の歯磨き(ブラッシング・
うがい)にさらに意識をしてみてください。
・歯科検診に6か月に1度は受診してください。
・正しい歯磨きの仕方の指導を受けてください。
これまでに言われてきた生活習慣で予防になること
2014.4.15掲載