心臓リハビリテーションの効果
2014年09月17日 心臓リハビリテーション心臓病の予防運動
心臓リハビリテーションの効果
榊原記念病院副院長 伊東春樹
心臓リハビリテーションとは、運動療法を中心とした生活習慣改善の総合的なプログラムです。心筋梗塞や狭心症、心臓手術後はもとより、大動脈解離や閉塞性動脈硬化症、さらに最近増えている慢性心不全の患者さんの生命予後や生活の質を高めることが知られています。
たとえば心筋梗塞後に心臓リハビリテーションを行うと、しなかった場合に比べて、死亡率は約20%、心臓や脳梗塞など血管系の病気で死亡する率は25%以上低下することが多くの研究により明らかにされ、「医学的常識」となっております。
最近の研究では、心筋梗塞になっても心臓リハビリテーションを行えば、6.6年間で死亡数は半減(56%減少)して心筋梗塞にならなかった場合と同じ寿命が得られ、心筋梗塞になったハンディを帳消しにできるという報告もあります。これらの効果はどんな薬にも負けません。
また、心臓リハビリテーションは以下のような効果があり、生活の質を高めるだけでは無く寿命を延ばします。
1)運動能力・体力の向上により、日常生活で症状が出にくくなる
2)筋肉量が増えて楽に動けるようになり、心臓への負担が減る
3)心臓の機能が良くなる
4)血管が広がりやすくなり、身体の血液循環がよくなる
5) 動脈硬化が進みにくくなり、既に出来ているプラークが小さくなる
6)血管が広がって高血圧が改善する
7)インスリンの効きが良くなって糖尿病が改善する
8)自律神経が安定して不整脈の予防になる
9)運動を行うと仕事や家庭生活、社会生活の満足度が高くなる
10)心臓病患者に多い精神的不安定(うつ状態)を改善する
運動療法は運動能力の低い人や高齢の患者さん、心臓の機能が衰えている人の方が、より効果が大きいこともわかっています。
さらに、何年も長く続ければ続けるほど、寿命の延長や心臓病の再発予防に有効です。
心臓リハビリテーションは明らかに心臓病の再発を減らし、再入院も減らしますので、医療費を減らすことができます。アメリカのデータでは、心筋梗塞や冠動脈バイパス術後に心臓リハビリテーションを行うと、医療費は約半分になるとされております。また、欧米諸国でも運動療法にお金をかけている国のほうが、国全体の医療費は低くなっているとの研究もあるほどです。
日本でも多くの病院が再発率を減らすための心臓リハビリテーションに力を入れ始めています。また、心臓病再発防止のみならず、糖尿病の透析への進行を防ぐ腎臓リハビリテーションの研究も行われています。
長期にリハビリテーションを継続するときに問題になるのは、5ヵ月で保険診療期間が切れることです。しかし、継続することで状態の改善が期待される場合は、1ヶ月に13単位(1単位は20分)が可能ですし、毎月医師がリハビリにより改善が期待できることや必要性を文書で出せば、5ヶ月以内と同じ保険診療(入院では3単位/日、外来では9単位/週)を続けられる場合もあります。または「選定療養」といって、診療報酬相当分を患者さんが負担することで続けることも可能です。
さらに、NPO法人ジャパンハートクラブ(http://www.npo-jhc.org/)の運営するメディックスクラブのような、全国各地の既存施設を利用して「心臓リハビリテーション指導士」が指導する運動療法コースを探すのもいいでしょう。
ジャパンハートクラブは循環器疾患の一次予防、二次予防のための運動療法(心臓リハビリテーション)を一般市民に啓発し、医療従事者や運動指導者の教育を行うことを目的に設立されました。心臓リハビリテーションには、急性期、回復期、維持期がありますが、社会復帰後の維持期のリハビリテーションを実施している医療機関は日本にはほとんどありません。そこで、ジャパンハートクラブは全国20ヶ所以上の会場でメディックスクラブという運動療法教室を展開し、運動療法の普及に努めています。運動だけでなく、その対となる食事指導も行っています。
運動療法は、頭ではその重要性はわかっていても、ひとりで継続するのはなかなか難しいものです。個人の目的に合わせた指導をしてくれる専門家や、同じ目的を持った仲間との交流により、モチベーションが向上し継続が可能となるのです。
運動療法は心臓病を発症した人の再発予防(二次予防)だけでなく、心臓病の発症予防(一次予防)にも有効です。定期的なちょうど良い強さの運動を生涯にわたって続けることで、病気の再発を防ぎ、今の状態を維持したり、よりよくすることが可能であり、健康寿命を延ばすことにつながるのです。
心臓リハビリテーションとジャパンハートクラブの位置づけ
2014.9.17掲載