心臓病や突然死と性格や行動(タイプA)が関係するって本当?
2014年07月17日 その他ストレス心臓病の予防
心臓病や突然死と性格や行動(タイプA)が関係するって本当?
東京大学名誉教授 杉本 恒明
東京医科大学内科学2教授 山科 章
東京医科大学内科学2教授 山科 章
1.突然死とはどういう意味でしょう
死ぬとは思ってもいなかった人が、外傷などの原因でなく、病気の症状が出現して24時間内に亡くなったとき、これを「突然死」といいます。東京都監察医務院の報告ではこの大半が心臓性突然死であり、中でも多いのが心臓に栄養を送る冠動脈に狭窄や閉塞を生じて病気をおこす心筋梗塞、狭心症などの虚血性心疾患によるとされています。こういった病気の基本にあるのは、動脈硬化です。動脈硬化は加齢や高血圧、高脂血症などが原因で血管が硬くなったり、もろくなったりすることで、血管内にさまざまな物質が沈着して血管内腔が狭くなったり、血管壁が破壊されて拡張して血流の淀みができたり、あるいは血管内にできたプラーク(粥腫)が剥がれて、血管が閉塞することにより、心・脳血管疾患を発症します。
2.タイプAとタイプBの性格・行動パターン
1959年、アメリカのFriedmanとRosenmanは、性格・行動パターンが攻撃的、挑戦的で、責任感の強い人ほど、こうした心・血管疾患になりやすいと考え、このような性格・行動パターンの人をタイプAと定義しました。
タイプAは「急げ急げタイプ」といえます。タフで活動的であり、せっかちで、怒りっぽく、競争心や攻撃性が強く、いつも苛立ち気味です。これと反対の性格・行動パターン、つまり内向的で、のんびりしており、目立たない性格をもつ人をタイプBと定義しています。
3.タイプAには心・血管疾患が多い
タイプAを心筋梗塞・狭心症の危険因子として最初に確認したのは、Western Collaborative Group Study研究です。この研究では、カリフォルニアの10企業、3,154名の健康男性を8.5年間、追跡し、心疾患発症頻度がタイプAではタイプBに比較して2.37倍高いことが示されました。また、米国フラミンガム地域の住民調査においては、4年、8年、さらに10年の追跡調査の結果、心筋梗塞や狭心症の発症頻度が、タイプAでは男性で1.4~1.8倍、女性では2.0~3.0倍であることがわかりました。
しかしながら、日本人においてタイプAに心筋梗塞や狭心症が多いという報告はなく、2008年に発表された多目的コホート研究(JPHC研究)の分析ではその傾向はみられませんでした。
逆に、男性では、「タイプB行動バターン」グループでは「タイプA行動パターン」グループに比べて発症リスクが1.3倍高いという結果でした。一方、女性では統計的な有意差はありませんでしたが、「タイプB行動バターン」グループでは「タイプA行動パターン」グループに比べて発症リスクは0.8倍と発症リスクが低い傾向にありました。
日本人男性で従来の報告と異なる理由として、この論文では、米国社会と比較して、協調性が強く求められる日本人社会には、せっかち、怒りっぽい、競争心、積極性、敵意性などの行動を表に見せることに否定的な風土があるため、タイプA行動パターンを持つ男性は会社の仲間などとお酒を飲みに行くことでそのようなストレスを発散している一方で、タイプB行動パターンを持つ男性はストレスを内にためこみ、虚血性心疾患リスクを上昇させている可能性があるのでは、と説明されていました。
4.タイプCもある?
タイプAとBとは心・血管疾患の危険因子として観察されたものですが、がんになりやすい性格として、タイプCといわれるものがあります。怒り、不安、絶望感、無力感といった否定的な感情を抑制する傾向をもつのがタイプCといわれています。しかし、これにはうらづけがまだありません。
5.タイプAの診断法
診断は面接や質問表を用いて行われます。診断用に、さまざまな種類の自己記入式質問表、調査表、評価尺度表などが考案されています。
ここでは、日本でよく用いられる前田の質問表(改変)を紹介します。質問の各項について、自分で評価、採点し、合計点を計算します。点数が大きいほど、タイプAの傾向が大きいといえます。17点以上がタイプAと診断されます。
該当するところに○印をつけてください。そして、合計点を出して下さい。17点以上がタイプAです。数字が大きいほど、その傾向が強いといえます。
いつも そうである |
しばしば そうである |
そんな ことはない |
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1.忙しい生活ですか | 2 | 1 | 0 |
2.毎日、時間に追われる感じがありますか | 2 | 1 | 0 |
3.仕事や何かに熱中しやすいですか | 2 | 1 | 0 |
4.熱中していると、他のことに気持ちのきりかえができにくいですか | 2 | 1 | 0 |
5.やる以上は徹底的にやらないと気がすみませんか | 4 | 2 | 0 |
6.仕事や行動に自信をもてますか | 4 | 2 | 0 |
7.緊張しやすいですか | 2 | 1 | 0 |
8.イライラしたり怒りやすい方ですか | 2 | 1 | 0 |
9.几帳面ですか | 4 | 2 | 0 |
10.勝ち気な方ですか | 2 | 1 | 0 |
11.気性が激しいですか | 2 | 1 | 0 |
12.他人と競争する気持ちを持ちやすいですか | 2 | 1 | 0 |
合計 |
エクセルダウンロード: :*:: タイプAの性格・行動パターン診断法.xlsx
6.タイプAは、なぜ心筋梗塞・狭心症の危険因子になるのでしょうか
タイプA行動は「最小限の時間で、多くのことを成し遂げようとする慢性的な葛藤下におかれていることを意味し、しばしば人との競争や環境内の圧力との闘争を強いられている状況」であるといわれています。いわば、慢性的にストレスを受けている状況であり、これにさらにストレスが加わったときには、反応は通常よりも一層、過剰となります。同じストレスであっても、受け取り方が異なるために、個人にとってのストレスは過剰に大きく、後に大きな影響を残すことになります。タイプAでは、ストレス対処行動が過大であることや、職務満足感に欠ける場合が多いことなども知られています。
また、生物化学的、あるいは生理学的な根拠も提示されています。タイプAでは、カテコラミン産生能、プロスタグランジン代謝、免疫グロブリン組成、リンパ球反応性などについて、違いがあるという報告があるのです。
7.タイプAは治療できるのでしょうか
性格は生得のものであり、変えることは難しいと思いますが、環境や行動を変えることで対処できる場合があります。一般的には、行動療法、リラクセーション、運動療法、生活指導、積極的傾聴などのカウンセリングなどが行われます。
治療効果は、60才以上の人、一般職または無職であったり、仕事を変わったり、減らすことができる立場にある人では効果があるといわれます。しかし、59才以下の人や、管理職、仕事をかわることができない人などでは修正効果が少なかったそうです。
8.タイプAはいけないことばかりではありません
タイプAの人は、向上心をもち、完璧性をめざして積極的に行動するので、管理職など、指導的立場にあるものにとっては、不可欠な要件と思われるものを含んでいます。心臓病に好ましくないからといって否定してよいだけのものではありません。しかも、もし発病したとしても、その几帳面な性格によって、見直された生活管理を継続し、維持していくことが可能なのです。服薬を正確に守ることもできますから、タイプBよりも迅速な回復が期待できるといわれています。
9.百寿者の性格・行動パターンに学ぼう
最後に、日本の百寿者の性格・行動パターンをご紹介しましょう。東京都老人総合研究所が東京都に在住する百寿者について調査したものです。百才まで健康に生きるための生活のプロフィールを14項目について示しています。14項目のうち、タイプA的な3項目(「決して遅れない」「全力を尽くす」「一生懸命やる」)が長寿によく、一方、タイプB的な5項目(「良い聞き手、終わりまで聞いている」「せかされても焦らない」「がまん強く待てる」「ひとつずつ片づける」「現状で満足(仕事、学校など)」)が長寿によいという結果でした。つまり、タイプAのすべてが矯正されなければならないわけではなく、よい面もあること、一方、タイプBにも、歓迎されない面もあるということがわかります。
参考:本間昭ほか:100才老人の精神機能に関する研究。100才老人の精神機能に関する研究成果報告書、東京都老人総合研究所、東京、1990.
2014.7.17掲載