講演4:地域における訪問栄養の実情

辻本 昌代氏(認定栄養ケア・ステーション「もぐエイル」/奈良県栄養士会理事/管理栄養士)

はじめに

私は1985年より奈良県職員として、県内の学校給食センターにて栄養士として従事してきました。2001年保健所等での勤務後はフリーとなり、県内市町村の保健センターや診療所等で乳幼児の親から高齢者までを対象に、幅広く栄養相談や講師を行っていました。そして2021年9月、いくつになっても自立した生活を送ることができるようにと、地域に住む方々のお食事応援団としての認定栄養ケア・ステーション「もぐエイル」を立ち上げました。
奈良県は南北に長い県で、その77%を森林が占めています。観光地がある北部の都市部は、大阪にも近く交通の便も発達しています。一方、森林の多い南部地域は、人口の約半数が高齢者であり、人口減少にも歯止めがかからず、過疎化と少子高齢化が進んでいます。私は、その南部地域で栄養改善事業に携わっており、山間部住民の健康管理・増進を守るためには、地域で活動する管理栄養士がさらに必要であると考えています。

認定栄養ケア・ステーションとは

認定栄養ケア・ステーションは、登録している管理栄養士とともに市町村の行政や日本栄養士会、県栄養士会と連携を持って、乳幼児から高齢者までを対象に栄養相談、特定保健指導、訪問栄養指導などを行っています(図1)。2021年現在、47都道府県で認定栄養ケア・ステーションは356拠点、そこで約5,000人の管理栄養士が活動しており、その数も年々増えています。

図1 栄養ケア・ステーションの役割(提供:辻本 昌代氏)


本日は「居宅療養管理指導」、「訪問栄養指導」、「多職種連携」の3つを軸に話を進めます。

居宅療養管理指導の活動

わが国における居宅療養管理指導の状況

居宅療養管理指導は、医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士または歯科衛生士等が、通院が困難な利用者の居宅を訪問して、心身の状況、置かれている環境等を把握し、療養上の管理および指導を行うことで療養生活の質の向上を図るものです。
ここで厚生労働省の資料を紹介します。
まず、「居宅療養管理指導の請求を行っている事業所数」(平成20~31年)です。年々増加傾向にあり、住民のニーズが高いことがよく分かります(図2)1)。続いて、その居宅療養管理指導を受けている受給者数のグラフをお示しします。要介護1~5までのそれぞれにおいて、平均して数が増加しているのが分かると思います(図3)1)
また、「居宅療養管理指導における職種別の概要」として、医師や歯科医師は医学的管理に基づいて実施し、介護支援事業者に対する必要な情報提供、介護者や家族に対する居宅サービスを利用する上での指導や助言を行うものと定められています。われわれ管理栄養士は、医師の指示に基づき栄養管理を行わなければなりません2)。よって、居宅療養管理指導の実施率を上げるためには、利用者のケアプランを作成するケアマネジャーさん、そして主治医に訪問栄養指導の重要性を分かっていただくことが必須です。

図2 居宅療養管理指導の請求事業所数(厚生労働省. 介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)各年4月審査分)1)


図3 居宅療養管理指導の受給者数(厚生労働省. 介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)各年4月審査分)1)


管理栄養士による居宅療養管理指導の実際

ここからは、現在、訪問指導を続けている心疾患の患者さんの2事例を詳しく紹介します。

事例1: 77歳/女性/夫と2人暮らし
疾患は、糖尿病、高血圧症、慢性心不全、認知症があり、要介護5です。
通院時は安定していた血糖値が腰椎圧迫骨折をしてから徐々に悪化し、訪問診療となりました。血糖値コントロールも悪化してきていることから、主治医が夫に「食べさせ過ぎではないか?」と尋ねたところ、夫は「そんなに食べさせていない」との返答。そこで、家庭での実際の食生活を見直し、心臓病予防を見据えた糖尿病に対する食事療法を指導するよう指示がありました。
(初回訪問)
夫は几帳面な方で、患者さんの血圧や体温、空腹時の血糖値のほか、食べた物もきちんと記録していました。キッチンもきれいに片付けられています。しかし、食材が冷蔵庫や棚にぎっしりと保管されていたことから、食べ過ぎによる体重の増加が心配されました。体重の増加は心臓に負担がかかるからです。保管されている食材の中に、チョコレートなどのお菓子がたくさんあるのも気になりました。
夫の糖尿病食への理解度を上げていくために昼食時に訪問し、一緒に食事作りを行いました。患者さんは、入院中は刻み食を提供されていましたが、上手に咀嚼できていたこと、食材が柔らかいと丸呑みして早食いにつながることから、夫には材料の切り方も指導しました。
(2回目訪問)
初回時と同様、夫に対して調理指導を実施。缶詰やレトルト食品等が山のようにあったため、それらを使ったメニューを一緒に調理し、指導を行いました。甘いお菓子は食べさせていない様子が伺えました。まだまだ患者さんは、柔らかい物は飲み込んでしまうので、食材の形態を大きくして少しずつ食べさせるように訓練を促しました。
(3回目訪問)
血糖値コントロールが上手に行えるようになり、指示書の通り400kcalになる献立を考えられるようになりました。甘いお菓子等も見当たらなくなりました。また、患者さんは食材の形態を大きくしても、上手によく噛んで食べられるようになりました。
(現在)
糖尿病用の食事に慣れてきましたが、主治医の指示や夫の希望で月2回の訪問を継続中です。訪問栄養指導を開始後、約半年間で、患者さんの空腹時血糖値ならびにHbA1cはそれぞれ152mg/dLが110mg/dL、8.8%が6.8%に下がりました。

事例2: 79歳/男性/ひとり暮らし
疾病は大動脈弁狭窄症(大動脈弁置換術と冠動脈バイパス手術歴あり)、糖尿病、高血圧症があります。治療状況は、30年前から高血圧、糖尿病でかかりつけ医に通院、インスリン療法も導入されています。
2016年に大動脈弁狭窄症の進行によって大学病院で開胸手術を行いました。退院後に通院を再開されましたが、血糖値コントロールが徐々に悪化しています。現在はかかりつけ医の下で治療を続けていますが、独居生活となって以来、食事療法が不安定で、間食もあり、服薬管理も悪い状態でした。軽度認知症の進行の可能性も疑われ、アルコール依存症もあることから、医師より心疾患の進行を予防するために食生活指導の指示を受けました。
(初回訪問)
生活の中心になっているこたつの上には亡くなった奥さんの写真が置かれ、それを見ながら食事をされているとのことから、寂しさに溢れている状況が伺えました。食事のほとんどがスーパーの総菜であるため、塩分・カロリー過多が予想されます。また、アルコールの量が気になりましたが、本人との信頼関係を築くことを優先させ、今回は話を聞くことだけに止めました。
また、次回、本人が食べたい物を一緒に作ろうと提案し、本人の希望によりおでんに決定。その材料をそろえてもらうことにしました。
(2回目訪問)
初回訪問時にこたつの上にあったお菓子はなくなっており、買い置きもされていません。指示した通りの材料がそろえられていました。具材を切る、剥くなどといった指示をすると、「亡くなった奥さんからも床に伏せながら指示された」と話しながら、久しぶりに手作りの物が食べられると喜んでいました。しかし、材料の一部である練り製品は塩分を多く含むため、1回の食事量をしっかりと伝えながら調理を行いました。また、アルコールが棚にあったことから、おでんをアテにしながら飲み過ぎてしまうのではないかという心配もありました。
(3回目訪問)
総菜しか買っていなかった食生活から、鰯や鮭などを焼いたり、サラダなど簡単な物を作ったりできる生活へと変化しました。「野菜食べへんと栄養士さんに怒られるから」「来てくれるのを待ってたんやで」といった言葉もありました。この日は用意していた蕪を使って薄味の煮物を一緒に作り、熱いうちは薄味でも美味しく食べられるからと、その場で薄味でも美味しく食べられることを実体験してもらいました。
(4回目訪問)
自宅内に甘いお菓子は見られなくなり、買い物も必要な物を上手に買いそろえられるようになりました。調理能力も向上しています。この日は通院日で、血糖値の検査結果をもらって帰ってきていました。2022年3月には12.3 %あったHbA1cが、2023年1月には7.9 %まで低下。主治医から安定してきていると褒められたと、結果を喜んで見せてくれました。
(現在)
訪問ヘルパーにも週1回入ってもらい、一緒に調理活動をしてもらっています。そのヘルパーに対しても、減塩やエネルギーの摂り方を指導しています。

事例のまとめ

[事例1]の患者さんは、主介護者が料理に不慣れ、かつ高齢の夫であったため、糖尿病の食事に対しての理解に時間をかけて指導を行いました。夫は、妻である患者さんに元気になってもらうため、良かれと思ってたくさんの食べ物を与えていたことが分かりました。家にあった缶詰やレトルト食品等も否定することなく対応したことで、信頼関係が築けました。
[事例2]の患者さんは、妻亡き後、認知症も進みかけていましたが、ともに行う調理活動(料理療法)により、どんどん料理を覚え、自立生活へとつながりました。血糖値コントロールも安定し、栄養士に来てもらって良かったと主治医とともに喜んでもらっています。

心不全患者さんへの栄養指導

病院の管理栄養士は、患者さんの言葉を聞きながら、医学的な数値と主治医の指示に基づいて栄養指導を行います。 一方、われわれ訪問管理栄養士は、自宅まで伺って指導します。患者さんの日常の食行動や生活環境をこの目で見て、それらを踏まえた栄養指導を行うことで、生活そのものを改善してQOLの向上につなげることができます。ややお節介な「近所のおばさん的存在」といえるかもしれません。

多職種連携について

一人ひとりの家庭の状況、調理能力、経済力などを考慮し、在宅で持続可能な食生活の改善方法を提案し、指導することができるのは、地域で生活を見てきたわれわれ専門職ではないかと考えています。地域では、介護や医療の問題だけでなく、買い物に行く交通手段や地元の付き合いなど、複合的な課題も多いので、解決の糸口となるためには各方面から見ることができる多職種との連携が必須だと考えています。

訪問栄養指導の課題と今後

今後、増え続けるであろう在宅治療者や要介護者にとって、訪問栄養指導の必要性はさらに高まることが予想されます。そのニーズに応えるためにも、管理栄養士は日々健康・栄養に対する最新情報、専門知識を習得し、住民のニーズ、地域の課題を的確に把握していくことが重要と考えます。
訪問栄養指導は医師との連携が不可欠ですが、まだまだ周知されていないのが現状です。
これからも、在宅で持続可能な食生活の改善方法を提案しつつ、家庭での状況や経済力などをしっかりと考慮した栄養指導を展開していきたいと考えています。
食事の困り事は地域の管理栄養士に!―これからも地域に根付いた活動を行っていきたいと思います。
文献
1) 厚生労働省. 介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)(各年4月審査分)

2) 厚生労働省. 第182回社会保障審議会介護給付費分科会(令和2年8月19日)「居宅療養管理指導」
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