“日々の積み重ねが、
いつしか生活習慣の
一部となるように”
心筋梗塞など心臓の病気になった後は、心身ともに不調が起こりやすくなります。このような状態から回復して、毎日を快適に過ごすためには、心臓をいたわるライフスタイルを身につけましょう。その基本として勧められているのが、「心臓リハビリテーション」です。
「心臓リハビリテーション」とは、運動療法を中心に、悪化を防ぐための食事や服薬、禁煙の指導、社会生活に復帰するためのカウンセリングなどを、長期にわたって進める包括的なプログラムのことです。大切なのは入院中だけでなく、退院後も、そして社会生活に復帰した後も、ずっと続けていくこと。主治医とよく相談しながら、ライフスタイルに上手に取り入れていきましょう。
※このWEBサイトは循環器専門医の監修を受けていますが、疾患に対する適切な対応は患者さんの状態によって異なるため、まずは医療機関で主治医へご相談ください。当サイトの情報はあくまでひとつの参考としてお読みください。
「心臓リハビリテーション」を
中心とした運動の効果
ひと昔前まで、心臓病を患った人はなるべく安静に過ごすようにと考えられていました。しかし今では、一人ひとりの状態に合わせた適切な運動療法を行うことで、次のような効果を得られることがわかっています。
※退院後の運動については医師による指導が不可欠です。自己判断での実施はやめましょう。
どうして運動が心臓によいの?
運動療法には、下記のような効果のほか、不整脈などにつながる交感神経の緊張を低下させる、動脈硬化につながる血管の炎症を改善するなどの効果も認められています※1。
- 《運動療法の効果※1》
- 運動に耐えられる能力(運動耐容能)を増す
- トレーニングによって日常の動作で起こる息切れや疲労感などの症状を軽減し、QOL(生活の質)を改善する
- 心臓の働きが低下するのを防いだり、心臓の筋肉の柔軟性を保つ
- 動脈硬化によって生じる狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を起こすリスクを減らす
- 心不全の悪化による入院を減らす
- 冠動脈疾患や心不全によって命に与える影響を改善する
- 収縮期血圧(上の血圧)が低下する
- 善玉コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす
※1 『心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改定版)』(日本循環器学会ほか)
退院後の運動療法は、始める前に
必ず主治医や医療スタッフに相談を
心筋梗塞の治療後は、まず自分で身の回りのことができるようになること、次に退院して社会復帰することを目指して、運動療法、服薬、食事、禁煙といった生活習慣の指導を受けたことと思います。このような心臓リハビリテーションは、退院後も続けることが重要です。しばらくは定期的に通院して指導を受けながら、自己管理できるようになるまで心臓リハビリテーションを続ける方も多いことでしょう。通常、心臓リハビリテーションを保険診療で受けられるのは開始後150日間ですが、心筋梗塞を繰り返さないためには、その後も自主的に継続することが大切です。地域の運動施設などで、心臓リハビリテーション指導士や健康運動指導士の指導を受けながら続けることも可能です。
どのような運動療法のメニューが適切かは、患者さんのそのときの病気の状態やライフスタイル、運動の好き嫌いなどによって異なります。自宅で運動療法を行う際には、主治医のメディカルチェックを受けて、自分に合った運動メニューを専門の指導者に作成してもらうとよいでしょう。運動による効果があらわれてくれば、必要な運動も変わってきます。定期的に運動負荷試験などを受けて、メニューを見直すことも必要です。
自分に合ったプログラムを
継続して行うことが大切
運動療法が日々の生活習慣の一部になり、自然に続けられるようになれば理想的です。モチベーションを保つためにも、無理せず楽しみながら取り組みましょう。病状によっては、ジョギングや水泳、激しいテンポのエアロビクスなどは避けたほうがよいとされることがあります。どんなスポーツをどのぐらいの強度で、どのぐらいの時間行えばよいのかは、病状や体格など個人個人で異なるため主治医や指導スタッフに相談しましょう。また、日常生活においても、通勤やレジャーなどで少しずつ身体活動量を増やし、1日合計20~60分、週5日以上を目安にできるだけ続けることなどが勧められています。
ただし、自己管理とはいえ、無理は禁物。以下は、一般的な運動開始時の注意点です。個人の状態によってその内容は変わってきます。体調に不安があるときは必ず担当医に相談しましょう。
- 体調がよいときにのみ運動する
- 「風邪をひいた」「熱っぽい」など体調不良があるときは休み、運動の再開は症状が消えて2日以上経ってからにしましょう。
- 食後すぐに激しい運動をしない
- 食後は消化のために腸管に血液が必要です。このとき激しく運動すると、消化が悪くなるために気分が悪くなったり、足がつったりすることがあります。食後2時間以上たってから運動を開始しましょう。
- 天候に合わせて運動する
- 暑いとき、寒いときには特別な注意が必要です。暑いときは運動の時間帯を早朝や夕方にしてペースを落とし、水分補給に気を配りながら真夏でなくても脱水に注意します。逆に寒いときは、十分にウォームアップをして防寒ウェアを着ましょう。発汗するので蒸れにくい透湿性の高いウェアや、冷たい空気を吸い込まないようマスクをすることをお勧めします。
- 適切な服装と靴を着用する
- ウェアは締めつけがなく、ゆったりとした快適なものを用意し、ゴム素材など蒸れるものは避けて。日差しが強いときは黒っぽいものを避け、帽子をかぶりましょう。靴はスポーツシューズがお勧めです。
- 自分の限界を把握する
- 初期治療の状況や心機能〜残存病変の有無などを把握した上でのリハビリが重要となります。また、退院後も定期的に医師の診療や検査を受け、運動が適切であるかどうか確認するようにしましょう。服薬をしている場合は、運動をするタイミングを医師や薬剤師に確認を。服薬時刻を考慮する必要のある場合があります。
- 適切な運動を選択する
- 有酸素運動を主に取り入れますが、柔軟性と運動強化も考慮しましょう。
- 自覚症状に注意する
- 運動を終えた後、1時間経っても疲労感が残ったり、運動した日の夜に眠れなかったり、寝ても疲れが取れないと感じる場合は、頑張りすぎている可能性があるので担当医に相談しましょう。さらに、運動開始時や続行中に、胸・腕・首・あごなど上半身の不快感、失神、回復に5分以上かかるほどの息切れ、腰痛、関節痛など自覚症状が起きたときは、狭心症や心筋梗塞の再燃が疑われるため、速やかに運動を中止して医療機関に連絡しましょう。
禁煙とメンタルケア
退院後の生活習慣で気をつけたいのが、タバコとストレスなどによるメンタルの不調です。タバコは少しでも吸えば心筋梗塞のリスクが高まります。本数を減らしたり、軽いタバコに替えたりしてもリスクを減らすことにはつながりません。喫煙していた人は、必ず禁煙しましょう。そして、メンタル面においても、心筋梗塞など冠動脈疾患の患者さんはうつ症状や不安感が生じやすく、また、うつ症状が悪化すると冠動脈疾患も悪化しやすいことが知られています。いずれも患者さんとご家族がともによく理解して取り組むことが大切です。
担当医に相談し、禁煙外来を利用するのも手
一人で禁煙するのが難しいときは、主治医に相談しながら取り組みましょう。禁煙専門外来の受診を勧められる場合もあります。禁煙外来では、カウンセリングやニコチン依存に効果のある禁煙補助薬を使った禁煙治療などが行われています。運動療法を続けていると、禁煙のモチベーションも高まります。運動療法と禁煙を並行して取り組むとよいでしょう。
周囲の協力を得て、受動喫煙を避ける
受動喫煙は心筋梗塞のリスクになります。副流煙は主流煙より多くの有害成分を含み、冠動脈疾患のリスクを増加させるので、受動喫煙を含めた徹底した禁煙対策が必要です。受動喫煙を防ぐためには、ご家族や職場の人など、周りの人にも気をつけてもらい、家庭や職場単位での禁煙に取り組むようにしましょう。
自分に合ったリラックス方法でストレスコントロールを
職場や家庭において、責任ある立場にあって休みにくい人や、生真面目で努力家、責任感が強い、完璧主義、頑固、こだわりが強いといったタイプの人では、仕事と休息のバランスを崩して、過労になることが心配されます。社会復帰、職場復帰に際して、「仕事を休んでしまい申し訳ない」という気持ちや、「元のように働けるのだろうか」という不安などを持たれる人も多いことでしょう。一方で、仕事や家事が生きがいや楽しみで活力になっているという人にとっては、病気のためにそれらができなくなることが、精神に影響を与える可能性があります。ストレスを上手にコントロールするためには、自分なりにリラックスできる方法を見つけておくことが大切です。
ストレスは一人で抱え込まず、家族や医療スタッフに相談を
ストレスを溜めないためには、職場や家庭など周囲の環境を整えることも重要です。趣味などでストレスを解消し、家族とのコミュニケーションを大事にしましょう。心理面や社会的な困りごとについてサポートする方法はいろいろあります。つらいときは一人で抱え込まず、医療スタッフに相談しましょう。
服薬の重要性
心筋梗塞の患者さんには退院後、病状に合わせていろいろな薬が処方されます。医師の処方どおりにきちんと服薬し、定期的に通院もしましょう。薬の飲み忘れや自己判断による中断・調整は、病気を悪化させる大きな原因となります。
心筋梗塞の患者さんに
処方される薬の例
- 高血圧の薬(心不全治療薬)
- 血圧を下げるほか、心臓の負担を減らし、心不全の発症を抑えたりします。
- 抗血小板薬
- いわゆる血液をサラサラにする薬です。出血が止まりにくいことがあります。
- 脂質異常症の薬
- 血液中の悪玉コレステロール(LDL-C)や中性脂肪(トリグリセライド)を低下させ、動脈硬化を改善します。
- 糖尿病の薬
- 糖尿病がある場合に服用します。
なお、「薬の種類が多くて飲み忘れが心配」という人は、ご家族に声かけしてもらうとよいでしょう。 ほかにも下記のような工夫で飲み忘れを防ぐことができます。
- ポケット式の「おくすりカレンダー」やピルケースなど、市販のツールを活用する
- スマートフォンのアラームに服薬の時間をセットしたり、服薬を管理するアプリを利用したりする
- 薬局で薬の一包化を依頼し、朝・昼・夕など一回に飲む薬をまとめてもらう
- 旅行に行くときは、今飲んでいる薬のほかに、保険証とお薬手帳を忘れずに持参する