“できることから、ひとつずつ”
食べることは、私たちの体をつくるための大切な営み。心臓の健康状態も日々の食生活が大きく関係しています。裏を返せば、毎日の食事の見直しと改善は、自分自身で着実にできるいちばん身近な予防策。心筋梗塞を繰り返さないための助けとなります。
※このWEBサイトは循環器専門医の監修を受けていますが、疾患に対する適切な対応は患者さんの状態によって異なるため、まずは医療機関で主治医へご相談ください。当サイトの情報はあくまでひとつの参考としてお読みください。
症状別 食事のポイント
心筋梗塞のリスク因子や持病がある人は、日々の食生活により注意深くなる必要があります。症状別に注意すべきことをご紹介します。
1日の食塩量は6g未満【高血圧】
血圧を上げる要因となる食塩(塩化ナトリウム)の摂り過ぎは禁物です。特に夜間の血圧が高い人は、夕食に食塩の多い食事を摂ると、朝まで血圧が高い状態が続くので注意が必要。1日の食塩摂取量の目安は6g未満※1を意識しましょう。一方、余分なナトリウムを排出し、血圧を調整する働きがあるカリウムを摂るのも効果的です(ただし、医師からカリウムを制限されている人以外)。カリウムは野菜、海藻類、豆類、イモ類の他、濃いめの緑茶などにも多く含まれています。
※1:特定非営利活動法人 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』
1日3食、ゆっくり食べて腹八分目 【糖尿病】
食べてはいけないものはありません。重要なのは食後血糖値を急激に上げないこと。それには1日3食の規則正しい食を基本に、「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。主菜・副菜・主食を順番に食べる「三角食べ」や、野菜などの料理を先に食べ、ごはんや麺類などの炭水化物は最後に食べるのがお勧め。おやつとしての果物は40kcal程度であればOK。また、食物繊維の多い野菜を意識的に摂ることで体への消化・吸収がゆっくりと進むので、血糖値の上昇を抑えるのに効果的です。
肉より魚。卵は1日おきに【脂質異常症】
食品から摂るコレステロール量の目標は、1日200mg未満※2。コレステロールは肉類や卵(鶏卵、魚卵)に多く含まれています。例えば、身近な食材の鶏卵M-Sサイズ1個(黄身)にはコレステロールが約200mg含まれているので、食べるときは半分量にするか、1日おきに食べるのがお勧め。また、肉類の脂身に含まれる飽和脂肪酸はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やすので注意が必要です。逆に、青魚などに多く含まれる不飽和脂肪酸はLDLコレステロールを下げる働きがあるので、「肉より魚」と覚えておきましょう。同時に、適正体重を守ることも重要です。
※2:一般社団法人 日本動脈硬化学会『コレステロール摂取量に関する声明』
BMIの適正値を目指す【肥満】
心臓に負担をかける肥満は、食事の過剰摂取や身体活動量の低下などにより、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、過剰分が内臓脂肪として蓄積されるのが原因です。1日に必要なエネルギーは標準体重※3を把握し[ 25kcal / kg×標準体重kg※3]で求めるか、現体重の3%以上の減量を目安にし、食べ過ぎないことや食事のリズムの見直しと並行して、運動を継続的に行うことが大切です。無理なダイエットはせず、栄養バランスのとれた食事を心がけ、肥満の目安となるBMI18.5〜25kg/㎡未満を目指しましょう。
※3:BMI…Body Mass Indexの略。身長と体重から算出する肥満判定のための体格指数。BMI(kg/㎡)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
調理・食事・外食のかしこい選択
減塩や制限と聞くと、ハードルが高く感じますが、実はちょっとした工夫や見直しで「適量」に近づけることができます。実践できることを一つひとつ増やしていきましょう。
- 食塩摂取は朝1g:昼2g:夜2g
- 高血圧の方を含め、食塩は1日6g未満※1が理想的。朝昼夜の目安を覚えておきましょう。 ※1:特定非営利活動法人 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』
- 主菜は肉料理より魚料理を
- 体内のコレステロールを増やしやすくする飽和脂肪酸の多い肉料理を減らし、逆にコレステロールを下げる働きがある不飽和脂肪酸の多い魚料理を増やしましょう。肉料理では、牛肉より鶏肉(ただし、皮はとる)がお勧めです。
- 抗酸化作用のある色の濃い野菜を積極的に
- 血管の内腔にある内皮にアテローム(コレステロールが蓄積した粥状の物質)をつくらないために、トマト、ニンジン、ホウレン草、ブロッコリといった抗酸化作用のある野菜の摂取が勧められます。
- 「調合油」がおすすめ
- 脂肪酸組成は、3:4:3の割合が推奨されます。どのような料理にも使えて、普段づかいしやすい価格から、家庭での調理におすすめなのが「調合油」。メーカーによっては、天ぷら油として販売しているものもあります。製造年月日が新しいものが酸化していない目安になります。必ずチェックするようにしましょう。
- あとから調味料を加えない
- 食パン1枚(6枚切り)には約1.2gの食塩が含まれています。ソーセージ、ハム、かまぼこなどの食品や、カレー、おひたし、煮物などの料理もある程度の食塩に相当する味付けがされています。これらの食品や料理に、バターを塗ったり、しょう油・ソース・ケチャップ・マスタードなどをかけたり加えたりすると、食塩の摂取量が増えます。「あとから調味をしない」という習慣づけにチャレンジしましょう。
- 調味料はかけるより「つける」
- 刺身につけるしょう油や肉料理などにつけるソースは、少量を小皿に入れて、「つける」癖をつけましょう。
- 味噌汁&スープは具沢山にして、一定量を決める
- 味噌汁やスープ類は食塩を摂りすぎてしまいがちなので、摂り方に注意が必要です。「小さな器で食べる」あるいは「同じ器で食べるようにする」ことで、一定量を越えないようにしましょう。
- アルコールは過剰飲酒を控える
- 1日あたりビール350ml、日本酒1合弱、焼酎0.5合が目安です。また、週2〜3日は休肝日を設けると過剰飲酒が避けられます。
- メニューは定食スタイルがベスト
- 単品のメニューより、主食・主菜・副菜の揃った定食メニューの方がバランスよく食べることができます。丼物は食塩が多い上、早食いになりがちなので、できるだけ避けるか、食べるときはゆっくりよく噛んで食べましょう。
- 麺類の汁は残す
- 汁物には食塩が多いので、全部飲まず、なるべく半分以上残すようにしましょう。また、メニュー選びの際はタンメンや五目麺など、野菜やたんぱく源食品が入っているメニューがお勧め。はじめに野菜、最後に麺の順にいただきます。
- 食塩・脂質の多いファストフードと揚げ物に注意
- なるべく選ばない、もしくは、食べる機会を減らすのがベスト。揚げ物は衣を取るのも効果的です。
- 寿司のしょう油はシャリではなく、ネタに少量つける
- 寿司のシャリ(酢飯)にはすでに食塩が使われています。その上しょう油が染み込みやすいので、思いのほかに食塩の摂取量が増えてしまうので注意しましょう。
食べる「時間」と「順序」
同じ食事でもいつ、何を、どのように食べるのかによって、栄養学的な効果が変わってきます。いま、注目を集める「時間栄養学」に沿った食事は、心筋梗塞のリスク因子である肥満、糖尿病、慢性腎臓病のコントロールに有効です。
「時間栄養学」とは?
私たちの体の中には時間のリズムを刻む体内時計があり、1日おおよそ24時間の概日リズムで多くのプロセスを調節しています。脳の視床下部に存在する中枢時計は、行動や血中ホルモン濃度などのリズムを制御し、肝臓や心臓などの組織では末梢時計が各組織に特有の機能を制御しています。
実は、人の体内時計の概日リズムは約25時間で動いています。しかし、実際の私たちの生活は1日24時間の環境サイクルで動いているため、体内リズムと環境サイクルの時間のずれが生じます。これを解消するために、環境因子を利用して概日時計の時刻が調節されます。調節作用は、光、食事、温度、社会的な相互作用、音、などです。朝の光を浴びることや、食事や睡眠のタイミングを決めることは重要な役割を果たしています。こうした体のあらゆる機能を調節する体内時計に基づき、適切な食事の内容、量、摂取する時間を研究するのが「時間栄養学」です。
覚えておきたいポイント
- 基本は「1日3食」
- 1日3食、規則正しく食べることは、時間栄養学の基本です。1日2食以下になると、エネルギーの消費を抑えるとともに貯蔵しようとするシステムが働きます。また、食事の摂取による体内の消化・吸収・代謝に関わる消費エネルギーである食事誘発性熱産生は意外に高く、食後に汗が出て暑いことを体感できます。1日3回の食事をほぼ決まった時間に摂ることで、体温や血圧、血糖値などを調節する末梢時計の作用を正常に保つことができます。
- 「朝食」で体内時計をリセット
- 人の体内時計の概日リズムは約25時間で動いているため、本来ならば1日1時間ずれていきます。それをリセットしているのが、朝の光と朝食です。朝食を抜くとリセットすることができず、中枢時計による行動や血中ホルモン濃度などのリズムと、末梢時計による肝臓や心臓などの各組織でのリズムがずれ、肥満、糖尿病、慢性腎臓病などのコントロールに悪影響となります。また、朝食を抜くことで空腹が長時間となり、昼食・夕食の摂取後のインスリン分泌の応答に影響し、肥満に至ります。
- 夜の高カロリー食は避ける
- 夜遅い時刻の高エネルギー食はなるべく避けます。体内時計を狂わせる原因となり、摂取したエネルギーが十分に消費されにくく、脂肪として蓄積されやすくなるためです。夕食は就寝2~3時間までに軽めに摂りましょう。夕食が遅くなりがちな人は、夕方の早い時刻に軽食を摂ることで末梢時計のリズムが狂うのを防ぎ、血糖値の急激な上昇を防ぎます。
- まずは野菜からゆっくり食べる
- 食べる順番も大切。ごはんやパンなどの主食より、野菜やたんぱく源食品の入った料理を先に食べると、血糖値の急激な上昇やインスリンの分泌が抑えられ、血糖が脂肪に変わりにくくなり、肥満を防ぐことができます。また、よく噛んで、ゆっくり食べるようにしましょう。そのためにも、主食・主菜・副菜の揃った食事バランスを心がけましょう。こうした食事が栄養のバランスを整いやすくします。 参考文献:『時間栄養学―時計遺伝子と食事のリズム』(2009年 女子栄養大学出版部)
食品と薬の相互作用を知ろう
心筋梗塞を患った人の中には、降圧剤を服用している人が多くいます。降圧剤には「カルシウム拮抗薬」という末梢血管を広げる作用の薬がありますが、これはグレープフルーツと一緒に摂るのは禁物。グレープフルーツのフラノクマリンという物質は、薬剤の血中濃度を高めるため効き過ぎてしまいます。また、血栓の形成を防ぐ薬「ワルファリン」と納豆の組み合わせも要注意。納豆に多く含まれるビタミンKはワルファリンの働きを弱めてしまいます。ビタミンKは青汁やクロレラにも多く含まれているので注意が必要です。