日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 不整脈に関するQ >心房細動の抗凝固療法の適応を決めるときCHADS2やCHA2DS2-VAScというスコアを耳にします。このスコアの使い方は?
不整脈 Question 5
□心房細動を有する患者さんには心原性脳塞栓症が多く発生することがわかっています。
□これまで心房細動治療の目標は洞調律を維持することでしたが、2000年代に欧米から相次いで報告された大規模臨床試験(PIAF, AFFIRM, RACE, STAF)は、抗不整脈薬による洞調律維持(リズムコントロール)が心拍数調節(レートコントロール)に勝るものではないことを示しました。そして、それらの大規模臨床試験からわかったことは、心房細動治療において最も大事なことは、脳塞栓症の合併をいかに減らすかということでした。
□一口に心房細動といっても、患者さんには様々な背景因子があり、その背景によって塞栓症のリスクが異なります。まず、リウマチ性僧帽弁疾患・僧帽弁狭窄症・人工弁(機械弁および生体弁)置換術後の弁膜症性心房細動とそれらを有さない非弁膜症性心房細動では塞栓症のリスクが異なります。
□さらに非弁膜症性心房細動においても、心不全(Congestive heart failure)、高血圧(Hypertension)、年齢(Age)≧75、糖尿病(Diabetes mellitus)、以前の脳梗塞/一過性脳虚血発作(Stroke/TIA)といった因子は脳梗塞の発生率を上昇させる因子であり、それらが累積するとさらに脳梗塞が起こりやすいことが知られています。特に脳梗塞/一過性脳虚血発作を一度きたした患者さんでは他の因子の脳梗塞年間発症率が5-8%/年であるのに対して、12%/年とより高いことが分かっています。
□そのため前4つの因子を有した場合は各1点を、脳梗塞/一過性脳虚血発作をきたした場合は2点と合算して、各々の頭文字をとってCHADS2スコアとされました(表1)。このCHADS2スコアは脳梗塞の年間発症率とよく相関するため簡便で有用な指標として、非弁膜症性心房細動における脳梗塞のリスク評価として用いられています。
表1 CHADS2スコア(文献1より改変)
□CHADS2スコアは簡便であることから、脳梗塞のリスク評価として専門外の医師でも非弁膜症性心房細動における抗凝固療法の適応を考慮する上で非常に有用です。しかしながら、非弁膜症性心房細動の大半はCHADS2スコア1点以下の患者さんであり、リスクとしては低いものの絶対数が多いため脳梗塞をきたす患者数としてはかなりの割合を占めています。そのため、こうした患者さんの脳梗塞を予防することが重要です。
□CHADS2スコアで用いられる危険因子以外にも、心筋症、年齢(65-74歳)、心筋梗塞の既往、大動脈プラーク、血管疾患、性別(女性)等が報告されていることから、CHADS2スコアだけでは脳梗塞のリスクを評価できない年齢(65-74歳)、心筋梗塞の既往などの血管疾患合併例、女性(器質的心疾患を有さない65歳未満の女性は計算されない)をそれぞれ1点とし、75歳以上の年齢ではリスクがさらに高まることを考慮して2点として計算されるCHA2DS2-VAScスコアが提唱されました(表2)。
表2 CHA2DS2-VAScスコア(文献2より改変)
□CHA2DS2-VAScスコアによって評価することでCHADS2スコアにおける低リスク患者の中で脳梗塞リスクを有する患者をひろいあげることが可能となると考えられます。しかし、非弁膜性心房細動がcommon diseaseであることを考慮すると、不整脈専門外の医師が抗凝固療法に携わることが必須であり、複雑な指標は実際には使用困難です。したがって、より簡便なCHADS2スコアを用いながら、CHA2DS2-VAScスコアを補完的に使用することが実地診療では現実的と思われます。
参考文献
1) Gage BF, Waterman AD, Shannon W, et al. Validation of clinical classification schemes for predicting stroke: results from the National Registry of Atrial Fibrillation. JAMA 2001; 285: 2864-2870
2) Camm AJ, Kirchhof P, Lip GY, et al. European Heart Rhythm Association; European Association for Cardio-Thoracic Surgery. Cuidelines for the management of atrial fibrillation: the Task Force for the Management of Atrial Fibrillation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2010; 31: 2369-2429
回答:吉賀 康裕
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