日本心臓財団刊行物

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耳寄りな心臓の話(第36話)『ドーピングによる心臓病』

『ドーピングによる心臓病 

 

川田志明(慶應義塾大学名誉教授、山中湖クリニック理事長)

  

 

  オリンピックなど大きな競技大会が近くなると、ドーピングが話題となります。心臓に活を与え、止まった心臓を動かす起死回生の妙薬はカテコールアミンと呼ばれ、実際の治療ではドーパミンやドブタミンの薬剤名で用いられています。ところが、スポーツの世界でも瞬発力や持久力を増強させ記録更新を目指すあまりに、密かに禁止薬剤を用いる選手がいますが、これがドーピング(doping)です。もともと南アフリカ原住民が儀式に用いた興奮性を高める酒(dop)から来ているといいますが、他にも筋肉増強を目指して悪用される蛋白同化ホルモン剤があり、副作用の心臓病による急死が大問題になっています。このドーピング規制も年ごとに厳しくなっていますが、法の網をくぐり抜けようと実に多くの新顔の使用禁止薬剤が登場しているのです。


ウォーミングアップ概略36図1.jpg
 いずれのスポーツでも本番前のウォーミングアップが重要ですが、とくに10秒前後で走り抜く百メートル走では準備運動の善し悪しが記録に大きく影響します。ゴール直後の心拍数はなんと毎分240回に増加し、分時心拍出量も20Lと安静時の4倍にも達するといいますから驚きです。このような短距離競走ではスタート前に、かなりなところまで心拍数や拍出量を上げておかないと、勝負にならないことが分ります。そこで、スタート前に小走りしたりデングリ返りするなど各選手が思い思いのウォーミングアップを行っているのを目にします(図1)。
 一方、重量級の大相撲の土俵では、それぞれ手を高く揚げて四股を踏み、向き合って蹲踞(そんきょ)の姿勢をとり、互いに睨み合いながらの仕切りを数回繰り返します。ウォーミングアップの出来上がった力士の体が徐々に紅潮して行くのを目の当たりできるのが砂かぶりからの観戦の醍醐味といわれましたが、最近では高品位テレビカメラの登場で家庭にあっても、鮮明なTV画像から肌の変化を楽しめ、張り詰めた臨場感も体験できるようになりました。
 
幕内の立会い時間
36図2.jpg ところが、あの仕切り時間が長すぎて間だるっこく、深夜のダイジェスト版でまとめて観戦するのだという横着な人もいます。たまたま、行きつけのカウンター・バーでスポーツ記者の方と隣り合わせとなり、弾みで大相撲での仕切りの大切さを説いたことがありました(図2)。
 実は相撲のウォーミングアップに相当する仕切りから立ち上がるまでの時間は時代とともに短縮しているのです。昔は双方の力士の息が合うまで待って取り組んでいたようですが、1928(昭和3)年のラジオ中継開始から放送時間内に取り組みを納めるために、幕内10分以内という制限が設けられ、さらにTV中継開始とともに幕内4分という短い制限が設けられ現在に至っているのです。
 一瞬のぶつかり合いで勝負の決まることも度々で、あの巨体では脈拍を増やし血圧を上げて闘志をむき出しにする準備といっても大変です。土俵上でデングリ返しを行うわけにもいかず、自らの体を勢いよく叩くか、せいぜい相手をにらみ付けるかしながら4分間で数回の蹲踞の姿勢を繰り返すしかないのです(図3)。36図3.jpg

馬草バケツに茶殻
 未だドーピングなどの言葉のなかった頃ですが、競技で興奮剤の話を耳にしたのは競馬についてが最初でした。なんでも、いつもは業績不振の競走馬が突然一着となって大穴が出そうになったのですが、馬の尿から興奮作用のあるカフェインが検出されて大問題となりました。厩務員(きゅうむいん)が不用意にバケツに茶殻を捨てたところ、馬が馬草代わりに食べて出走した結果だったことがわかりました。
 このため競馬の世界では早くから、1~3着の競走馬はレース後に尿検査が義務付けられるようになりました。その後は他のスポーツ界でも意図的に薬剤を用いるドーピング禍が広がっていったのです。36図4.jpg


 近代オリンピックの創始者とされるフランスのクーベルタン男爵が提唱したオリンピック精神の「Citius, Altius, Fortius.(より速く、より高く、より強く)」をモットーに記録を競うのは清々しいのですが、記録更新を目指すあまりに若人の間にドーピングが浸透していったことになります。ついに1968年のグルノーブルでの冬季オリンピックから、出場選手全員に薬物検査が実施されるようになりました(図4)。36図5.jpg
 







同化ホルモンによる心臓病
 そのような中で、今度は短期間での筋力増強を目指した蛋白同化ステロイドが乱用されはじめました。ステロイドといってもプレドニンなどの副腎皮質ホルモンではなく、胃腸病などの手術後で長期間口からの摂取ができない場合などに筋肉を落とさないように用いられる薬でした。
 若人が筋力増強を目指して密かに連用した結果、重篤な副作用である心臓病にかかり、実際の競技中やオフシーズンになって命を落とす例が出てきたのです。取締も強化されましたが、検出法をすり抜けようとデザインされたステロイドホルモンの新薬が次々と登場しているのです。このステロイドの連用で、高血圧、悪玉コレステロールの増加、善玉コレステロールの低下が起こって心臓血管系の病気を誘発し、とくに有酸素運動を行うと顕著な心肥大を起こす危険性が増し、若人の心臓をボロボロにしてしまうことが分りました(図5)。
 蛋白同化ホルモンによる心臓への副作用は重篤で、有名ランナーや自転車競技あるいは重量挙げの選手たちが心筋障害で急死したのです。アメリカでは2000年代に入って野球のメジャー・リーガーや映画界での筋肉スター、それにプロレスラーなどにもステロイド常用によると思われる夭折が相次ぎました。
 ブッシュ・ジュニア政権のアメリカ議会でも取り上げられ、巨費を投じて蛋白同化ステロイドの危険性を啓発する教育プログラムが発表されました。わが国でも「世界の民族スポーツにもドーピング検査を実施すべき」との意見もでて、大相撲史上初の尿検査が実施されましたが、蛋白同化ステロイドならぬ大麻が検出されて大きなニュースになってしまいました。幕内の立会い時間
 ところが、あの仕切り時間が長すぎて間だるっこく、深夜のダイジェスト版でまとめて観戦するのだという横着な人もいます。たまたま、行きつけのカウンター・バーでスポーツ記者の方と隣り合わせとなり、弾みで大相撲での仕切りの大切さを説いたことがありました(図2)。
 実は相撲のウォーミングアップに相当する仕切りから立ち上がるまでの時間は時代とともに短縮しているのです。昔は双方の力士の息が合うまで待って取り組んでいたようですが、1928(昭和3)年のラジオ中継開始から放送時間内に取り組みを納めるために、幕内10分以内という制限が設けられ、さらにTV中継開始とともに幕内4分という短い制限が設けられ現在に至っているのです。
 一瞬のぶつかり合いで勝負の決まることも度々で、あの巨体では脈拍を増やし血圧を上げて闘志をむき出しにする準備といっても大変です。土俵上でデングリ返しを行うわけにもいかず、自らの体を勢いよく叩くか、せいぜい相手をにらみ付けるかしながら4分間で数回の蹲踞の姿勢を繰り返すしかないのです(図3)。
 幕内の立会い時間
 ところが、あの仕切り時間が長すぎて間だるっこく、深夜のダイジェスト版でまとめて観戦するのだという横着な人もいます。たまたま、行きつけのカウンター・バーでスポーツ記者の方と隣り合わせとなり、弾みで大相撲での仕切りの大切さを説いたことがありました(図2)。
 実は相撲のウォーミングアップに相当する仕切りから立ち上がるまでの時間は時代とともに短縮しているのです。昔は双方の力士の息が合うまで待って取り組んでいたようですが、1928(昭和3)年のラジオ中継開始から放送時間内に取り組みを納めるために、幕内10分以内という制限が設けられ、さらにTV中継開始とともに幕内4分という短い制限が設けられ現在に至っているのです。
 一瞬のぶつかり合いで勝負の決まることも度々で、あの巨体では脈拍を増やし血圧を上げて闘志をむき出しにする準備といっても大変です。土俵上でデングリ返しを行うわけにもいかず、自らの体を勢いよく叩くか、せいぜい相手をにらみ付けるかしながら4分間で数回の蹲踞の姿勢を繰り返すしかないのです(図3)。
 幕内の立会い時間
 ところが、あの仕切り時間が長すぎて間だるっこく、深夜のダイジェスト版でまとめて観戦するのだという横着な人もいます。たまたま、行きつけのカウンター・バーでスポーツ記者の方と隣り合わせとなり、弾みで大相撲での仕切りの大切さを説いたことがありました(図2)。
 実は相撲のウォーミングアップに相当する仕切りから立ち上がるまでの時間は時代とともに短縮しているのです。昔は双方の力士の息が合うまで待って取り組んでいたようですが、1928(昭和3)年のラジオ中継開始から放送時間内に取り組みを納めるために、幕内10分以内という制限が設けられ、さらにTV中継開始とともに幕内4分という短い制限が設けられ現在に至っているのです。
 一瞬のぶつかり合いで勝負の決まることも度々で、あの巨体では脈拍を増やし血圧を上げて闘志をむき出しにする準備といっても大変です。土俵上でデングリ返しを行うわけにもいかず、自らの体を勢いよく叩くか、せいぜい相手をにらみ付けるかしながら4分間で数回の蹲踞の姿勢を繰り返すしかないのです(図3)。
  
 

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