日本心臓財団刊行物

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耳寄りな心臓の話(第15話)『謎の光・X線の発見』

『謎の光・?線の発見』
-W・C・レントゲン1895年-

川田志明(慶応義塾大学名誉教授、山中湖クリニック理事長) 15-01.jpg

ドイツに生まれスイスのチューリッヒ工科大学の機械工学科を卒業したウイルヘルム・コンラッド・レントゲンは、実験物理学の研究に励み、母国のギーセン大学物理学教授に任ぜられ、さらにはブュルツブルク大学物理学研究所所長に招聘されました。主に陰極線の研究に携わっていましたが、1895年11月8日、紙や木片を通過する未知の放射線である?線を発見しました(図1)。

 

 

指環をつけた夫人の右手
 厚さ1000ページの本をほぼ完全に透過し、鉛ガラスなどでは15-02.jpgある程度遮られ、写真乾板を用いると鮮明な撮影が可能であることもわかりました。?線写真の始まりですが、「手にX線を当てると手の骨はくっきり写り、周囲の軟部組織が薄く写る」とレントゲン自身が述べています。発見当時撮影した記念すべきX線写真として、指環をした妻アンナの右手のレントゲン写真が遺されています(図2)。

 同僚の提案で新しい光をレントゲン線と呼ぶことに決まり、身体を傷つけないで体の内部を見た
いという人類永遠の夢が実現したわけです。しかし、発見当時は「女性の下着が透けて見える」と
一大センセーションを巻き起こした話も残されています。

 

 現在では被爆の問題があり、このような撮影はしませんが、30分ほどかけて1回のレントゲン曝射で撮った女性の体全体の写真も発表されました。首飾り、ネックレスのほかブーツの踵の釘までもが鮮明に写っています。また、ヒトデのX線写真では、口を中心として歩溝が5本の腕に走り、その
中に2列の管足が列生しているのが認められます。
 世界からの多くの学者の前で公開実験を行ない、ベルリンに出てドイツ皇帝の前でも実験を供
覧しました。謎の光、X線発見のニュースは世界を駆け巡り、各国の新聞の第一面を飾りました。翌
1896年の1年間で、X線だけをあつかった論文が1000編以上、単行本が50冊以上も出版され
たといいます。 

 

第1回ノーベル賞の受賞
 特許権買い入れの申し出にも、「私の発見は全人類のものであり、個人として利益は独占しない」として特許は取りませんでした。1901年には創設されたばかりのノーベル物理学賞に選ばれましたが、賞金の全額をビュルツブルク大学に寄付したことも知られています。退職後は夫人に先立たれ第1次世界大戦後の破壊的なインフレーションの中で孤独な貧困生活を続けながら1923年に78歳で老衰のために生涯を閉じましたが、多くの学者が「病める者に尽くした業績は永遠に消えることはない」と偉大なる物理学者の死を惜しみました。

 

 医療分野でのX線の有用なことは明らかで、レントゲンという物理学者の研究によって医師は史上初めて体内を覗くかのごとき手段を手に入れたのです。骨折の診断にすぐに用いられ、心臓の大きさや形の診断にも応用されはじめました。まもなくX線を透さない造影剤も開発され、血管や胃腸の内部構造が一段とはっきりと見えるようになりました。現在では、骨折や歯科診断をはじめ胸部X線、腹部X線、造影X線写真などに用いられています。医学上の発見はもちろん、他の領域の発見を考えても、これほど急速に応用の広がった発見はみられません。

 

コンピュータX線の登場
 その後も、X線に関する化学や物理学の分野で多くの研究者がノーベル賞を受賞し、医学の分野でもX線照射による遺伝子変異でマラー(1946)、心臓カテーテル法でフォルスマンら(1946)、CTの開発でコーマックら(1979)、X線によるDNA構造研究でウイルキンズ(1962)らが生理
学・医学賞を受賞しています。


 X線を用いた画像診断ではその後、X線の映画であるシネX線が生まれ、X線の治療への応用もはじまり、1973年には多方向からX線を投射しその透過データから人体の横断面を再構成するコンピュータ断層撮影法、いわゆるCTが開発され、理論を導いた米国のコーマックと臨床応用した英国のハンスフィールドに1979年度ノーベル医学賞が授与されました。

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 1995年はレントゲンのX線発見から百周年ということで世界で記念行事や記念出版が相次ぎ、11月8日は「レントゲンの日」と命名されました。2004年、X線の発見からおよそ100年後にドイツの重イオン研究所で発見された111番元素は、彼の名前に因んでレントゲニウム(Roentogenium)という名称がつけられました。

 

 CTの成功に刺激されて、他の波や線を使用するCTが次々と登場し、とくに核医学の分野では先
ず単光子放出CT(スぺクト)が、ついで陽電子放出CT(ペット)が実用化されました。X線CTが主として形態学的情報を与えるのに対し、ガンマー線CTでは機能・代謝など生理学的情報も得ることができるようになりました。


 さらに放射線とは異なる核磁気共鳴を利用したMRI−CTが登場して、放射線障害はなく生理学的情報の外に生化学的情報をも得ることができるなどの優れものとして、最新診断機器として急速に普及しています(図4)。

 
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