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心腎関連 Question 4

慢性腎機能障害と循環器疾患の関連を教えてください

腎臓には心拍出量の20~25%の血液が流れ、約100万個のネフロンを還流します。臓器重量当たりの血流は、他の主要臓器の数倍といわれます。腎臓は電解質バランス、タンパク合成と異化、血圧調節の中心的役割を果たしています。心臓と腎臓は、交感神経系、レニンアンギオテンシンアルドステロン系、抗利尿ホルモン、エンドセリン、そして利尿ペプチドなど多くの経路でつながっており、心臓と腎臓の機能は相互に依存しています。

慢性腎疾患(CKD)は、性別、年齢、血清クレアチニン値で計算される推算糸球体濾過量(eGFR) (mL/min/1.73mm2)が60未満または腎障害の存在があることと定義されます。eGFRが60未満では、造影剤による急性腎障害、経皮的冠動脈インターベンションにおけるステント再狭窄、再発する急性心筋梗塞、拡張性及び収縮性心不全、不整脈、心血管性死亡が増加します。

ミクロアルブミン尿はCKDの存在を示し、メタボリック症候群、糖尿病や高血圧などの糸球体毛細血管の内皮機能障害より二次的に発生します。ミクロアルブミン尿の定義は随時尿で、アルブミン/クレアチニン比が30-300mg/gであり、eGFRとアルブミン/クレアチニン比は、将来におこる急性腎障害、CKD、心血管疾患(CVD)、非致死性心血管事故、そして死亡に対する独立した予測因子になりうると報告されています。

慢性腎機能障害と動脈石灰化の関連も強く、eGFRが60未満になるとリン酸除去能が低下することで高リン酸血症、さらに相対的低カルシウム血症が生じます。そして副甲状腺ホルモンが放出され、骨からカルシウムとリン酸が放出することで、特に末期腎不全(ESRD)症例では動脈石灰化が進行します。その程度は年齢、透析期間、そして高脂血症に依存するとされます。

腎臓は血圧を調節し、糸球体内圧を自己調節でコントロールしています。糸球体が障害されると収縮期血圧を上昇させるいくつかの経路が働きます。CKDとCVDが合併した場合に、血圧を130/80mmHg未満にコンロトールすべきとされています。薬物治療はレニンアンギオテンシンアルドステロン系拮抗薬にサイアザイド系利尿薬が加えられることが多く、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を単独で使用すると輸入細動脈を相対的に拡張させるため糸球体内圧が上昇、糸球体障害を悪化させるので注意が必要です。

CKD症例では無痛性虚血、重篤な不整脈、心不全の合併頻度が高いとされています。安定した外来CKD症例でトロポニンIとトロポニンTが正常例の99%百分位数以上の値を示す割合はそれぞれ38%、68%でした。トロポニンの上昇は左室心筋重量と腎障害の程度を示すとされます。トロポニンIの値によりESRD症例の死亡率を予知できるとの報告もあり、またトロポニンTの慢性的上昇は、安定症例における予後予測に有用です。CKDやESRD症例における急性心筋梗塞の診断に、トロポニンIとTが正常例の99%百分位数以上の値を示すことは有用です。

CKDに合併する骨格筋症ではCPKやミオグロビンなどが上昇するのでこれらを急性心筋梗塞の診断に使用するのは望ましくありません。疫学データよりCKDはST上昇型心筋梗塞の30.5%、非ST上昇型心筋梗塞の42.9%を占めるとされ、CKDのeGFRは急性冠症候群発症後30日、1年後の致命率と関連があるとされます。また来院時にeGFRが低下していると、急性腎障害、出血、心不全、心筋梗塞の再発、再入院そして急性冠症候群に関連する脳卒中の危険度が上がるとされます。大規模慢性集団の検討で、ESRD症例は、急性心筋梗塞後でもっとも高い致命率を持つ群とされています。

急性冠症候群後の心血管事象に関して腎機能障害症例の予後が悪い理由としてCKDとESRD症例は特に糖尿病や左室機能障害など多くの合併症があることなどが挙げられます。
またCKD、ESRD症例では冠動脈血栓症事故と薬物による出血リスクが同時に上昇します。

腎機能が悪化すると、僧帽弁輪石灰化や大動脈弁硬化が悪化します。ESRD症例の80%では大動脈硬化による雑音が聞かれます。ESRD症例で、透析時に細菌性心内膜炎が高率に発生し、その際の脳梗塞のリスクは40%、致命率は50%に及ぶとされ、透析継続が困難となります。治療としての弁置換術は非常に高い死亡率を示し、生体弁、機械弁での死亡率は類似していますが、生体弁では慢性抗凝固療法の副作用や透析での血管アクセスによる出血のリスクが低い傾向にあります。

腎機能障害に関連する尿毒症、高カリウム血症、アシドーシス、カルシウムリン酸バランス障害などが心房、心室性不整脈の発生と関連があります。CKDで左室肥大、左室拡大、心不全、そして弁疾患が併存すると、徐脈性不整脈、房室ブロックを含む全ての不整脈が高率に発生します。慢性腎機能障害では多くの抗不整脈薬に対して容量調節が必要となります。ESRD症例では、二次予防としての埋め込み型除細動の植え込みの有用性が観察研究より示されています。


参考文献
McCullough PA. Chapter 88 Interface between renal disease and cardiovascular illness P1909-1930.Braunwald's Heart Disease. Tenth Edition. A Text Book of Cardiovascular Medicine Volume 2 Elsevier 2014. Edited by Mann DL, Zipes DP, Libby P, Bonow RO.

 

(2014年10月公開)

Only One Message

慢性腎機能障害と動脈硬化、高血圧、心不全、急性冠症候群、弁膜症、不整脈はすべて密接な関連があり、循環器医は心臓と同様に腎臓機能に留意すべきである。

回答:船橋 伸禎

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