日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 心腎関連に関するQ >CRA症候群とはどのような概念ですか
心腎関連 Question 2
■心・腎・貧血の悪循環■
□Cardio-renal anemia (CRA) syndromeという概念がSilverbergら[Silverberg, 2003 #357]によって提唱され、心不全・腎不全・貧血がお互いに影響しあって悪循環を形成するとことが明らかになってきました。慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)が心血管病(Cardiovascular Disease : CVD)のリスクファクターであり、また反対にCVDがCKDのリスクとなることが実臨床の現場から明らかにされてきましたが、貧血も加えたCRA syndromeはそれを媒介する要因のうち最重要のものの一つである可能性も考えられています。
□この三者間の悪循環は、活性酸素種過剰産生や体液調節障害を介して血管内皮障害が惹起され、さらに動脈硬化の進行、細胞外液貯留による心血管・腎への負荷増強等が主な機序であると考えられています。CVD、CKD、貧血という三つの病態のうちで、最も容易に介入できるのは貧血であることから、最近は貧血管理の重要性に関する議論が盛んになってきています。図の矢印に従って、それぞれの構成要素間の関連を見てみます(図)。
図 CRA syndrome
■a) CKD⇔貧血■
□まず最初に、一番直感的に納得がいくCKDと貧血の間の関連性について考察します。腎機能低下により腎性貧血が惹起されるのは、ある意味自明の事柄です。日本人では糸球体濾過量(GFR)が40~50 ml/min/1.73 m2 以下になると著明に貧血が増悪するとの報告もあります。このシリーズの腎性貧血の項もご覧下さい。
□逆に貧血になるとCKDは増悪するのでしょうか。井関らの疫学調査では、男性 Hct<40%、女性Hct<35%だと末期腎不全のリスクが有意に高いと報告されています(Iseki K et al. Nephrol Dial Transplant 2003; 18: 899)。栗山らは、保存期 CKD 患者で貧血未治療群、貧血治療群、治療不要な非貧血群の3群に分けて経過観察を行い、ESAで貧血治療を行った群の腎予後が他の2群よりも有意に良好だったことを報告しています(Kuriyama S et al. Nephron 1997; 77: 176)。
■b) CVD⇔貧血■
□次にCVDと貧血の間の関連はどうでしょうか。臨床医ならば誰でも経験があるでしょうが、うっ血性心不全の患者には高率に貧血が合併します。また逆に貧血によって心機能が低下することもよく経験されます。最初にCVD→貧血の方を考えてみます。もちろん循環血漿量の増加にともなう希釈性の機序が考えられますが、それ以外にも炎症性サイトカインの上昇等(Silverberg DS et al. Eur J Heart Fail 2002; 4: 681)も指摘されています。次に貧血→CVDです。Hbが7 g/dl 以下において、貧血の程度と心拍出量の間には負の相関があることが知られています。また貧血は心不全の独立した増悪因子であって貧血を補正することで心機能の改善と共に生命予後改善作用も報告されています(Vlagopoulos PT et al. J Am Soc Nephrol 2005; 16: 3403).
■c) CVD⇔CKD■
□最後にメインフレームであるCVDとCKDの関連について考察してみたいと思います。前述のようにこれを繋ぐのがCRA症候群そのものということもできるので、まさに一種の循環論法のようになる点をご容赦ください。2003年にCirculation誌に慢性腎臓病それ自体が循環器病による予後を悪化させることが報告されてから(Sarnak MJ et al. Circulation. 2003; 108:2154)、CKDがCVDの独立したリスクであることが強く認識されるようになりました。実はそれ以前にもRENAAL、UKPDS等の臨床研究でも蛋白尿レベルが CVD 発症リスクと相関し、CKD の重症化にともない CVDによる死亡率が有意に増加することも示されていました(Barry M et al. N Engl J Med 2001; 345:861, UK prospective Diabetes study(UKPDS)group. Lancet 1998; 352: 837)。蛋白尿、アルブミン尿が心血管系疾患のサロゲートマーカーとして使われる理由はそこにあるわけです。
□一方、心筋梗塞、脳卒中、大動脈瘤といったCVDの患者では、糸球体硬化や尿細管萎縮が高頻度に合併し、また腎動脈狭窄の合併も稀ではありません。その結果、腎機能、尿蛋白が増悪することは明らかです。また貧血以外にも加齢、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などはCVDとCKDの共通した増悪因子であり、心・腎両方を蝕む可能性があります。またCKD-MBDが惹起されると血管石灰化が進展し、動脈硬化が悪化することがあることはよく知られています。
(2014年10月公開)
回答:長田 太助
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