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弁膜症 Question 4

大動脈弁狭窄症で激しい運動を避けるのはなぜですか

この問題を理解するためには、大動脈弁狭窄症(aortic stenosis, AS)の症状の発生機序を理解すれば良いです。話をわかりやすくするため、これから説明する前提を「他の弁膜症も冠動脈狭窄も心奇形も伴わない」単独の大動脈弁狭窄とします。

■ASの症状

古典的な教科書に書かれたASの症状は心不全、失神、狭心痛ですが、いずれも高度なASに現れます。心エコーの普及に伴い、ASが比較的軽症段階で診断されるようになり、経過観察していくと次の症状が最も多いことがわかってきました:1)労作性息切れ、運動耐容能低下、2)労作時めまい、3)労作時狭心痛(或は胸痛)。いずれの症状も「労作時」に出るのが特徴です。

■症状の出現機序

1)労作性息切れと運動耐容能低下: ASになると、長期にわたり左室に圧負荷がかかります。その結果、左室が求心性肥大(左室内腔は不変か小さくなり、壁は厚くなる現象)になります。肥厚した左室壁には線維組織の増生や心筋細胞の肥大などが生じるため、心筋が硬くなり左室の拡張機能が障害されます。拡張機能障害が進行すれば左房圧と肺静脈圧も上昇しますので、労作時息切れの直接原因となります(心不全のうちの拡張不全)。もう一つの問題は、左室の出口狭窄によって、運動量に見合うだけの心拍出量増加が得られないことです。その結果、全身の筋肉は十分な酸素が貰えず、運動耐容能が低下します。

2)めまいと失神: 運動時に全身の血管が拡張しているのに、ASでは心拍出量が増大できないため血圧が下がります。また、ASでは血圧低下に対して圧受容体が正常に作動できないことや、一過性の徐脈の発生、あるいは心房細動の合併がいずれも血圧低下を招きます。その結果、低血圧によるめまいと失神が起きます。

3)狭心痛(胸痛): ASの狭心痛と冠動脈狭窄による狭心痛の区別はできません。実際重症ASの約2/3の症例に狭心痛を認め、そのうちの半分くらいの症例は冠動脈狭窄を合併していると言われています(加齢による大動脈弁狭窄症と冠動脈狭窄は共通の危険因子を有します)。

冠動脈狭窄がなくても、ASでは駆出時間が延長し、かつ心肥大で心筋弛緩が悪くなったため、心筋内冠動脈が圧迫される時間が長くなります。一方拡張期が短くなり、心筋灌流の主役である拡張期冠血流が減少します(心拍数上昇も拡張期を短くします)。

心肥大における冠動脈血流予備能低下も一因と考えられています。肥大した心筋は安静時でも酸素需要量が増加し、運動で心筋酸素需要量がさらに増えたのに、上記の諸原因で冠血流は増えないか、逆に減るため、心筋虚血による狭心痛が出現します。


以上をまとめますと、中等度以上のASでは、心肥大による拡張機能障害、弁狭窄による運動時心拍出量増加不良と体血管拡張及び血圧制御機能障害による低血圧、冠血流減少による心筋虚血が生じ得るため。激しい運動をさせてはならないと考えられます。

ASで大事なのは問診です。問診で「胸痛」の“狭心痛らしさ”の程度を確かめます。それから肺疾患や肥満も息切れの原因です。ちなみに「無症状重症AS」が存在すると主張する人がいますが、筆者は信じません。痛み(狭心痛)を感じないことがあっても、動かない人を除き「労作時息切れ」を感じないで済むことは本当の“重症”ASでは不可能です。「無症状」が本当なら「重症」という診断が間違っています。

また、心エコーで連続の式で測定した大動脈弁口面積は実際の弁口よりも小さい値になることが多いです。重要なのは症状と大動脈弁口の圧較差です。無症状の小柄の老人で、小さな左室に計算上のASがあり、しかし圧較差は小さい場合(今流行りのlow pressure gradient AS with normal ejection fraction) はほとんど問題になりません。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

ASは問診が重要。診断がついたら症状が出ない程度まで運動制限をします。症状が出たら手術を考え、手術しない場合はβブロッカーが有効です。

回答:宇野 漢成

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