日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 弁膜症に関するQ >大動脈弁狭窄症と診断されても手術しない患者さんはどういう方ですか
弁膜症 Question 2
□大動脈弁狭窄症は、ご存じのように、加齢による大動脈弁硬化が主な成因で、したがって長寿国日本ではもっとも遭遇する機会の多い弁膜症の一つです。初期診断は、心エコーです。表に準じて、重症度を分類します。
表 大動脈弁狭窄の重症度評価
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン (2010年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010yoshida.h.pdf (2014年10月閲覧)」
□症状のある重症大動脈弁狭窄症は手術適応です。教科書的には、症状がでれば、平均余命は心不全で2年、失神で3年、狭心痛で5年といわれます。ある程度進行するまで無症状なので、症状が出てはじめて、狭窄症を指摘されることも珍しくありません。軽度あるいは中等度とされた場合など、基本的に予防的な手術の適応はありません。
□では、それ以外にはどんな場合、手術をしないのでしょうか(手術希望がない例を除きます)。
■症状がない場合■
□症状のない場合、日本循環器病学会のガイドラインでclass Iとされるのは左室駆出率<50%だけです。これは欧米でもほぼ同じです。2007年Bachらの報告では、重症大動脈弁狭窄症で非手術例のうち29%が無症状で、その1年生存率は94%に対し、71%の有症状例の1年生存率は62%とされます。
□自覚症状の評価は難しいですが、対象に多くの高齢者が含まれるであろうと考えるとこの値は低くないと思います。一方で、無症状例では、1年で平均弁口面積は0.15㎝2狭くなるという報告があります。経過とともに狭窄が進めば、症状が出る可能性も高くなりますので、急速に進行する例も含め、数年後には有症状の高度大動脈弁狭窄症となる可能性を秘めていますので、心エコーによる年1,2回の定期フォローが重要です。また、自覚症状の評価は、自分で行動制限する方もいますので、同世代の人や数年前の自分と比べるような問診方法もヒントになります。
■その他の要素■
□症状があれば手術の絶対適応ではありますが、合併症などの背景により、手術のリスクや予後は変わると思います。年齢自体は禁忌にはなりませんが、年齢による全身状態が悪ければリスクは上がります。また脳血管障害や腎機能障害もおなじ動脈硬化性変化として高度に合併しえますし、呼吸器疾患も手術に影響します。つまり、重要なのは心臓以外の各臓器が開心術に耐えうるかどうかの評価です。
□世界中で広く使用されている評価法にEuro scoreやSTS scoreがあり、これらはホームページで条件を代入することで予測手術死亡率や合併症発生率が算定できます。大動脈弁狭窄症に限りませんが、全身状態の評価した結果、手術しない方針となることがあります。高齢者特有の問題である脳血管障害後遺症やアルツハイマー病による認知機能低下例では、術後のQOL改善が望みにくく、手術適応外と考えられることも多いようです。それでも、本疾患は総じて比較的積極的に手術適応になると感じています。
(2014年10月公開)
回答:淺川 雅子
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