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弁膜症 Question 1

心エコーをオーダーすると軽症から中等症の僧帽弁閉鎖不全という診断に遭遇します。すぐに専門医におくるべきかどうか悩みます

■僧帽弁閉鎖不全の重症度

心エコーにおける僧帽弁逆流の重症度について2010年日本循環器学会ガイドラインではのように分類されます。わが国だけでなく、欧米でもmild、moderate、severe による3段階分類が最近は確立されています。これにtrace(trivial)をいれた四段階評価を使うこともあります。

表 僧帽弁逆流の重症度評価
浅川表.jpg
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン:循環器超音波検査の適応と判読のガイドライン(2010年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010yoshida.h.pdf(2014年10月閲覧)」

■逆流の原因を考える

僧帽弁閉鎖不全症は、本質的に左房左室が拡大し、壁運動は最後まで保たれます。このことを念頭に、逆流の原因と結果を判断します。

逆流=弁膜症ではありません。高齢者の心房細動では僧帽弁逆流を認めることがありますし、逆流シグナルは加齢で増加し、80歳以上の20%に僧帽弁逆流を見るという報告1)もあります。これらは一般には、逆流性雑音は聴取せず、心臓弁膜症よりも左房拡大に伴う機能性僧帽弁逆流と考えられます。

拡張型心筋症では左室拡大に伴う機能性僧帽弁逆流が出現しえます。これらの病態では、左房径や左室径の縮小とともに逆流が減ります。また、逆流性雑音を聴取しない僧帽弁逆流シグナルは弁膜症である可能性は極めて低いと思います。

■もっとも難しい「中等症」

原則として軽症は経過観察か内科治療、高度は手術治療を考えます。注意深い観察が必要、というのが中等症です。一つの指標では限界があるのでいくつかの指標で判断することになります。しかし、指標によっては軽症だったり、中等症だったりすることがあるためにどうしてもその中間と考えざるを得ない状況がでてきます。

ご質問の「軽度から中等度」という表記は、軽度といいきるにはもう少し経過を見たいという印象を受けたときに使用する用語と考えられます。ですから、急いで専門医に紹介する必要はなく、このような例では、経時的な変化を追うために、半年から1年後に心エコーを再検し、左房や左室拡大、ドプラシグナルの悪化がないかどうかを観察します。

とくに僧帽弁逸脱はさらなる腱索断裂や感染などにより突如逆流が悪化する可能性がある病態で、症状の変化が重症化に気づくきっかけとなることがあります。定期検査を続け、変化を認めたときには、専門医に紹介するのがよいでしょう。

ただし、注意が必要なのは、腱索断裂や弁穿孔、感染性心内膜炎、人工弁の弁周囲逆流、生体弁逆流です。これらの疾患が疑われる場合には、たとえ軽度逆流でも専門医に紹介することをお勧めします。おそらく、一歩進んだ精査を行うことになるでしょう。

表の評価法から用いる指標の種類、何を重視するかは施設間でも異なります。ある施設で軽症、別の施設では中等症と判断されることもありうる、という理解も必要です。中等症と高度の間でも同じです。決めかねる時には軽症や高度のみよりも、“中等症”をつけ加えておきたいという心理も働くのではないかと個人的には思っています。

参考文献
1)Stefano G et al. Prevalence of unsuspected and significant mitral and aortic regurgitation. J Am Soc Echocardiogr. 2008;12:38-42
2) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン:循環器超音波検査の適応と判読のガイドライン(2010年改訂版)
3)羽田勝征著 新心エコーの読み方、考え方(改訂2版) 中外医学社

 

(2014年10月公開)

Only One Message

逆流性雑音を聴取せず、かつ無症状の僧帽弁閉鎖不全症は、定期的な心エコー経過観察を行うことが第一選択です。変化をみたら、専門医へ。

回答:淺川 雅子

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