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心不全 Question 24

心不全治療に関するRALES試験について教えてください

心不全では心拍出量と血圧低下に対する生体の代償機序が働いて、腎血流低下によりレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)が、動脈受容体を介して交感神経系活性が著しく亢進します。さらに、アンジオテンシンⅡの増加により、副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌も促進され、昇圧やナトリウム・体液貯留、または収縮力増強と心拍数上昇により重要臓器への血流は保持されます。

しかし、RAASや交感神経系に代表される神経内分泌系因子が過剰に、また長期に活性化されると、心血管系では肥大や線維化などのリモデリングが助長されて、動脈硬化や組織線維化を急速に進展させ各種臓器障害を起こし(文献1)、病態悪化の連鎖が始まることになります。

また、RAASには血中を循環する循環系と組織内局所での作用を発現する組織系のものが考えられており(文献2)()、循環RAASの役割は、血圧や電解質バランスの機能的変化を担う急性の調節系で、組織RAASの役割は、心肥大や血管肥厚、動脈硬化といった局所の構造的変化(リモデリング)に関与する慢性の調節系であると考えられています。

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図 循環RAASと組織RAASの関係(文献3より改変)
環境因子や遺伝因子によって個々の循環RAAS活性は異なるが、組織RAAS活性は種々の刺激にて高まっており、より効率的なRAAS抑制が必要である。循環RAASとは独立して組織RAASは活性化していると思われるため、ARB/ACE阻害薬による抑制のみならず、減塩もしくは利尿薬使用による抑制が期待される。
 

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、アンジオテンシンIからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害することにより、また、アンジオテンシンⅡタイプ1受容体阻害薬(ARB)はアンジオテンシンⅡタイプ1受容体を拮抗してRASSを抑制しますが、ACE阻害薬ではRAASは完全には抑制しきれず、キマーゼを介しアンジオテンシンⅡが産生され、アルドステロンブレークスルーが生じると考えられています(文献3)。

RAAS抑制薬の中で、RASS下流のアルドステロン受容体であるMRを阻害する抗アルドステロン薬には、非選択的なスピロノラクトンと選択的なエプレレノンがあります。これらの薬剤のうち、スピロノラクトンに関する循環器疾患のエビデンスの一つがRALES試験(文献4)です。

この臨床試験では、左室不全による重症心不全に対する標準治療群と、スピロノラクトン追加群を比較することにより、死亡リスクが低下するかを検討しています(無作為割付け、二重盲検試験)。左室駆出率35%以下でACE阻害薬、ループ利尿薬、ジゴキシンによる治療を受けている1663症例の患者に対して、平均追跡期間24か月の中間解析の時点で、スピロノラクトンの有効性が明らかになり試験は中止となりました。

一次エンドポイントである全死亡に対する相対リスクは、スピロノラクトン群において0.70(95%信頼区間:0.60-0.82、p<0.001)であり、この同群における死亡リスクの30%低下は、心不全進行による死亡と心臓突然死の低下によるものでした。

これらの結果から、年齢、心不全の原因(虚血、非虚血)、左室駆出率、NYHA分類、ACE阻害薬やβ遮断薬併用の有無によらず、スピロノラクトンが心不全予後改善に有効であることが示されました。

このことは、既存治療によりある程度抑制されていたRAAS活性には、潜在的にアルドステロンブレークスルーが潜んでおり、抗アルドステロン薬を追加投与することでさらなるイベント抑制効果が得られることを証明したものと考えられます。

しかしながら、少なからず、スピロノラクトンには高カリウム血症と女性化乳房の副作用があり、ACE阻害薬との積極的併用により血清カリウムの上昇に伴う死亡や心不全入院が増加するとの報告(文献5)もあります。

また、RALES試験はNYHA分類のClassⅢまたはⅣの心不全患者を対象としており、軽症心不全患者を対象とした臨床試験ではないことから、スピロノラクトンの心不全早期からの使用には注意が必要です。

文献
1.Struthers AD1, MacDonald TM. Review of aldosterone- and angiotensin II-induced target organ damage and prevention. Cardiovasc Res. 2004;61:663-70.
2.Yoshimura M, Kawai M. Synergistic inhibitory effect of angiotensin II receptor blocker and thiazide diuretic on the tissue renin-angiotensin-aldosterone system. J Renin Angiotensin Aldosterone Syst. 2010;11:124-6.
3.Staessen J, Lijnen P, Fagard R, Verschueren LJ, Amery A. Rise in plasma concentration of aldosterone during long-term angiotensin II suppression. J Endocrinol. 1981;91:457-65.
4.Pitt B1, Zannad F, Remme WJ, Cody R, Castaigne A, Perez A, Palensky J, Wittes J. The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators. N Engl J Med. 1999;341:709-17.
5.Juurlink DN1, Mamdani MM, Lee DS, Kopp A, Austin PC, Laupacis A, Redelmeier DA.  Rates of hyperkalemia after publication of the Randomized Aldactone Evaluation Study.  N Engl J Med. 2004 Aug 5;351(6):543-51.

 

(2014年10月公開)

Only One Message

神経体液性因子を制する者は、心不全コントロールのプロフェッショナルである。

回答:川井 真

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