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心不全 Question 23

心不全治療に用いられるCRTとはどういう装置ですか。誰に使うのですか

重症心機能障害を有する患者では、しばしば心室内伝道障害を合併します。この心室内伝道障害は、左心室の機械的同期性を失わせます。つまり、左室の中隔壁と自由壁の収縮運動の時相がずれてしまい、効率的な収縮ができなくなってしまっている状態です。心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy; CRT)はそれぞれの壁をペーシングすることによって、失われた同期性を回復させる治療法です。

CRTは心機能の改善だけでなく、運動耐容能や長期予後の改善を来し、有効であることが、複数の臨床試験で報告されています。これまでに行われた試験の多くがNYHA III-IVを対象とした試験であり、日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)では、CRTの適応は表のようになっています。最近では、より軽症の患者さんを対象とした試験も行われ有効性が示されています。

表 CRTの適応
ClassⅠ
最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下,QRS幅120 msec 以上で,洞調律を有する場合(エビデンスレベルA)

ClassⅡ a
最適の薬物治療でもNYHAClass Ⅲまたは一時的にClassⅣ の慢性心不全を呈し,LVEF 35 % 以下,QRS幅120 msec以上で,心房細動を有する場合(エビデンスレベルB)
最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下で,ペースメーカが植込まれ,または予定され,高頻度に心室ペーシングに依存する場合(エビデンスレベルC)

ClassⅡb
最適の薬物治療でNYHAⅠ度またはⅡ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下で,ペースメーカあるいはICDの埋込みが予定され,高頻度に心室ペーシングに依存することが予想される場合(エビデンスレベルC)

ClassⅢ
LVEFは低下しているが無症状で,ペーシングやICDの適応がない場合(エビデンスレベルC)
慢性疾患により身体機能が制限されたり,余命が1年以上期待できない場合(エビデンスレベルC)

 「循環器病の診断と治療に関するガイドライン:慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010matsuzakih.pdf (2014年8月閲覧)」


しかしながら、重要な点は心不全に対する必要かつ十分な薬物療法が行われた上で、塩分制限を始めとする患者管理がしっかりと行われた心不全患者のみを対象とすべきであることです。また、別の重要な点は、心室内伝道障害が存在し、非同期収縮が存在する心不全患者が対象となることです。この評価方法として、心電図のQRS幅の延長が一般的です。特に典型的なのは、左脚ブロックを呈する患者です。一方で、QRS幅の延長があっても右脚ブロック症例は効果がないとの報告もありますので注意が必要です。

このような適応患者を考慮してCRT治療を行っても3割程度の患者で治療反応性がない(non-responder)ことも知られています。QRS幅の延長で非同期収縮を評価しますが、機械的同期不全の程度と一致しないこともあります。画像診断を用いた他の評価方法も試みられていますが、non-responderを見分ける信頼性の高い評価方法はまだ見つかっていません。心エコーを用いたPROSPECT試験でも再現性が高く、感度・特異度が高い評価方法は見出せませんでした。Non-responderの他の要因としては、左室ペーシングリードを至適部位に留置困難な場合や留置部位の心筋が瘢痕化している場合などが知られています。

心房細動合併例では、CRTの効果は十分に検討されていません。心房細動の場合はCRTによるペーシングが十分に作動しない可能性があり、洞調律患者より適応を慎重に判断しなければなりません。頻脈によってペーシング率を確保できない場合には、房室接合部アブレーションが考慮される場合もあります。一方、徐脈に対してペースメーカが必要であり、高頻度にペーシングに依存する重症心機能障害を有する心不全の場合には、右室ペーシング単独よりCRTを考慮すべきと考えられています。

さらに、NYHA IV、特に強心薬依存となり、左室補助装置や心臓移植の適応外の心不全患者に対するCRTの効果も一定の見解が得られていません。感染のリスクもあり、このような場合にも適応を慎重に検討すべきと思われます。

(2014年10月公開)

Only One Message

CRTは十分な薬物治療を行った後に、慎重に適応を検討した上で行われるべき侵襲的な治療である。

回答:絹川 真太郎

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