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心不全 Question 18

水だけ出す利尿薬とは何ですか。なぜそういう薬剤が必要なのですか

心不全におけるうっ血のコントロールでは、体液を減らすことが最も効果的であり、うっ血や浮腫を認める場合に利尿薬は良い適応となります。

抗利尿ホルモン(ADH)であるバゾプレシン(AVP)は、視床下部にあるAVP産生細胞により合成され軸索を伝わって下垂体後葉に貯蔵後、血漿浸透圧上昇や循環血液量減少により分泌さます。

バソプレシンが腎集合管のバゾプレシンV2受容体に作用すると、膜に存在する三量体Gsタンパクがカップリングしたアデニル酸シクラーゼが活性化され、アデニル酸シクラーゼ-環状アデノシン一リン酸(cAMP)が増加します(図1)。

図1 各種利尿薬の作用部位
川井図1.jpg

その後、Aキナーゼ(protein kinase A:PKA)を活性化して、小胞体内にある水チャネル、アクアポリン2(AQP2)が管腔側細胞膜へ移動し、膜の水透過性を亢進させることで管腔内の水を選択的に体内へ再吸収し抗利尿効果を発揮します(文献1)(図1)。

心不全においては、亢進したレニン-アンジオテンシン系により、近位尿細管ではアンジオテンシンⅡが、また遠位尿細管ではアルドステロンがNa再吸収を亢進しNa過剰状態となります(図1)。このことは血漿浸透圧の亢進につながり、バゾプレシン分泌促進状態となることでさらにうっ血は悪化します。

また、心不全によるポンプ失調では、血圧低下によっても局所の循環血液量減少からバゾプレシン分泌促進へ傾くことになり、病状は悪循環へと向かいます(図2)。

図2 心不全におけるNa・水バランス
川井図2.jpg

心不全では基本的にナトリウムが蓄積することで、体液貯留が生じるため、浮腫の改善にはナトリウム排泄型(ナトリウム利尿)の利尿薬が第一選択薬となります。しかし、長期に投与すると低ナトリウム血症、低カリウム血症などの電解質異常を誘発して、催不整脈性が問題となります(文献2)。

経口V2受容体拮抗薬であるトルバプタンは、V2受容体対してバゾプレシンよりも約2倍高い親和性をもつため、選択的かつ競合的に阻害する最も強力なV2受容体拮抗薬です(文献3)。従来の利尿薬のような電解質異常等の弊害も少なく、強力な水利尿作用や電解質バランスを是正する利尿薬であり、水分貯留や浮腫に対する短期的な改善効果は強力ですが、血圧や心拍数、腎機能に影響を及ぼしません。

また、従来の利尿薬で体液貯留が改善し難い心不全病態では、トルバプタンの追加投与を行うことで、自由水の排泄を増加して体液貯留状態を急速に改善し、尿中への電解質排泄を助長せずうっ血症状を速やかに軽減することが、他の利尿薬の種類や投与量に影響されずに期待できます。この反面、口渇が強く長期予後改善やリモデリング抑制効果は明確ではないため、今後のエビデンス蓄積が注目されています。

もっとも注意すべき点は、短時間に多量の水利尿が生じるため、血清ナトリウムが急激に上昇し高ナトリウム血症となることで、利尿が増えた場合に生じる口渇に応じて、飲水または輸液することが重要です。急激にナトリウム濃度が上昇した場合には、不可逆的な脳橋部の脱髄疾患である橋中心髄鞘崩壊症(CPM:central pontine myelinolysis)が発症し、意識障害や痙攣といった症状をおこすので注意が必要です。

心不全の初期段階において血圧への影響は少なく電解質異常を来さないため、比較的短期間における心不全治療薬としての強力なツールになりえます。

参考文献
1. Noda Y, Sasaki S: Molecular mechanisms and drug development in aquaporin water channel diseases: molecular mechanism of water channel aquaporin-2 trafficking. J Pharmacol Sci, 96: 249-254, 2004 Review.
2. Eshaghian S, Horwich TB, Fonarow GC: Relation of loop diuretic dose to mortality in advanced heart failure. Am J Cardiol, 97: 1759-1764, 2006
3. Yamamura Y, Nakamura S, Itoh S, et al.: OPC-41061, a highly potent human vasopressin V2-receptor antagonist: pharmacological profile and aquaretic effect by single and multiple oral dosing in rats. J Pharmacol Exp Ther, 287: 860-867, 1998.

Only One Message

その症例、血清ナトリウム濃度が上昇しても大丈夫ですか?

回答:川井 真

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