日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 心不全に関するQ >経口の強心薬はどんな使い方をするものですか
心不全 Question 9
□現在、日本で使用可能な経口強心薬としてはピモベンダン(商品名アカルディ)、デノパミン(商品名カルグート)、ドカルパミン(商品名タナドーパ)、ベスナリノン(商品名アーキンZ)の4つがあります。おおまかにはデノパミンとドカルパミンはカテコラミン類似薬でピモベンダンとベスナリノンはPDE阻害薬となります。ただしピモベンダンにはPDE阻害作用に加えCa感受性増強作用があります。
□経口強心薬についてはこれまでに複数の大規模臨床研究にて心不全患者の予後を悪化させるという結果が示されています。例えば1996年に発表されたPICO trialではピモベンダン(2.5mg/日と5mg/日)投与により運動耐容能は改善したものの死亡率も増加する傾向がみられました。これらの結果より経口強心薬の使用は短期間にとどめできるだけ早期に漸減、中止することが推奨されています。
□つまり重症心不全による血圧低下や末梢循環不全を伴う患者に対して一時的に使うべき薬剤という位置づけです。合同研究班による慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)においても無症状の患者に対して経口強心薬を長期投与することはクラスⅢ(禁忌)となっています。
□生命予後の改善を目標とした場合には積極的使用をお勧めできませんが、QOLの改善を目的とした経口強心薬の使用は理にかなっています。PICO trialでも運動耐容能の改善が認められており、また2002年に本邦より発表されたEPOCH studyでもピモベンダン(1.25mg/日、症状により2.5mg/日へ増量)投与により運動耐容能の改善を認めました(図:The EPOCH study group. Circ J 2002; 66: 149)。またデノパミンによる心不全症状の改善も報告されています(Ikeda M et al. Igaku no Ayumi 1987; 140: 839)。
図 EPOCH studyにてピモベンダンによる有意な運動耐容能の改善が認められた
□強心剤の点滴からの離脱(クラスⅡa)やβ遮断薬導入時の補助(クラスⅡb)のために一時的に使用することがガイドラインでも記載されています。通常β遮断薬導入時にはβ刺激作用を有する薬剤ではなくPDE阻害薬を使います。
□ガイドラインでは経口強心薬としてピモベンダンのみが記載されています。このことは、PDE阻害作用とともにCa感受性増強作用を有するため他の経口強心薬に比べ細胞内Ca2+過負荷による心機能障害が惹起されくいことと関係しているのかもしれません。
□またガイドラインでは「NYHAⅡ度以上で、他の薬剤で症状の改善が得られない場合、QOLの改善のため不整脈の増悪に注意を払いながらピモベンダンを追加してもよい」と記載されています。
□以上をまとめると
①β遮断薬導入時に心不全が増悪する場合、
②経静脈的強心薬からの離脱を目的とする場合、
③他の薬剤で症状の改善が得られない場合
にピモベンダンを少量使うのがよいと考えます。
□具体的には1.25mg/日(分1)を開始し、効果が不十分な場合に限り2.5mg/日(分2)へ増量します。そして目的を達成できたら速やかに漸減、中止します。5mg/日以上の投与は個々の症例でリスクとベネフィットを熟慮して判断します。
回答:手嶋 泰之
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